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研究開発マガジン

[キーワードでわかる先端技術:vol.2]「高品質」ハリウッドのデジタルシネマを日本で上映する最新技術

世界が注目するデジタルシネマ上映システム

連続した静止画を次々と見せると、その絵が動いているように見える…このパラパラ漫画の原理を応用したものがみなさんもご存じの映画。実際の映画では1秒間に24コマの静止画が使われ、1分の映画なら24×60で1440コマ、1時間で86,400コマ、2時間の映画では172,800コマもの連続した静止画が使われています。フィルムの長さにおきかえれば、2時間の映画で実に3300m!東京タワー約10個分もの高さ。
上映ごとにこの長いフィルムの扱いに奮闘する映画技師さんの苦労は並大抵のものではないはず。しかも、フィルムの運送には、一つの作品を幾つものリールに分けて運送するので上映前につなぎ合わせたり、上映が終わった後にはまた元のリールに分けて送り返したり、最後には裁断して処分する必要があります。そのため、これまでにも検討されてきていたのが、フィルムレスによる映画上映技術の開発でした。
今回紹介するのは、ネットワークを利用して映画のオリジナルデータを映画館に送り、直接上映する世界で初めての革新的なプロジェクト。それが、デジタルシネマトライアル「4K Pure Cinema」です。

2005年10月。シネマ メディアージュ(東京都港区台場)とTOHOシネマズ高槻(大阪府高槻市)の両劇場がこの先進的な「4K Pure Cinema」プロジェクトに参加し、ティム・バートン監督の「コープス・ブライド」を上映。フィルムを使う代わりに、ハリウッドのスタジオと日本の劇場とを高速光回線で結び、ネットワーク配信されたスタジオのオリジナルデータを商業上映するという偉業を世界に先駆けて成功させたのです。そして、今日までの上映作品数は洋画/邦画併せて15本にも。上映時間については10,000時間を超えるなど、継続的な上映が可能なことを証明したのです。

映画館にデジタル革命を呼び寄せるために

映画のデジタル化は、画像の美しさはもちろん、配信や保存性の良さやセキュリティの高さなどから早くから注目されていました。実際、ハリウッドの映画スタジオでは映画の編集工程を中心にデジタル化が進み、メジャー映画のほとんどがDI(Digital Intermediate)というデジタルプロセスによって制作されているほどです。しかし、一方で配給・興行工程のデジタル化は進まず、今でも何巻ものフィルムを届けるというアナログな手法で行われているのです。
この現状を変えるため、世界の7大スタジオが設立した標準化団体のDCI(Digital Cinema Initiatives), LLC. が中心になって配給・興行工程の標準化を策定。2005年7月にその標準規格を発表したのです。そして、そこにはNTTの提唱した800万画素超高精細映像規格が盛り込まれ、その開発・実用化がNTTに期待されたのです。

デジタルシネマの特徴と可能性

配給・興行工程のデジタル化を規定したDCI標準規格は、将来にわたって利用可能な映像品質と拡張性、特にセキュリティと互換性の確保に重点を置いて定められたといいます。特に上映時の画像品質は妥協を許しておらず、“4K”と呼ばれるハイビジョンTVの約4倍の解像度(4,096×2,160:約800万画素)を扱えることを可能としており、NTTでは4Kの超高精細映像技術により、従来の35mmフィルムを凌駕する映像品質で観客の期待に応えています。

デジタル化のメリットは、上映時の映像品質だけではありません。従来のフィルムによる配給では、映画館の数だけフィルムをコピーして配送・回収していた為、コピー時のフィルムの劣化や使い回しによる傷が避けられず、またオーディオ信号のマルチチャンネル化にともなう圧縮技術の開発など、課題が山積していたのです。

デジタル化は、これらのフィルムによる制約を根本から解決し、高品質な映像と圧縮されていないオーディオを劇場にお届けできることになります。さらに、フィルムの手配・管理コストや搬送時間を削減でき、より早い時期に上映が可能になるのです。また、4Kの超高精細画像は、デジタル映像に特有な堅さや平坦さといった特徴がなく、むしろ質感のある奥行きと豊かな色彩を思わせるなど、フィルムが本来持っている表現力を再現しているという声もあるほどです。

配給・興行工程をデジタル化する技術

こうして実現したDCI規格による配給・興行工程のデジタル化ですが、問題がなかったわけではありません。特にハリウッドにあるオリジナルデータを各劇場に配信する時のセキュリティは最大の課題でした。そのため、AES(Advanced Encryption Standard) 規格によるデータの暗号化を採用し、公開鍵をライセンス期間などの個別情報とともにKDM(Key Delivery Message)と呼ばれるフォーマットで暗号復号鍵を配信しています。
また、ハリウッドから送るデジタルデータは、映像データとリニアPCMの音声データ、字幕データなどをひとまとめにして暗号化処理したDCP(Digital Cinema Package)として劇場まで届けられます。その回線には日本までのネットワークには安全かつ大容量に対応できるGEMnet2を利用。拠点間のVPN(Virtual Private Network)による高速セキュアネットワークを構築しています。

劇場側では、送られてきたDCPを蓄積し、KDMから暗号鍵を取り出してデジタルデータの暗号復号をリアルタイムで行える劇場上映システムSMB(Secure Media Box)を用意。デジタルデータによる上映に備えます。SMBはDCPからKDMの情報をもとに画像と音声を復号化して取り出し、さらに字幕をリアルタイムで合成できます。しかも、上映しているデータの正しさを保証し、盗撮時に撮影場所を特定できる電子透かしの生成・埋め込み処理も行っているのです。

デジタルシネマの新時代を拓くために

今回紹介した「4K Pure Cinema」は、100年以上の歴史を持つアナログフィルムの配給モデルに代わり、デジタルシネマの新たな配給モデルを模索する一つの試みとして取り組んできました。今後は上映作品や劇場をさらに増やすとともに、デジタルシネマの普及を推進し、より多くの観客に高品質な映画を楽しんでもらうことが最大の目標です。

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