
ネットワークを通じて、高品質の映像を伝送するために必要な技術が、映像符号化技術である。たとえば、地上デジタル放送や携帯のワンセグ放送でも、映像は、符号化(エンコード)されて送信、受信された機器で復号(デコード)されている。
より高品質なハイビジョンなどの映像をエンコード/デコードするには、専用LSIが必要となってくる。
2003年に開発されたハイビジョン対応CODEC LSI、それは地上デジタル放送を中心として現在の放送機器にも使われている。
「1995年に2チップ構成のMPEG-2のエンコーダーLSIから、進化していって、その集大成ともいえるのが、1チップのCODEC LSI。それまで複数のLSIで処理していたものを、世界ではじめて1チップに組み込んだものです。
現在は、次世代光ディスクや携帯のワンセグ放送にも使われているH.264といわれる動画圧縮規格のエンコードチップを開発しています。
NGNネットワークで、IP再送信という、テレビ番組などを光回線を通じて送信するために必要な装置、中でも、ハイビジョンなどの高品質の映像をエンコードするためのLSIの設計ですね。」
H.264の圧縮技術によるエンコードチップは、2007年に発表された。
「MPEG-2を開発したときは、主な利用先が放送局だったので、そんなに感じなかったのですが、今回のH.264は、次世代光ディスクなどのコンシューマ機器にも利用されているので、前回のときよりも開発のスピード、要求は高くなってきましたね。いくら帯域が太くなったとしても、圧縮の要求はありますので、永久に開発していくことになると思います。
双方向ネットワークで、映像のやりとりをすることを考えると、将来的にはワンチップでエンコードとデコードを行うことが理想的ですね。」
双方向の画像のスムースなやりとりとは、テレビ電話のこと?
「テレビ電話というとなんとなく古い感じがしますけど(笑)。双方で解像度が高く、リアリティのある映像のやりとりができるようになるのが、夢ですよね。もちろん、そういった文化とか習慣が根付く必要もありますけど。ネットワークがよくなって、技術が進むと、普通に映像を通じてやりとりできるようになると思いますよ。」
岩崎の携わるLSIの設計とは、素人にとってはどんな仕事か想像がつかない・・・
「まず、どの部分をハードで行い、どの部分をソフトで行うかを考えて、それが決まったら、それぞれで設計を行う。そして、シミュレーションで確認、さらにハードウェアエミュレーターで確認、それから実際のチップを作成することになります。」
実際のLSIのチップを作るまでには、シミュレーションを繰り返す。
「過去は、まったく動かないってこともあったんですけど、現在では、ハードウェアエミュレーターでシミュレーションできるので、動かないってことはないですね。でも、設定とかあるので、1〜2週間はかかりますよ。最終的に、ちゃんと動いたときは、みんな感動ですね。」
他の研究施設に比べて、設備には恵まれているという。
「非常に高性能なハードウェアシミュレーションを、割と自由に使える環境にあるというのは、とっても恵まれていると思います。」
海外での会議にも岩崎は積極的に参加している。毎年2月と8月には大きな国際会議がアメリカで開催されており、それが楽しみだとか。ほかにも大小さまざまな会議が行われているといい、そのなかのDATEという会議で2003年3月、岩崎自身がCMP Design Awardを受賞している。
「各企業とも、そこにむけて新商品、新技術をぶつけてきますから、なかなか華やかで面白いですね。また、同業者と直接情報交換できるので、勉強になります。」
世界各国から研究者、技術者たちが集まってくる国際会議。しかし、そんな国際会議の場でも、岩崎のような女性研究者の姿はあまりないという。LSI開発は、もともと男性研究者の独壇場といってもよいほどの分野だったのだ。なぜ、岩崎はこの道を選んだのだろう。
岩崎は、もともと研究職に就くことを夢見ていたわけではなかったという。大学で計算機アーキテクチャを専攻したのも、プロセッサの機能に興味があっただけだから、とあっさり。それでも、大学4年の就職活動のときには、進路について悩んだという。
「研究職でいくのか、それとも一般職にいくかで迷ったんですけど、工学系で研究しようと決めたんです。だったらとことんやりたい。世に役立つ研究をしたい、と考えた。NTTだったら、もともと国の機関だし、人数も多いので、割と自由にしたいことができるのかなあ、と思い、選んだのです。」
入ったNTTの研究所でも、女性はまだまだ少なかった。
「ただ、女性としてやりにくい、ということはまったくないですね。男女関係なく仕事はできますし。ただ、女性の先輩が何人もいて、そういった人たちが道を拓いてくれたので、私の世代はまだ楽だと思いますよ。私の後の世代はもっと楽かもしれないですね(笑)。」
女性が少ない研究所、さらにほとんど、女性がいないLSIの開発という分野で、岩崎は十数名のチームのリーダーとしてプロジェクトを動かす。
「信念をもってすること。そして楽しくやること。特に若い子たちには楽しくやってもらいたいですね。根っからの楽天主義なんであまり悩んだりしないんですよ(笑)。」
小学生と0歳、二人の子どもを育てる母親でもある。
「実は二人とも、育児休暇をとってないんですよ。仕事が好きなんでしょうね(笑)。よく『大変でしたね』と言われるんですけど、専業主婦やっているよりも楽だと思いますよ。」
子育てに縛られることなく、らくらく仕事をこなしているかのように見せてしまうのも、自らを楽天主義という岩崎の持ち味なのだろう。そんな岩崎だが、休日はどう過ごしているのだろうか。
「土日は、子どもの習い事のつきあいです。最近は、習い事もいろいろあって・・・」
そこには母親としての岩崎の素の姿があった。
