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R&Dマガジン

DREAM 研究者の見る夢

フォトニック結晶の光学物性制御を追求し、デバイスへの応用を進める。

納富 雅也 NTT物性科学基礎研究所 量子光物性研究部 フォトニックナノ構造研究グループ グループリーダー 上席特別研究員全地球的なIPトラフィック急増の中で、ICTを巡る消費電力も拡大の一途をたどっている。ここにおいて、情報ノード部の信号処理への光技術活用が活発に議論され始めている。そこで、これまでその実現を阻んでいた光素子の集積化や超小型化、高速・低消費エネルギーなどの問題を解決する究極の技術として、フォトニック結晶が熱い注目を集め始めている。

今回はフォトニック結晶※研究をリードしてきた上席特別研究員・納富雅也をNTT物性科学委基礎研究所に訪ね、研究者としての素地(そじ)形成や研究への取り組み姿勢などについて話を聞いた。

※「フォトニック結晶」の詳細につきましては、「キーワードでわかる先端技術 Vol.10フォトニック結晶」をご参照ください。



図鑑フリークな少年時代が研究者としての素地を築く

納富は小学生時代をこう振り返る。

「とにかく『なぜ?どうして?』と何でも知りたいという好奇心が強く、図鑑を見るのが大好きな子供でした」

その興味範囲も広く、動物図鑑、鳥類図鑑、魚類図鑑、植物図鑑など、両親にあらゆる図鑑をねだったと語る。

「一方、科学と同時に小説を読むのも好きで、中学・高校時代に最も得意な科目は国語でした。その頃、一時真剣に小説家になりたいと思っていたのです。ですから、大学への進学を意識しだした頃から、文学部に進むか理学系の学部に進むか、と真剣に悩みました」

進路の決断が迫られていく中で、次第に物理学への思いの方がより大きく膨らんでいったのである。 「しかも、素粒子理論などのように仮定を基盤としながら理論を構築していく理論物理学よりは、『実際に自らの手で触れられるものを理解したい』という思いが大きくなっていたんです」


研究テーマを堅持し続ける姿勢が大切

納富 雅也 大学では低温物性の研究室に参加した。折から酸化物超電導の発見などもあり、超電導が時代の花形研究としてもてはやされる中で、研究室の仲間たちも次々と超伝導研究に傾倒していった。

しかし、納富は以前から取り組んできた異方的(Anisotropic)な電気伝導性を持つ、擬一次元物質の低温における電子状態の研究を追求していきたいと、研究テーマを堅持し続けたのである。

「特に、流行に乗りたくないとか、大勢に流されたくないとか、そんな"あまのじゃく"な気持ちだったわけではありません。しかし結果として、擬一次元物質の電子状態の研究を続けたのは私一人となってしまったので、逆に自分の意志や判断に基づいて、自由に研究を進めることができました。今、振り返ってみれば良い体験をできたと思っています」

こうして1988年、納富は東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程を修了。これまでの研究成果を活かしながら、物性制御による具体的なデバイスを生み出したいと考えた。そこで、「加工技術を使って、新しい物性を作り出す」という思いを実現させるために、企業で研究を進めたいと考えるようになった。


新たな研究テーマを求めて

企業の中でも研究のレンジが広く、基礎研究の充実とともに、その成果を具体的な事業にも結実させることができること。さらに、研究テーマの設定などに関しても、研究者個々人への権限委譲や自由度が高い存在は・・・、と絞り込んでいった結果、進路の羅針盤は自然とNTTに向かっていった。

NTTに入社した納富は、光エレクトロニクス研究所に勤務。以来約8年間、nmオーダーの領域に人工的に電子を閉じ込める構造の研究に取り組んだ。同研究期間最後の1996〜1997年は、スウェーデンのリンシェーピン大学に客員研究員として出向。ここで博士論文の追加実験などを行い、論文を仕上げて学位を得た。

納富 雅也 「帰国後、当時の上司からも新しいテーマを自由に考えろといわれていたのですが、テーマを見つけるまでの1年間は、暗中模索状態で精神的にも非常につらい時期でしたね」

そして、光の閉じ込め構造の研究へ歩を進めた。

「当初、『光の波長を考えれば、閉じ込めに求められる精度は電子よりも一桁以上大きくなるので、加工技術的には楽なのではないか…』と考えたのですが、それが甘かったのです(笑)」

納富が取り組んだのは、光の波長にマッチした100nm周期の人工的な構造をもつ『フォトニック結晶』で、それは通常の物質では不可能だった光学的に新しい物性を生み出す可能性を秘めている。通常の物質中では、周波数と波数がリニアな関係で分散する。これに対して、フォトニック結晶の分散は複雑なバンド構造を示し、その中で特定の周波数領域では、導波モードが全く存在しない帯域が生じる。つまり、"PBG(Photonic Band Gap)"と呼ばれるこの周波数領域では、光の絶縁体が実現するのである。この物質を使えば光を強く閉じ込めることが可能になるはずと考えたのだ。

しかし実際には、PBGのその先でnmオーダーの精度が求められていた。


想いを同じにする『同志』を見つけ、増やしていく努力を

「最初の1年ほどは、一人で研究を進めてきましたが、それ以降は製作や測定、解析や通信方式への応用など、さまざまな周辺フィールドのプロフェッショナルたちに声をかけることで、テーマが一気に広がりました。この研究の意義を理解し、協力してくれる人たちの協力を求めて、コミュニケーション活動を続けました。あちこちを巡って協力者を募る活動を、当時私たちは『キャラバン』と呼んでいました(笑)」

納富 雅也 NTTには、広範な研究フィールドや技術分野を先導する研究者が数多く在籍する。また、同じ研究者同士がその思いや熱意に共感し、自らの意志でそれに参画できる自由度の高さや、それをバックアップしてくれる風土もNTTの特徴である。同志を探す納富のキャラバンは、まず部内からスタートし、研究所内全体へ、さらにほかの研究所へと広がっていったのである。

「研究のすそ野や視野を広げる意味で、人的ネットワークをいかに広げるか、というのも私たちの大切な姿勢です。実際自らの研究が、思わぬところで他者の研究とつながったり、その連携からブレイクスルーが生まれたりすることも多いものです。多様な分野の専門家たちとの議論の中で、さらに知見や理解が深まったり、新たな視座が築けたり、そんな喜びがあります。周辺研究にも目を向け、自ら情報を取りにいく努力を堅持していきたいですね」


長いスパンでテーマを展望し、追求して欲しい。

納富 雅也 フォトニック結晶は、光素子自体が抱えていた3つの課題、小型化と効率化、集積化をクリアしてくれるポテンシャルを秘めている。NTTでは多くの専門家を巻き込んだ研究努力が功を奏し、すでにレーザーやスイッチ、メモリ、受光器などの光デバイスを実現している。10〜15年後には、フォトニック結晶による光素子が、電子回路と協調して動作することで、大幅な省電力化とそれに伴う排熱やCO2問題にも福音を与える革新的なグリーンICT時代へと導いてくれることだろう。

光技術を基盤とした物性制御においてイノベイティブな研究を続け、目下その成果の結実に向けてまい進する納富に、研究テーマの見つけ方や取り組み方の秘訣(ひけつ)を聞いてみた。

「私自身も、研究テーマ探しには苦労しましたが、『まず自分自身が興味をもてる』ということが、その後の研究姿勢やモチベーションをドライブする原動力になります。私の研究している光の基本方程式であるマックスウェルの方程式はすでに19世紀に導かれていますが、この方程式からその後次々と新しい物理現象が発見され、光に関する物理的な理解は今もどんどん新しくなっています。確かに数学は、方程式が導かれればそこがゴールかも知れません。しかし物理学では、方程式を導いただけでその背後にある広範な物理現象を理解できたわけではありません。私は人工的なナノ構造を作り、そこでの光の挙動を調べ、この式からどんな新しい光学現象を引きづり出すことができるか、ということに興味を持っています。そうやって具体的なモノを巡る測定や検証などを繰り返すことによって、マクスウェルの方程式の全容が理解されていくのだと思っています」

納富は、その上で近視眼的なトレンドに左右されることなく、5年後・10年後に育っていくテーマを展望し、イメージする姿勢の大切さを以下のように結んだ。

「若い研究者が、流行を追いかけたくなる気持ちは理解できますが、常に『流行の先を創るのだ』と考えて欲しいですね。冷静な視点で、なぜそれが流行を築いているのか、その物理現象の意味をよく見つめてもらいたいと思います。そうすると"その次"が見えてくると思います。ただそういう長い視点での研究はすぐに成果が出るとは限らないので、そこでへこたれずに長いスパンでテーマを追求し、成果の開花に向けてがんばっていただきたいですね」

納富 雅也 最後に、グループの後輩や若い研究者に対して、「研究者としてのビジョンを持つことと同時に、その研究を一般の方にも理解されるような努力も必要だと思います」とも語ってくれた。そんな納富も現在は二児の父となり、街を散策することで気分転換をはかっている。



納富 雅也 NTT物性科学基礎研究所 量子光物性研究部 フォトニックナノ構造研究グループ グループリーダー 上席特別研究員 博士(工学)

1988年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了後、NTTに入社。NTT光エレクトロニクス研究所に勤務。1996〜1997年 リンシェピング大学(スウェーデン)客員研究員として海外勤務の後、1999年に帰国、NTT物性科学基礎研究所へ。2001年より特別研究員となり、2010年には上席特別研究員となる。
入社以来一貫して人工ナノ構造による物質の光学物性制御及びデバイス応用の研究を行う。量子細線、量子箱の研究を経て、現在フォトニック結晶の研究に従事し、現職に至る。
現在 東京工業大学客員講座連携教授、文部科学省国立大学法人評価委員なども兼ねる。
2006/2007年:IEEE/LEOS Distinguished Lecturer Award受賞。2008年:平成20年度学術振興会賞受賞。平成20年度日本学士院学術奨励賞受賞。平成22年度文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞。日本応用物理学会、APS、IEEE、OSA会員。

趣味:海外旅行、散策

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