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研究開発マガジン

研究者の見る夢 VOL.6 世界中の開発者と連携しながら、オープンで柔軟な開発姿勢を堅持。

NTTオープンソースソフトウェアセンタ 研究企画部門 技術ユニット エキスパート 板垣 貴裕現代の企業活動や社会活動の中で、それをドライブする資産としてのデータの価値はますます拡大しており、その量も加速度的な増加を示している。その中で、データ形式や手順の標準化のもとにデータ管理をつかさどり、システム全体の効率や生産性、リソース活用効率の向上を実現するDBMS(DataBase Management System)のニーズも高まる一方だ。

そこで、世界中の開発者のボランタリーによるコミュニティで運用される“PostgreSQL”の開発最前線を担う、板垣貴裕に会うためにNTTオープンソースソフトウェアセンタ(OSSセンタ)を訪ねた。そこで、オープンソースによる開発のスタンスや意義、そして面白さについて話を聞いた。

人々の役に立つ開発寄りの研究環境を求めて

板垣は中学校の授業でPCに触れ、その面白さに魅了された。

「本や雑誌を読みあさって、プログラミングを独習しました。個々は単純なルールに従いながら、全体として柔軟かつ複雑な発展を遂げていく・・・、そんな生態系シミュレーションのようなプログラムを組んで遊んでいました。つまり、特定のルールを繰り返しながら、次を読んで戦略を立てて自己成長していくという人工生命のようなロジックです」

まだ中学校に情報教育の授業が導入されたばかりの時期であり、現場には指導できる教員がいないというのが実態だった。そこでは、板垣が級友たちにプログラミングの仕組みや操作を教えたり、質問に答えたりしてチューター役を担っていた。

大学進学後も学部、修士課程を通して情報工学を専攻して、ヒューマンインターフェースを主体としたバーチャルリアリティなどを研究。視覚と触覚による存在感の違いなど、人間の知覚と存在の関係を体感することができる『触れることができるアート(Haptic artwork)』や、「光学迷彩(透明人間になれる服)」などとして報道されることも多い『再帰性投影技術』などに取り組んできた。

「大学入学当初から、いわゆる『研究のための研究』や新奇性を追い求めるのではなく、もっと開発寄りの研究・・・つまり、より実用的で人々の役に立つ研究を進めていきたい、と考えていました。そこで、大学に残るよりは企業の研究開発部門に進もうと希望したのです。さらにバーチャルリアリティや音声認識などの研究分野で師事した教授の多くが、NTTの出身者やNTTと共同研究を進めている先生方でした。そんな経緯もあり、進路の羅針盤は自然とNTTに向かっていました」

自由で柔軟な研究者たちの輪で育む研究開発

板垣は2004年春の入社以来、オープンソースソフトウェア(OSS)開発に携わっている。一貫してオープンソースのDBMSである“PostgreSQL”開発プロジェクトに参画してきた。

「このプロジェクトへの参加については会社からのアサインでした。実は、私は入社するまで本格的にデータベースを研究してきたわけではありませんでした。しかし、これまで学んできたソフトウェア技術を活用することができ、長年の夢だった『実用性のある研究』に取り組めることへの期待もあり、自分としても大歓迎でした。さらにオープンソースとして、今後の方向性を自ら決めて行かなければならない点にも惹かれました。世界中の研究者たちがお互いに自由で中立的な視点から仕様を検討しあい、誰もが利用することができる環境の中で選ばれた結果として、自然に『標準』になっていく、そんな動きに関わっていきたいと思いました」

彼は、特定の企業や団体があらかじめ定めた仕様や手順の下で開発を進めるこれまでの『標準』ではなく、市場に選ばれた文字通りの「デファクト・スタンダード」こそが、これからの時代のあるべき姿だと考えたのである。

自由で緩やかなコミュニティを開発母体として

“PostgreSQL”は、各種UNIXをはじめLinuxやWindows、OS/2 など、複数のOS上で動作する。また、関数の追加が自在なストアドファンクションによって、さまざまな言語での実装が可能になっている。

カリフォルニア大学バークレー校の研究用途としてスタートした“PostgreSQL”も、すでにエンタープライズ・システムでの活用が広がっている。市販ベースのDBMSに比べてコスト面でのメリットも大きく、ソースや仕様がオープンにされているので、開発やメンテナンスの生産性や効率も高い。さらに開発や活用の中で、技術やノウハウ、知見などが自社の財産として蓄積できるなど、多くのメリットがあるからだ。

「いまや一社のリソースですべてをカバーしたり、囲い込んだりできる時代ではありません。その意味でもオープンソースシステムは、ソフトウェアにブレイクスルーをもたらす存在です。“PostgreSQL”は、“Global Development Group”と呼ばれる柔軟で自発的な意志に基づくコミュニティによって、開発が進められています。もちろん、それぞれのメンバは何らかの企業や団体、大学などに属していますが、基本的に個人の資格で誰もが自由に参加できる、という緩やかな連携が保たれています」

さらに、世界中の開発者同士の活動は、基本的にメーリングリストやWeb上の掲示板で進められている。メーリングリストでは、日々数十通〜100通にわたるメールが行き来し、相互の役割分担や調整、進ちょく確認をはじめ、質問や回答、アドバイスなども活発にやりとりされている。

「もちろん、実際に顔と顔を合わせる対話も大切です。そこで各国のユーザ会などとともに、毎年1回ワールドワイドなオフミーティングが開催されます。そこでは、今後の開発分担体制やロードマップの確認などが行われます。昨年の『PostgreSQL Conference 2008』はカナダのオタワで開催され(右上写真 手前から2列目一番左が板垣氏)、普段はオンラインでのコミュニケーションしかしていない世界中の“仲間”たちとの連帯感を強く感じました」

このようなカンファレンスは、NTTグループのOSSへの取り組みを世界にアピールし、コミュニティの主要メンバと今後の“PostgreSQL”の方向性を確認するなど、コミュニティと連携していく上で貴重な機会となっている。

ユーザの要件を開発ベースに還元

「オープンソースによる開発の魅力は他にもあります。例えば、世界中のさまざまな人たちが目を通し、厳しい吟味や推敲(すいこう)が重ねられることです。実際、毎年定期的なバージョンアップが図られていますが、リリース後のバグはほとんどありません。また、世界中の異なった環境で活用されることで、より磨かれたものとして鍛えられていくという効果もあります。つまり、さまざまなユーザの声や機能追加、改善要求などが、逐一コミュニティにエスカレーションされるパスが開かれているのです」

板垣の所属するOSSセンタでは、高速データベースローダや差分バックアップツールなどの機能開発による貢献とともに、NTTグループのSI企業群との連携の下、実際のビジネス要件に対応した実装支援や適用サポート、ツールの提供などを推進。さらに実装に先立って、アプリケーション層を含めた3Ter構造での検証や機能試験などもサポートしている。そんなアクティブな姿勢が評価され、板垣は2008年10月にNTT社長賞を受賞した。

「“PostgreSQL”を活用するユーザの要求はさまざまで、十人十色ならぬ「十社十色」。しかも『もう少しスッキリ』や『分かりやすく』など、曖昧な表現で語られるケースも少なくありません。それらをより汎用的な機能要件としてまとめるのも、私たちのミッションです。実は、さらに優れたヒューマンインターフェースの実現を目指す私たちにとっても、特別な知識や経験をもたず、初めて使う方の声を聞くことは非常に貴重なチャンスなのです。『マニュアルがなくても直感的にすぐ使えるシステム』が、最終的な目標となりますね」

企業システムは多くの場合、信頼性を担保する意味から、実績に基づく評価が固まった『枯れたシステム』を望む傾向にある。そこで“PostgreSQL”の今後のマーケティング戦略は、ハイエンドへの挑戦とともに、まず部門DBなどからスモールスタートを切り、その成果をもって基幹システムへスケールアップを図る、という流れが考えられる。

「社内に散在したさまざまなDB環境は、維持管理が煩雑になり、それに伴って目に見えないコストも拡大しています。それらを含めたTCO (Total Cost of Ownership:総保有コスト)を考えれば、 “PostgreSQL”のニーズはますます拡大していくはずです」

裏側を知る喜びが原動力

最後に、個人的な指向やオフの使い方について、板垣は以下のように語ってくれた。

「私は、自分で使いたいものを作るがモットーですので、趣味もソフトウェア構築です。デスクトップで使える『自分が欲しいアプリケーション』をつくる時間が最大のリラックスタイムですね。また “コンピュータの『言語オタク』”を自認する私は、さまざまな言語について、『開発者はなぜこれをつくったのか』という背景や思想を探るのが好きです。もちろん工業製品の意匠や構造、機能についても、その開発意図や狙いをついつい推測してしまいます。裏側を推測して確認する喜び、自分が欲しいものを自分で創る喜びを知っていること、さらにそのために努力を惜しまない姿勢が、開発者に必須の資質です。私たちは、ユーザが『面倒くさい』と感じる全てのことを解消する必要があると思います」

さらに板垣は、自分の信念を持った上で、それを人に伝えられることのできる後輩と議論できるのを楽しみにしていると語ってくれた。

板垣 貴裕 研究企画部門 NTTオープンソースソフトウェアセンタ 技術ユニット エキスパート

2004年、NTT入社。NTTサイバースペース研究所 OSSコンピューティングプロジェクト データベース管理グループで“PostgreSQL”の開発に携わる。2006年にNTTグループがOSSを最適に活用していくことを支援するために発足したOSSセンタへ。“PostgreSQL”のサポート(トラブルシュート、コンサルティング)の傍ら、PostgreSQLのエンジン・コアや拡張機能の開発に参加。また、「PGCon 2008(カナダ)」や「PostgreSQL Conference 2008(日本)」など内外のコミュニティでも活躍。
趣味:プログラム開発

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