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研究開発マガジン

研究者の見る夢 VOL.4 “Win-Win”の姿勢で、IPTVの実現を進める。

研究企画部門 チーフプロデューサ 新ビジネス推進室 川添 雄彦いま、高速で柔軟なIP(Internet Protocol)ネットワークを基盤としたさまざまな映像サービスが、商用化の時を迎えつつある。その中で『放送と通信の連携』を掲げ、技術、コンテンツ、端末機器が三位一体となった強固なスクラムが進められているのである。

そこで今回は、研究企画部門チーフプロデューサとして、放送局や家電メーカーとのアライアンスを進め、2008年1月に『高柳記念奨励賞』を受賞した川添雄彦を訪ね、相互連携の下に新しい価値を生み出す姿勢やIPTV実現に向かう難しさ、楽しさについて話を聞いた。

自らのコアを糧に新たなベクトルを生み出す姿勢を堅持

1987(昭和62)年NTTに入社した川添は、ワイヤレス通信に関する研究開発を担う通信網第二研究所に籍を置く。そこで、ISDNを離島や山間部などのロケーションでもユニバーサルサービスとして提供することを目指し、当時、NTTが保有していた通信衛星『N-STAR』を用いたISDN衛星通信システムの開発に携わる。その後、通信のデジタル化を後追いして、放送のデジタル化が開始する。その技術規格化に衛星の技術者としてNTTから川添が放送事業者とともに参加することになる。これが契機となり、彼の情熱は「放送と通信の連携」に注がれていったのである。

IPを基盤にデジタルテレビ放送を配信するIPTVの商用化を目指す川添は、自身の研究者としての歩みを振り返って「恵まれていた」と語る。

「入社以来、私は常に次代に向かう新たなビジネスフィールド開発の渦中に、身を置いてきました。加速度的な技術進歩を背景に、市場やビジネス環境がめまぐるしく変化するこの時代、10年後の姿を言い当てることはできません。だからこそ、今日まで培ってきた技術やノウハウなど、自らのコア・コンピタンスを活かしながら、大勢に埋もれることなく、ユニークで新たなベクトルを探る姿勢こそが必要なのではないでしょうか・・・。しかし、そんな研究を支援する『懐の深さ』を持った企業は、それほど多くありません。NTTはそんな環境が整備された、数少ない組織のひとつです」

相互の尊重と切磋琢磨を基盤とした『連携』を推進

いまや、1社のリソースだけですべてをカバーできる時代ではない。つまり、自社仕様で市場を独占する『囲い込み』ではなく、企業間や国境の枠を越えて、誰もが自由に活用できる場を共有。その上で、お互いが『強み』を出し合って、より優れたものを生み出すべき時代ではないか。

IPTVの実現にも、そんなオープンなスタンスが大切だ、と川添は力説する。

「例えば、IPを巡る効率的な伝送のあり方や画像圧縮、認証等を巡る技術はNTTの十八番です。一方、放送の中身であるコンテンツの制作は放送局のお家芸です。さらに、それを表示する端末機器の開発では、家電メーカーが専門性を発揮します。IPを基盤とした新しい放送文化やビジネスを築くためには、まずそれぞれが自立性を保持しながら、お互いを尊重しあう姿勢を堅持しなければなりません。その上で、それぞれが高い専門性と知恵を出し合ってスクラムを組む−−−そんな”Win-Win”の『連携』が不可欠なのです」

真のアライアンスに向けた産みの苦しみ

とはいっても、『連携』の重要性を理解してもらうための道は、決して平坦なものではなかった。

その後、放送事業者は次なる放送サービスとして、放送されたコンテンツをサーバに蓄積・保存し、ユーザはそれをオンデマンドで視聴するサーバ型放送の実現を目指す。その技術規格化を実施する「ARIB(Association of Radio Industries and Businesses)」の副主任に川添は就任することになる。しかし当初NTTは、必ずしも参加を歓迎されていたわけではなかった。つまり「放送が通信にのみ込まれてしまうのではないか・・・」、という危惧を抱かれたのである。

「サーバ型放送に求められる大容量データの流通にはブロードバンド回線が必要です。また、番組の内容や付記情報の記述など、コンテンツを効率的かつ汎用的に利用するためのメタデータなどのアプリケーション技術が不可欠です。課金体制の確立やサービス品質を保証し、商用サービスを実現するための技術を総合的に提供できるのはNTTをおいてありません。NTTが展開する幅広い研究成果・サービスを用いて、共通のゴールに至る道筋を提示していく中で、私たちの存在価値や意図が徐々に浸透していきました。その結果、どちらかがどちらかを取り込む『融合』ではなく、お互いがイーブンパートナーとして協力しあい、新しい価値を創造する『連携』が大切であるということを各社が理解し始めたのです」

放送通信連携を推進する次世代IPTV技術の研究開発に対する貢献で、高柳記念奨励賞を受賞。研究協調環境の創出と整備を目指す

【光回線+TV】によって豊富なチャンネルやビデオライブラリから、自由にコンテンツを視聴したり、カラオケを楽しんだりできる『ひかりTV』が、本年3月に本格稼働。これから、『放送と通信の連携』により、続々と新しいコンテンツ・サービスが登場してくる。

この連携を促進し、新たな連携を創造すること、それが、川添の追求するテーマだ。

そこで川添は、独自仕様によるブラックボックスを残すことなく、放送局や機器メーカー、さらには国境の枠を超えてグローバルに合意できる真のオープン環境を築くために、ARIB、IPTV FORUM、ITUなど国内外の標準化協議の場で積極的な働きかけを続けてきた。その姿勢が評価され2008年1月、(財)高柳記念電子科学技術振興財団から、映像情報メディアに関する優れた業績を讃える『高柳記念奨励賞』を贈られた。

NTTには、さまざまな研究フィールドを深耕する研究者や技術者が数多く存在する。川添が担うプロデューサの役割は、きら星のごとく各研究所に広がる研究成果を眺望し、研究者同士を連携させることで次世代の価値創造を進めることだ。 「社内に散在する研究成果の宝の山を発掘する、そんな面白さを感じています。これからの時代は、研究者にも大きく二つのタイプが求められます。つまり、ひとつのテーマをどこまでも深堀する者。そして、それらを鳥瞰しつつ、新しいサービスや価値を創造するために、相互協調の架け橋役を担う者です。私のミッションは後者、言い換えればNTTの研究成果を次代につなげるための新しいシンクタンクの役割である、と自負しています」

有意義なオフタイムで鋭気の充電と発想の醸成を・・・

忙しい日常を支えるのは、満ち足りたオフタイムだ。その意味で、優れた研究者やビジネスマンは、オフの過ごし方でも達人である。

川添は、もっぱら江ノ島での磯釣りでオフタイムを過ごす。「獲物」は、自慢の包丁裁きで自ら調理。釣りの情報や戦果、料理のレシピや写真などを掲載したブログも、太公望や料理好きの人たちの人気を呼び、1日200ヒットというアクセス数を示している。

「ブログを介して知り合った人たちも多く、実際に釣り場で声をかけられることも少なくありません。ブログを見てくれた人たちと釣り糸をたれながら、いつしかその場がオフ会になっています。年齢や職業もさまざまな人たちと一期一会の触れあいがあり、とても楽しいですよ」

IPTVの他に、フィルムを介さず、映画制作や配給現場と各映画館を光アクセスラインで接続し、高精細な映像配信を実現するデジタルシネマの商用化もスタートした。IPTVの可能性もますます拡がっていく中で、今後、広告や不動産、さらに金融など、より広範な産業界との連携を進めていきたい、と意欲を語る川添。

「今までの枠に拘らず新しい事に挑戦する姿勢、常に前向きに学んでいく姿勢が重要です。自己の可能性を現時点で決めつけてしまう必要はありませんし、決められるものでもありません。若い人の種は思わぬ所で開花する可能性を持っています。開花のための土壌を提供することが企業の使命なのです。NTTには豊かな土壌があります。就職活動をされている方には、会社選びの際に、そんな土壌や環境、風土があるか否か、自分自身を活かす場となるのかを十分に吟味して欲しいです。」

彼は最後に、研究者を目指す若い人たちにこのようなメッセージを贈ってくれた。

川添 雄彦 研究企画部門 チーフプロデューサ 新ビジネス推進室

1987年日本電信電話(株)入社。通信網第二研究所にて、衛星通信システム、パーソナル通信システム、無線回線制御技術、誤り訂正技術の研究開発に携わる。2003年サイバーソリューション研究所第一推進プロジェクトにおいて放送と連携したブロードバンドサービスの研究開発プロジェクトのディレクタ/主幹研究員.ARIBサーバ型放送作業班副主任としてARIB−B38の策定に従事する。2008年7月より現職に。
主な著書:「デジタル・コンテンツ流通教科書(インプレス社)」2006年12月初版。

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