


実証実験に参加した主要メンバー
「自然の叡智」をメインテーマに半年間にわたって開催された愛知万博。人間と自然の共生のあり方をさぐるさまざまな展示がなされた一方、“環境万博”の目玉の1つとして取り組まれたのが、日本政府が出展した長久手日本館の電力を新エネルギーで賄う「新エネルギーによる分散型エネルギー供給システム」の実証研究だった。複数の新エネルギーを組み合わせて制御する世界初の大規模実験で、エネルギー制御という重要な役割を担ったのがNTTファシリティーズだった。
「新エネルギーによる分散型エネルギー供給システムの実証研究」は、正式には独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の委託を受けた「新エネルギー等地域集中実証研究事業」という。中部電力(株)を幹事会社とし、NTTファシリティーズなど9つの企業と団体が参画。ちなみに愛知万博終了後も、新エネルギーを活用した未来型の地域エネルギーシステムの実証研究として中部臨空都市(常滑市)に設備を移設し実証研究を継続することが計画されている。
NTTグループとして実証研究に参加したのがNTTファシリティーズ研究開発本部パワーシステム部門主任研究員の角田二噤A同エネルギー事業本部総合エンジニアリング部担当課長の吉本義嗣、NTT環境エネルギー研究所主任研究員の竹内章だ。角田が研究統括、制御システムの設計・評価、吉本がプロジェクトのマネジメント、竹内は発電計画ロジックの研究・設計・評価を担った。

エネルギー事業本部 吉本義嗣氏
実証研究の狙いについて吉本は次のように説明する。
「CO2の削減のために太陽光や風力などさまざまな自然エネルギーの導入が進められていますが、一方で自然エネルギーは天候によって得られるエネルギーが変動し、その変動は連系する電力会社の系統に影響を与える可能性があります。今回の実証研究では、そうした自然エネルギーの変動を、燃料電池や蓄電池を組み合わせることによって商用系統にかける負担を極力少なくするエネルギー制御システムの構築・実証を行うことです」
角田によると、実証研究用発電プラントは、「マイクログリッド※」と呼ばれる考え方にもとづき、3つの電力供給システムを組み合わせて構築されている。つまり燃料電池発電、太陽光発電、電力貯蔵装置である。
(1)燃料電池発電は3つのタイプがある。まず、博覧会会場内のレストランなどから出る生ゴミを原料にしてメタン発酵システムで得たガスを燃料としたり、博覧会会場の造成時に伐採した木材や会場内で発生するペットボトルなどのプラスチックを原料にして得られる高温ガス化ガスを燃料とする「溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)」。2つ目が、作動温度が高く発電効率が最も高い「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」。3つ目が負荷追従性能に優れた「りん酸形燃料電池(PAFC)」である。
(2)太陽光発電は、多結晶や単結晶、アモルファスを用いた3つのタイプを利用する。
(3)変動調整用電源として「ナトリウム硫黄電池(NaS電池)」で電力を貯蔵し、マイクログリッド内の発電設備と電力需要のバランスを調整する。
発電電力は、燃料電池系で1,340kW、太陽光発電で330kWの合計1,670kW。NaS電池は、500kWの入出力ができる。これで長久手日本館のすべての電力を賄い、NEDOパビリオンにも電力を供給する。万博会場の全体の総需要電力は24,700kWなので約1割をマイクログリッドで賄うというものだった。
発電量の変動という暴れ馬をならす
「太陽光など自然エネルギーによる発電は、発電量が刻々と変動します。それらを個々に制御して系統電力と調整するのではなく、マイクログリッド全体として変動を制御したうえで系統電力と調整するエネルギー制御の仕組みが最も重要な部分なのですが、ここをNTTファシリティーズが担当しました」(角田)
しかも使う電力量を予測して結果的にCO2の発生量が最小になるような制御方法を考えなければならない。燃料電池発電では分単位、電力貯蔵装置は秒単位で変動に追随するようになっているが、それらを総合的に管理するのがスケジューリングだ。
竹内は、「発電量の変動を制御するのは、暴れ馬をおとなしくさせるようなものでした」と笑いながら、次のように説明する。
「ある程度の発電量が予測できる燃料電池発電に比べ、太陽光発電は天候に大きく左右されます。そこで翌日の気象予報から太陽光発電量を予測し、電力貯蔵電池の充放電も含めて、各発電システムに分担しました。その結果としてCO2が最小になるような最適スケジューリング手法を考えなければなりません。太陽光発電予測も交えた制御方法の実証研究は世界で初めてのものでした」
- ※
- マイクログリッド…一定エリア内の電力供給のために複数の分散型電源などを組み合わせて制御・運用することで、電力供給システムの経済性や電力供給の信頼度を向上させ、需要先のニーズに併せたより効果的な供給を行うシステム

研究開発本部 パワーシステム部門 角田二郎氏
NTTファシリティーズが、愛知万博での「エネルギー制御システム」実証研究に参画したのは、「まさにNTTグループ施設の電力と建物管理を主要業務としてあらゆる新エネルギーの実現に取り組んできたから」とプロジェクトマネジメントを担当する吉本は語る。
NTTファシリティーズでは早くから燃料電池発電、太陽光発電、風力発電のシステム構築に取り組んでおり、分散電源の課題や制御を熟知している。さらに2000年7月には東京ガス(株)、大阪ガス(株)とともに電力を小売りする(株)エネットを設立しており、「分散型電源の運営だけでなく、系統電力との電力差を調整する方法などに独自ノウハウがあります」(角田)
制御ロジックを担当した竹内は、「燃料電池発電のコスト最小化として研究していた最適スケジューリング技術をマイクログリッドやCO2最小化という考え方に適用しました」と語る。
愛知万博で実証研究が行われることになったのは2003年のこと。実は、その1年ほど前から博覧会協会から新エネルギーに関連する展示が可能か打診されていたという。当初のプランは、愛知県中部地区という大きなエリアのCO2を監視して、それをうけてバーチャルで電力をコントロールしている仕組みを展示するものだった。だが、NEDO技術開発機構の委託を受けて実際に発電プラントを構築し、実証研究することになったのである。
連続稼動させるという実験
NTT環境エネルギー研究所 竹内章氏
実証研究では万博が開幕後、2カ月に1度程度、参画している9企業・団体による全体会議が開かれたり、毎月2回程度、専門研究者が集まる会議が開かれたりして課題が検証された。
研究総括の角田は、「太陽光発電も含めて、これだけ大規模の燃料電池発電を稼働させること自体が実験なのです。分散している各電源が、こちらの考えているとおりに動いてくれるかどうか。実は、当初は動いてもすぐにメンテナンスを求める信号が出たりして、制御パラメーターの調整に追われました。改めて連続稼働させること自体が実験なんだと思いました」と語る。
現地では、NTTファシリティーズを含む各社の担当者が24時間、監視室に常駐してシステムを見ていた。「いくつもの分散電源の制御では、実証研究に参加している各企業ごとにノウハウがありました。実証研究の目標は新エネルギーによる分散型エネルギー供給システムの開発でしたが、24時間、各社の担当者が監視室で課題を共有することでノウハウが結集され、コンソーシアムとしての成果を出せたと考えています」(吉本)
実証研究に参加したことで、NTTファシリティーズは、大きな新エネルギー発電プラントを安定的に動かしていくノウハウ、予測と実績の違いの原因究明、マイクログリッドにおける電力品質の強化策、自立運転検証などいくつもの具体的な成果を得られた。
角田は、「実証研究のプラントは未来型のシステムですからすぐに事業化に結びつくものではありません。しかし、何よりも未来型エネルギーシステムの貴重な実データを豊富に得られたことは、クリーンエネルギーや燃料電池などに早くから取り組んでいる当社技術の蓄積に大きな意味があります。環境とITを結びつけるという企業理念に合致するものであると思います」と語る。
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