

環境にやさしい携帯電話
愛知万博の期間中、会場に常駐していたNTTドコモの展示関係者たちが手にしていた携帯電話は、普通のものとちょっと違う。液晶画面や番号キーの回りのケース、またリアカバー(電池蓋)などが植物を原料とするプラスチックでできているのだ。「環境に配慮した携帯電話を作ろう」というプロジェクトがスタートして1年。2メーカーの試作品100台が、愛知万博会場内で実証試験を兼ねて使用されていたのである。

NTTドコモプロダクト部
廣澤克彦氏
プロジェクトリーダーを務めるNTTドコモプロダクト部第3商品企画担当課長の廣澤克彦は、「携帯電話分野におけるトップ企業として、きちんと環境に配慮した製品づくりを進める責任があると考えました」とプロジェクトの意義を説明する。ただ、「いざプロジェクトがスタートすると、環境に配慮した携帯電話とはどのようなものか、そのコンセプトづくりにずいぶん悩みました」とも。
携帯電話には金・銀・銅・パラジウムなどの希少金属や電池、プラスチックなどリサイクルが可能な材料がたくさん使われている。このためNTTドコモでは1993年から携帯電話や電池の回収とリサイクルを始め、現在回収した携帯電話・PHS・電池などは、100%リサイクルできるようになっている。しかし廣澤が挑んだのは、そこからもう一歩進んで、環境にやさしい携帯電話そのものの開発だった。
廣澤はまず、ケースに植物性プラスチックを取り入れることを決め、端末メーカーに開発協力を打診した。その結果、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(株)と日本電気(株)が試作品を完成させた。それらの素材はすでに音響機器やノートパソコンなどに使われている。
ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(株)の植物性プラスチックは、ソニーが開発したもので、トウモロコシを原料として、それから作られるポリ乳酸※をベースにしている。石油を原料とする通常のプラスチックよりも枯渇性資源の節約を図ることができ、温室効果ガスの発生も少ない。また生分解性があり、放置しても徐々に分解して水と二酸化炭素になる。試作品は現在使用されているmovaと同じスペックで、ケースの表面積比で約60%、約22グラムが使われている。
一方、日本電気(株)の試作品は、ケナフ繊維強化バイオプラスチックを使ったFOMA。ケナフ繊維強化バイオプラスチックは、ポリ乳酸に補強材としてケナフ繊維を添加して耐熱性や強度を改善したもの。ケナフとは、茎が繊維質に富んだ南洋材で、中国や東南アジアではパルプ原料として生産されている。一般の樹木に比べて3〜9倍のスピードでCO2を吸収する。ケースの表面積比で70%、約26グラムが使われている。
「いずれも石油資源の使用量を減らせる植物原料なので、リサイクルなどでも環境に負荷を与えないなどの優れた特徴を持っています」と廣澤。
- ※
- ポリ乳酸…トウモロコシやジャガイモなどのデンプンや糖類を、乳酸菌で発酵させ、さらに化学的に結合して作られるプラスチック

量産化も計画されている。早くて2006年には植物性プラスチックを使った携帯電話を投入したい意向だが、廣澤は、「2つの大きな課題が残っています」と語る。
まずエコ基準の策定。NTTドコモのエコ端末とはどういう基準なのかを明確にしなければならない。そしてNTTドコモ向け携帯電話のすべての機種に適用できるように、耐衝撃性、耐熱性、成型性などについて技術仕様をさらに詰めなければならない。リサイクルの簡素化に向けたシステムづくりも必要だ。
2つ目が、具体的なマーケティング方策だ。試作品は、ケース表面に塗装をしてあるが、よく見るとケナフ繊維の粒々が見える。ファッション性の向上は、製品を世に問う際に不可欠なテーマ。そして、エコ携帯というコンセプトだけでは受け入れられないし、それほど市場は甘くない。お客さまが思わず使ってみたいと感じるような楽しさがあり、そうした企画のなかにエコ携帯を落とし込まなくてはならない。
廣澤は、「環境などの企業の社会的責任の遂行では他社に遅れを取りたくありませんが、かといって焦りたくありません。環境に配慮した携帯電話のコンセプトをじっくりと携帯電話のなかに盛り込んでいけるよう検証を重ねるつもりです」と語る。
1998年にNTTドコモに入社して国際交渉などを担当してきた廣澤の前職は、なんと自動車メーカーのエンジン設計技師。F1のデザイナーをやったり、省燃費型エンジンの開発にもかかわってきた。
「植物性プラスチックを使った携帯電話だけでなく、形状記憶材料を使ったリサイクルしやすい携帯電話、ユニバーサルデザインの携帯電話など開発したいテーマはたくさんあります」
自動車と通信。フィールドはまったく異なるけれど、廣澤の環境と人の明日を見続ける仕事に変わりはない。