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研究開発マガジン

研究者の見る夢 VOL.3 “ユビキタス”を実現するために着実に歩む

NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部部長 斎藤洋これからの未来社会に必要不可欠なのが我々の生活に安心・安全をもたらす確固たる社会システム。 それを構築するためのユビキタスネットワークを研究しているのが斎藤洋ユビキタスサービスシステム研究部部長だ。
通信トラヒック、ネットワークアーキテクチャにおいて数々の研究成果を挙げてきた斎藤が、“ユビキタス”の可能性をどのように広げているのだろうか。

より安全でより安心な社会生活を築くために

「ユビキタス」とはよく聞くことばだが、それをひとことで語るのは容易ではない。斎藤は自らが取り組んでいる「ユビキタス」について次のように語り始めた。

「『ユビキタス』とはそもそも『普遍的』という意味をもつもの。一般社会において、コンピュータというと、オフィスなどのデスクの上にある大きなパソコンというイメージを持つかもしれませんよね。でも、カメラや車など我々が日常的に使うモノにも小さなコンピュータが組み込まれている。『ユビキタスコンピューティング』という考え方は、その小さなコンピュータに目を向けようという発想から始まっているんですよ。
コンピュータがひとつだけで動作するのではなく、コンピュータ同士がお互いにネットワークを築くこと。そのことこそが『ユビキタスネットワーク』のはじまりであり、このシステムが社会システムに自然な形で組み込まれていければ、より安全でより安心な生活が送れることになるんじゃないかな」

社会インフラを構築できるはず

残念ながら今はまだ概念のみが先行し、具現化は進んでいない状況。しかし、ユビキタスコンピューティングの発展により、交通、医療、福祉、環境などであらゆる分野で起こっている、そして起こりうるさまざまな問題を解決できるはずだと斎藤は力強く語る。

「まだまだ歩み始めたばかりとはいえ、少しずつユビキタスコンピューティングが取り入れられているといえるかもしれない。例えば、自動車の世界では、今、車の走行中に前方の車との車間距離を自動で計測する装置が一般化され始めている。一方向ではあるけれど、これは自動車に搭載されているコンピュータが前の車とネットワークを築いているということ。

これがもっと進展すれば、道路の路側帯と走行中の車のコンピュータとが相互に情報交換しながら自動的に目的地へナビゲーションしてくれたり、また季節や天候に合わせて信号の間隔やスピード標識を自動的に変更したりといったシステム化ができるようになる。現在は、自動車のような閉じたシステム内での話だが、これが大規模にネットワーク化して連携し始める。そのときには、我々がユビキタスネットワークと呼んでいる通信インフラが必要になる。ユビキタスネットワークという通信インフラが、このようにいろいろなシステムと組み合わさって社会インフラを構築しうるものなんですよ」

9時から6時の勤務で「なんで結果が出る?」

自らの研究を淡々と語る斎藤だが、研究者としての経歴は実に華々しい。多くの論文を書き、2005年には日本では数少ないIEEEフェローに選出。しかも“長年の功績”で選出される研究者が多い中、斎藤は研究内容そのものに高い評価が与えられ、しかも40代という異例の若さだったことも周囲を驚かせたという。そんな斎藤にある後輩の研究者からこんなメッセージが届いたことがあるという。

「私が日本OR学会の文献賞をいただいたとき、その研究が誌面に掲載されるにあたり、ある後輩から『受賞によせて』という“お祝いのことば”が記載されたことが。もちろん、他の受賞者にも必ずそのメッセージはついてくるもので『この先生は大変立派な先生で…』という類の内容が延々と載っているわけ。なのに、私の場合は『9時に来て夕方6時には帰るのに、なんで結果が出るんだろう?』なんて書かれちゃったんですよ。ひどい話でしょ(笑)?」

笑いながらそのエピソードを語るが、限られた時間で結果を残すことは確かに驚くべきこと。研究に向き合うときのモットーやコツはあるのだろうか?

「私がその当時取り組んでいた研究は時間をかければいい結果が得られるわけではありませんでしたからね。時間が必要な研究もありますが、多くの場合、研究は踏み込む前からゴールをしっかり見据えないとダメだと思います。よく、『研究の研究をしたほうがいい』と部下にもいうんですよ。その研究に着手する前に理論・主張などの最終イメージをしっかり固めて、それに向けて装置を作ったり、実験をしたり、測定データをとったり…。

もちろん、結果が思いがけない方向にいくこともある。でも、それは新しい考察すべき課題が見つかったという前向きな結果。イメージも膨らませずになんとなくやっていると『この実験をしなかった』『あの測定をすればよかった』なんてパターンになりがち。もちろんそういうスタイルでも結果が出ることはあるかもしれませんが、私のやり方ではないですね」

設備・環境が研究をサポート

これから取り組むことをシミュレーションすべきと語る斎藤だが、実は電電公社(現NTT)に入社したのは「なんとなく(笑)」という意外な答えが返ってきた。

「他の企業のことをよく知らなかったし、電電公社に入社した先輩も多かった。それでなんとなく決まっちゃって…。でも、魅力に感じたのは研究設備が整っていること。実験装置類は、当時の他の企業より、はるかに充実していたんじゃないかな。ネットワーク系トラヒック理論の研究においても、単なる“机上検討”に終わるのか、それとも私たちのようにあてはめられるフィールドがすぐそばにあるのかでは全く違う。そういう意味では、研究者としては恵まれていたと感じていますよ」

昔は「お笑い」、今は「カラオケ」

小学校3年生と幼稚園年長の娘は“パパ”の仕事を「電話のお仕事」だと認識しているとか。

「独身時代は仕事から家に帰ると、頭を使わずにいられるようにテレビのお笑い番組をひたすら見ていましたね。でも今は小さな娘たちがいるので、もっぱら家族サービス!雨の日は子どもも外で遊べないのでフラストレーションたまるでしょう? だからカラオケに連れて行くと1時間みっちり童謡を歌わされ、こっちがフラストレーションたまっちゃう(笑)。

子どもの存在が研究の励みになっているかはわからないけど、子どもから『元気が出るから』と言って渡された手描きの絵は、いつも鞄のどこかにしまってある。だからといって元気は大して出ていないような気もするけどね…」

照れくさそうに笑うその表情に、小さな娘の成長を願う父親とこれからの社会の発展を担う研究者としての顔が重なった。

NTT未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部部長 斎藤洋
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