1876年にグラハム・ベルが発明した電話は、私たちのコミュニケーションを大きく飛躍させた。
それから134年。当初は「音声」に限定されていた通信の守備範囲も「映像」「出版」とさまざまな用途にひろがった。
今後「通信」はどう進化するのか? 通信技術の進歩を支える研究開発の現場から探る。


「振動することで、引っ張られるとか押されるという錯覚を触覚に与え、人間を誘導するのが現在想定している使い方です。犬の散歩中にリードが引っ張られる感じや、小さな動物が手の中で動いている感覚を想像してもらうとわかりやすいかもしれません」
と、手にしている装置のことを紹介する雨宮智浩さん。片手に収まるほどの「ぶるなび」という名前のこの装置は、「触覚」を通して情報を伝達するもので、振動により発生する錯覚を利用し、方角を伝達することを可能にした。雨宮さんは、その開発者である。彼が所属するNTTコミュニケーション科学基礎研究所の感覚運動研究グループは、人間の五感や運動を研究の柱として据えており、心理学や医学、工学などさまざまなバックグラウンドを持つ研究者が集まっている。
2004年から研究開発がスタートした「ぶるなび」。昨年、京都市の消防局と京都府立盲学校と連携し、国のプロジェクトとして実証実験が行われた。
「『視覚障がい者が災害現場から避難する際の誘導に使えないか』というお話を、京都市の消防局の方からいただいたことが、この実証実験を行うことになったきっかけでした。屋内で火災や地震などがあった場合に、騒音や設備の破損により音声の誘導が十分に行えないケースがあるため、それに備えてのことです」
実験は、災害時に屋内から脱出する場面を想定して行われた。被験者である視覚障がい者の方に、ぶるなびの誘導だけを頼りに迷路のゴールまで行ってもらうというもの。ぶるなびにつけた電子コンパスで「どちらを向いているか」という情報と、迷路の交差点に設置した赤外線センサーで「どこにいるか」という情報を、それぞれ取得し、それを基にコンピュータがぶるなびを遠隔で自動制御することで被験者を誘導する。事前のトレーニングなしで、9割以上の方が脱出に成功するという、とてもよい成果が出たそうだ。
「五感を伝える」と聞くと、「料理の映像と一緒に、においや味も伝わればいいのに」といったSFめいたことを想像してしまいがちだが、ぶるなびはその点どうなのだろう。錯覚機能を応用すれば、たとえば遠隔地にいる人同士が手をつないでいるかのように知覚する、ということも可能になるのだろうか。
「ないとは言いきれませんが、そのような応用が最優先かというと、そうではないと私は思います。NTTとして研究開発をするうえでは、もっと社会を支える部分に貢献していくべきだと思っています」
このような志は、NTTの長い研究開発の歴史の中で培われ、脈々と受け継がれてきたものかもしれない。
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日本電信電話株式会社
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
人間情報研究部
雨宮 智浩 氏
触覚をチャネルとした感覚の提示方法を中心に研究。学生時代は、VRの研究に取り組んでいた。 |
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「ぶるなび2」(写真左)と「ぶるなび」(写真右)。手のひらの上にのせて使用すると、引っ張られているような感覚が生じる。最初に開発された「ぶるなび」では1方向のみにしか牽引力の錯覚を与えられなかったが、「ぶるなび2」では、8方向に錯覚を与えることが可能になった。
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