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研究開発マガジン

研究者の見る夢 VOL.7 長年の夢と努力が実り、「フレッツ・テレビ」の商用サービスを実現。

NTT情報流通基盤総合研究所 企画部 研究推進担当課長 池田 智テレビアンテナを設置する必要がなくても地上デジタル放送やBSデジタル放送の視聴をFTTH(Fiber To The Home)網によって実現する「フレッツ・テレビ」は、電波による映像受信のように、山や崖など周囲の地形や、高層ビルなどの建造物や高圧線、さらに降雨や落雷等天候変化の影響を受けることなく、常に安定した高画質を享受できる。2008年のサービス開始以来、アンテナ不要のテレビ視聴方法として、IPテレビと共にすそ野をますます広げ、社会に浸透してきている。

今回は、情報流通基盤総合研究所に池田智を訪ね、入社以来その実現に向けて走り続けてきた姿にスポットを当てていきたい。

技術を核に人と人とが「つながる」世界を展望

池田は小学生の頃からPCに親しみ、中学校入学と同時にアマチュア無線のクラブに参加した。

「とはいっても、特にマニアックなラジオ少年だったわけでもなく、たまたま同じクラスの友達につき合って何となく入部した、というのが実際のところだったのです(笑)。しかし、無線機の技術的な面白さとともに、それを使って遠い地域で暮らす人と人とが『つながる』ことができる、という事にも興味を抱きました」

そのような経緯もあって大学、大学院を通じて一貫して通信工学を専攻し、電気フィルタの研究を続けてきた。就職に際しても、技術を基盤として人と人とが「つながる」コミュニケーション文化の担い手であるNTTに魅力を感じて入社した。

「当初から研究職を志望していましたが、入社後の研修で社会生活や産業界に対してのNTTの貢献フィールドの広さを再認識。研修後におこなわれた人事部との配属希望面談の際も、お客さまともコミュニケーションがとれるような、より市場に近い実用化間近の開発に携わりたいという希望を伝えました」

また少年時代からアマチュア無線を続けてきたこともあり、仕事はモバイルではない伝送路に携わりたいとも考えていた。

「ちょうど『ブロードバンド』が、次代のキーワードとしてスポットライトを当てられ始めた時期でした。そこで、FTTH(Fiber To The Home)を基盤に、あらゆる情報コンテンツを、各家庭にまでダイレクトに届けることができる・・・・・・。そんな社会の到来の一翼を担いたいと考えたのです。どうせならば、自分がいままで知らなかった世界に飛び込んでみたいという思いで、光による映像配信を追求したいと考えました」

そんな希望が受け入れられ、横須賀の光ネットワーク研究所(当時)に配属となり、FM一括変換方式の研究に携わり始めた。

大局的な視点で品質設計を進め、最適な「落としどころ」を探る

ケーブルテレビ(CATV)では普通の電波によるテレビと同じように相互の信号を異なる周波数で送ることで、複数の信号を束ねて一本の回線を共用する周波数分割多重化(FDM:Frequency Division Multiplex)が図られている。伝送路の光化によって伝送帯域は飛躍的に拡大するが、この映像信号を光伝送する方式には、大きく強度変調方式とFM一括方式がある。池田はその違いを、以下のような例えで説明する。

「ラジオ放送を思い描いていただけば良いのですが、AM波は遠くまで届きますが、音質の面ではFM放送に軍配が上がりますね。というのも、AMは波の強弱による変調で情報を電波に乗せているのに対して、FMは周波数の幅で変調をしているのです。つまり横方向の幅で変調しているFMの方がノイズ成分など、本来あるべきではない異質なものの影響を回避しやすい、ということになります。そこで、束ねられた複数の映像信号を光ファイバで各家庭に届ける際にも、その経路で発生するノイズを排除しやすいのです。しかもFTTHの場合には、途中で増幅をかけてやれば、ポンプで勢いを増して分配を繰り返す水道システムのように、出口までの距離やユーザ数に関わらずどこでもクリアな情報の再現が図れるわけです」

「フレッツ・テレビ」で使われているFM一括変換方式は、早い時期からCATV事業者と連携をとりながら、映像配信の光化を準備し続けてきたNTT独自の技術で、池田が入社する直前の1995年頃に産声をあげた。

池田の役割は、入力レベルや光レベルから、ノイズを排除した最終的な出口品質までをトータルにとらえた、最適な品質設計を完成させることだった。そこで、プロトタイプを確立し、確かな方式を確立するための努力が重ねられた。

伝送装置や伝送路の非線形性が引き起こす相互干渉などによって伝送信号が歪むと、斜めに線が入るなどの画像障害を招く可能性がある。しかも、各ユーザの環境はさまざまであり、そこに届くまでの歪みの性質もそれこそバラバラだ。そこで、その歪みをどこまで抑え、いかに耐性を向上させるかが研究の核となった。また、総務省からもある程度の品質を支えるための技術基準が提示されていた。池田は当時をこう回顧する。

「これをクリアしつつ、さらなるプラスアルファをどう設定するかなど、よりユニバーサルでベストプラクティスな品質設計の『落としどころ』を探ることがポイントでした」

フレッツ・テレビの商用サービス実現 映像視聴に新地平を拓く

1998(平成10)年に入ると、FM一括変換方式の商用導入に向けた装置開発へと駒を進めた。ここでは、方式の確立を進めて商用に耐えるものとして決定すること。そして装置メーカーと連携しながら装置の評価を進め、各家庭に設置しやすいようにコンパクトな機器の開発という最終フェーズへのツメが進められた。池田の仕事は、さらに市場に直結した実用化のための開発業務にシフトしていったのである。

このようにNTTは、CATV事業者や装置・デバイスメーカーなどとの連携の下に、FM一括変換方式の開発を進めてきた。光化された映像信号を最終的にRF信号としてディスプレイへと導くこの方式は、テレビ受像器などユーザの既存資産環境を活かした形で光化が可能になる。IPテレビのように専用のSTB(Set Top Box)が必ずしも必要とはならないところも大きな魅力だ。そこで、これまでTVの難視聴などの問題に悩んでいた地域に朗報をもたらすものとして、各地からの引き合いも多かった。池田は研究の傍らオホーツク海の近くにある小さな村など日本各地に出張してFM一括変換方式の普及活動にも努め、北米にも出向いて大手通信事業者への提案を進めた。

「FM一括変換方式が商用導入されてからは、いろいろな場所に出かけていって、さまざまな人たちから映像配信のあるべき姿を巡る意見を聞くことができました。これは研究者としての視野を広げる意味でも大きな財産になりました」

こうして、入社以来の努力が功を奏し、「フレッツ光」を利用して地上放送(デジタル/アナログ)とBS放送(デジタル/アナログ)の受信を可能にする「フレッツ・テレビ」のサービスが実現したのである。

さらに研究者の可能性を広げるための支援を進めたい

フレッツ・テレビを商用サービスの実現に導いた池田は、入社以来の希望通り、研究を進めながらそれを市場に送り届け、多くの人たちがその成果を享受する姿を目にすることができた。

2009年10月、その実績を活かすために、現在の情報流通基盤総合研究所に異動し、研究推進を担っている。研究推進のミッションは、NTTの研究者たちがもてる力を最大限に発揮し、そのポテンシャルを活かすための環境整備や支援体制の充実を図ることである。

「現在の私のポジションは、研究者たちに対するサービス業だと考えています。入社以来、ひとつのテーマを追求し続けてきた私は、NTTの中でも珍しい存在かもしれません。改めて見渡してみると、NTTの研究領域は非常に幅広く、さまざまなフィールドで活躍する研究者たちが、日々切磋琢磨(せっさたくま)していることに驚かされます。またわたしたちは、企業グループのみならず、多くのメーカーや研究機関などより広く連携やアライアンスを進めることができます。その結果として多様な企業カルチャーに触れることもできるのです。そんな360°の視野とリソースの広がりも、NTTの研究者であることの魅力だと思います。まだ、現在の役割を担って日が浅いのですが、これからは国内外の企業や大学、研究機関など、外部とのアライアンスにおける素地形成や連絡業務などにも力を注ぎ、さらなる研究成果の開花を支援していきたいと願っています」

千葉県出身でもあり、マリンスポーツが得意。入社後にダイビングライセンスを取得して、サイパンや千葉の海を堪能。幕張勤務の頃には釣りクラブに参加して、太公望振りを発揮した。

現在は、子ども相手に遊ぶことが最大の気分転換と話す池田は、趣味であるスキューバーダイビングやアマチュア無線も封印中だが、いずれは子どもと一緒に趣味を楽しみたいと話す。仕事においても、再び研究職に戻ったら、映像分野でなくとも人と関わり合える開発の仕事をしたいと締めくくってくれた。

(取材2010年2月)

池田 智 NTT情報流通基盤総合研究所 企画部 研究推進担当課長

1995年に日本電信電話(株)入社。光ネットワーク研究所にてFM一括変換方式の研究に携わる。1997年にアクセス網研究所(現アクセスサービスシステム研究所)に異動。1998年よりFM一括変換方式の商用導入に向けた装置開発に従事。2004年に日本CATV技術協会 規格・標準化委員会の技術基準対応WG副主査として、有線テレビジョン放送法を光映像配信に対応するための技術基準改正に寄与。2009年10月より現職。
趣味:アマチュア無線、釣り、スキューバーダイビング

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