ページの先頭です。
コンテンツエリアはここからです。
研究開発マガジン

[キーワードでわかる先端技術:vol.8]「燃料電池」“Green of ICT”でCO2削減に貢献する高効率燃料電池の開発

いま、CO2をはじめとする温室効果ガスによる温暖化や砂漠化、資源の枯渇など、地球規模の環境変化が大きな問題となっている。NTTは、電気通信事業者としてICT(Information and Communications Technology)サービスを提供する一方、大きな電力エネルギーを使用する存在でもあり、早い時期からこの環境問題に取り組んできた。特に1990年代後半からのインターネットの浸透やそれに伴うブロードバンドの拡大、さらに携帯電話の普及等の中で、電気通信事業における電力使用量はいっそう増加していることから、環境問題対策の重要性が高まっている。

そこで、NTTでは低炭素社会にふさわしいICTサービスを提供するために、“クリーン”で“高効率”な発電システムである、燃料電池の開発が進められている。今回はその開発状況や成果の一端を紹介していきたい。

電気通信事業者としてICTのグリーン化に取り組む

地球環境への負荷を低減し、社会の持続的発展に貢献するために、「グリーンNTT」を掲げるNTTでは、ICTによる効率化で社会全体のCO2を削減することはもちろん、ICTサービス提供で生じる温室効果ガスの低減にも取り組んでいる。

「CO2を中心とした温室効果ガスの削減に向けて、NTTは2方向からの施策を講じています」
そう語るのは、環境エネルギー研究所・エネルギーシステムプロジェクト・高効率燃料電池システムグループ主幹研究員の荒井創だ。

その一つは”Green by ICT”。つまり、ITCで生産活動などの業務を効率化してCO2排出や資源利用上のムダを排除していこうという動きである。例えば、TV会議や電子メール利用などによる物理的な移動の削減、POS(Point of Sales)データを基盤としたシミュレーションによる商品の生産〜デリバリー計画の最適化、物流における求車情報と荷物情報をマッチングして、帰り荷や空きトラックの荷物を確保することでロスのない配車を行う『求車求荷システム』などがあげられる。

「そして他方は、”Green of ICT”です。これはICTそのものが消費する電力のクリーン化を図る施策です。その一つに、自然エネルギーによる代替の動きがあります。しかし、太陽光や風力から安定的に電力を得るのは容易ではありません。一方、国内発電量の約6割は、発電効率が低くCO2排出も大きい火力発電が占めています。そこで、私たちのグループでは、発電効率を飛躍的に高めることで化石燃料の使用量を削減し、同時にCO2の発生を抑制させたいという考えのもと、高効率な燃料電池の開発に取り組んでいるのです」

独自の固体酸化物形燃料(SOFC)電池開発へ

燃料電池発電(固体酸化物形) 火力発電では、燃料を空気と直接反応させて発熱し、この熱を用いて水蒸気を発生し、タービンを回転させて電気を得るという三段階で発電している。ところが、燃料電池では電解質を介した反応により、電力を一段階で生み出すため、エネルギー変換率が極めて高いという特徴を有している。動力部分が少なく静かなのも長所だ。現在では、環境調和型の発電システムとしてクローズアップされ、家庭への電熱同時供給システム(コージェネレーション)や自動車用電源としての活躍が期待されている。

また燃料電池の出力は直流であり、機器動作や蓄電池バックアップの点から直流給電が行われている通信ビルとの相性が良いこともメリットのひとつだ。高電圧で給電を行うHVDC(High Voltage Direct Current)技術とタイアップすれば、一層のCO2削減に貢献することが期待できる。

「NTTの通信ビルでは発電効率が高い装置が必要になります。そこで、燃料電池の中でも最も発電効率の高い、電解質に酸化物イオン導電体(セラミックス)を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の開発を目指し、1990年代にその材料研究から着手しました」

NTTの化学技術を結集したセル開発で世界トップレベルの出力を達成

燃料電池のベースとなるのは「セル」と呼ばれる発電素子だ。そして、より大きな電力を得るために、セルを幾重にも積層させたものが「スタック」である。換言すれば、これらは発電そのものをつかさどるSOFCの心臓部である。

「私たちのSOFCは800℃と極めて高温で作動し、また通信ビルにおける電力需要の特徴上、長時間連続運転が予想されることから、耐熱性や耐久性に優れた材料が必要となります。セルは、ガスを通さずイオンだけを通す電解質の膜を、空気極と燃料極で挟み込んだ形状となっています。3つの異なった層をセラミックス板作製技術で形成するわけですが、熱膨張係数がほぼ等しく高温下でも相互反応しない材料の選定や、反(そ)りなどの変形や剥(は)がれを生じない焼き入れ技術の確立に苦労しました。幸い、NTTには光ファイバや半導体、記憶媒体や超伝(電)導体のコア技術など、多くの材料・製造法に関する知見やノウハウの蓄積がありましたので、それが大きな戦力となりました」

NTTが開発したセル。左から直径6cm,10cm,12cm。 とはいえ、セル開発にはかなりの努力が求められたのも事実。セルの電極面積を増やして実用出力を得るために、セル径の拡大にも取り組んだが、当初は直径1cm程度の小さなものでしか十分な特性が得られなかった。その後、材料や合成条件の最適化により、面積あたりの出力を維持したまま大口径化が図れるようになり、6cm、10cmと拡大を進め、数年かかって12cmまでの大型化を実現、世界トップレベルの出力を実証した。

セルを積層したスタックでも世界トップレベルの発電効率と長寿命を達成

これを追い風に、プロジェクトは12cmのセルを積層させたスタック開発に歩を進めた。
ガスを漏れることなく各セルに送ることが、スタックの重要な機能である。というのも、漏れたガスは空気にふれて燃焼し、燃料のロスを招くからだ。

ここでは、 積層したセルのひとつひとつに均一にガスを供給するとともに、タワー状に構築されたスタック全体の温度分布を均一にすることが求められる。スタックの素材には堅牢性やデザインに沿った自在な加工性、さらに将来にわたる耐久性やコストパフォーマンスなどを総合的に判断して、耐熱性ステンレスを選んだ。

「高温のスタック内の状況を運転中に目で見たり、触ったりして確認することはできませんので、ガスの流体状況や全体の温度分布、あるいは長期運転時の熱分布や変形、金属疲労などを考慮した設計の最適化に、数値実験やシミュレーションなど、複合的な解析が不可欠です。この面で、さまざまなフィールドにおいて高精度の解析実績を誇ってきたNTTのCAE(Computer Aided Engineering)技術の支援に助けられました。その意味では、私たちが開発している燃料電池は、専門分野や研究フィールドを越えた、まさに部門横断的な研究者同士の協力体制から生まれた成果なのです」

40枚のセルを積層したスタックは、 [17cm×17cm×25cm] の容積約7リットルというコンパクトな筐体(きょうたい)で、一般家庭一戸分相当の電気をまかなえる1.5kwの電力を安定的に生み出すことに成功した。複数のスタックを組み合わせれば、産業用途の大容量の電力を生み出すことも可能だ。

一方、発電装置の発電効率は燃料の燃焼熱(cal)を分母に、「その燃料からどれくらいの電力を得られるか」で表される。こうして算定した火力発電の発電効率が約40%なのに対して、NTTの燃料電池はスタックで最大64%の世界トップレベルを記録しており、システムとしても50〜60%の効率が得られると予測している。
12cmのセルを積層したスタック。1-2kwクラスの電力を安定的に生み出す。
さらに耐用性の面でも、世界をリードしている。
「すでに、1万時間にわたり電圧をほぼ維持して安定稼働することを実証しました。私たちは10%の電圧劣化を『寿命』と規定していますが、現状でも2万時間以上の寿命を見越しており、これも世界最高水準です。今後劣化のメカニズムなどをさらに解明し、一層の長寿命化を進めていきたいと思います」

2〜3年後の商用化実現に向かって・・・

現在本プロジェクトは、スタックを最適な作動温度や条件に保つためのモジュール開発段階に入っている。外部技術も活用して開発を推進した結果、世界最高レベルの特性を実現している。

さらに、ここで完成されたモジュールにガス供給部などの補機を組み合わせ、制御の最適化を図ったシステムに仕上げることで、燃料電池としての完成を見ることになる。
セル、スタックで世界トップレベルのパフォーマンスを実証し、さらにモジュール開発、そしてシステム化で実用化を目指す。
「高効率を追求するためには、燃料の持つエネルギーをロスなく電力に換えることが不可欠です。すでにそのための電極材開発やスタック設計に目途(めど)をつけ、今は運用の最適化を進めています。発電に伴う排熱が使いやすいのもSOFCの特長で、発電に必要な800℃の温度保持にも、排熱を役立てています。温度保持のために別の熱源をもたせたりしたのでは、それこそ本末転倒ですからね・・・。さらに、都市ガスなどの燃料から水素ガス(H2)や一酸化炭素(CO)などを取り出す『改質』にもこの熱が利用できます。燃料はプロパンガスや灯油なども可能ですので、備蓄燃料を用いて災害時にも発電ができる分散電源として、防災貢献も期待できます」

本システムは、まずは外食産業やコンビニなど小規模店舗への導入をターゲットに、2〜3年後の商用化を目指した研究開発が続いており、電力を24時間/365日、継続的に必要とする現場でパワーを発揮しそうだ。さらに大規模化を進め、通信ビルやデータセンタへの適用も推進していく。

(取材協力)
NTT環境エネルギー研究所 エネルギーシステムプロジェクト 
高効率燃料電池システムグループ
主幹研究員 工学博士/荒井 創



フッタエリアはここからです。