主な研究内容
ICTと気候変動に関する国際標準化の動向
ICTの環境影響評価手法の標準ガイドラインを制定
地球温暖化に代表される気候変動問題は年々深刻さを増しており、世界的な取り組みが必要とされています。近年、ICTは急速に普及し、それにともなって環境負荷も増大しており、情報通信システムやデータセンタの省エネ(Green of ICT)が急務になっています。
その一方で、ICTサービスにより従来からのライフスタイルやビジネススタイルが変革され、その結果、ICT以外の他分野の環境負荷(エネルギー消費やCO2排出)を削減すること(Green by ICT)が期待されています。
しかし、その具体的な評価方法については、これまで統一的な基準はなく、企業等が独自に算出したものでした。ICTの環境に及ぼすプラスの側面が注目され、それをビジネスへ活用する流れが生まれるに従って、算出基準の統一化が望まれるようになり、日本環境効率フォーラムではNTTやメーカ各社がメンバー となり、検討を進めることになりました。その結果、2006年3月に、「情報通信技術(ICT)の環境効率評価ガイドライン」を制定し、ICT分野における環境評価手法を提示しました(PDF)。このガイドラインではICTが影響を及ぼす環境負荷の中でも特に地球温暖化に関わるCO2排出をターゲットとして記載されています。
このガイドラインをベースとした「ICTによる環境負荷低減の評価方法」は、NTTが中核メンバーとして参画した総務省主催の「地球温暖化問題への対応に向けたICT政策に関する研究会」が2008年4月に公表した報告書に記載されています。その概要を以下に紹介します。
エネルギー消費削減量をどう定義するか
ICTの進展により、ICT機器・インフラが普及拡大し、それ自身の使用によるエネルギー消費量が増加する可能性がある一方で、「エネルギーの利用効率を改善する」、「物の生産・消費を効率化・削減する」、「人・物の移動を削減する」というICTの利活用によるエネルギー消費量の削減が期待されます。こ こでは、ICTによる環境負荷低減として、具体的なエネルギー消費削減量を、1.ICT利活用により業務の効率化や人の移動・物の消費等が適正化されることによるエネルギー消費削減効果量(Green by ICT)と、2.ICTシステム及びネットワークの使用によるエネルギー消費量との両者の差分として定義します。(図1の式1参照)
(図1)ICTによるエネルギー消費削減量の基本的な考え方
- ICT利活用によるエネルギー消費削減効果量(Green by ICT)
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ICTの利活用によるエネルギー消費の削減効果の取り組み(Green by ICT)には、表1に示すように8パターンあります(総務省ガイドブック「ICT を環境にやさしく活用するために」環境チェックリスト(p11))。ICTの利活用による財・サービスの消費量がわかれば、ICTの利活用によるエネルギー消費削減効果量は、一般に図2の式2-1により算出できます。
まず、ICTの利活用による8つのエネルギー消費削減効果について、それぞれICTシステム導入前後の物量(消費量)を明確化し、次に、物量(消費量) 毎に、財・サービスを1単位消費した時のエネルギー消費原単位との積をとってエネルギー消費量とし、全物量(消費量)の総和をとることで算出できます。把握する物量(消費量)の例および具体的な算出式を図3に示します。 -
(表1)ICT利活用によるエネルギー消費削減の効果
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(図2)ICTの利活用によるエネルギー消費削減量の算定方法
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(図3)ICTの利活用によるエネルギー消費削減効果量の算出式
- 〔2〕ICT使用によるエネルギー消費量
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一方、ICTシステムの使用に伴うエネルギー消費量としては、ICT機器やネットワークの製造・設置等の過程での資源・エネルギー消費、使用段階における電力消費、廃棄・リサイクルされる過程で発生するエネルギー消費が挙げられます。このエネルギー消費量を削減するなどICT自身の環境負荷を低減することが「Green of ICT」です。ICTの使用によるエネルギー消費量は、機器やネットワークの使用量がわかれば、一般に図2の式2-2により算出できます。
まず、使用しているICT機器やネットワークについて、それぞれICTシステム導入前後の使用量を明確化し、次に、使用量毎に、ICT機器やネットワークを1単位使用した時のエネルギー消費原単位との積をとってエネルギー消費量とし、総和をとることで算出できます。把握する物量(使用量)の例および具体的な算出式を図4に示します。 -
(図4)ICT使用によるエネルギー消費量の算出式
評価手法の国際標準化がもたらす意義とは
ICTによるエネルギー消費(CO2排出)削減効果を評価するためには、削減量を算定するための前提となる評価基準やCO2排出原単位等が必要となりますが、従来、共通化された考え方や指標は国際的に確立されていませんでした。もし、評価基準や原単位の設定の考え方が世界で統一化されれば、「Green of ICT」や「Green by ICT」を定量的に算出する国際標準の環境影響評価手法の確立が可能となります。
しかし、標準化についてはいくつか課題があります。特に「Green by ICT」においては、ICTセクターの独善的な手法だと誤解されないように、他セクターからの納得性や妥当性、他国間での比較可能性、公平性、透明性が求められます。
環境影響評価手法の国際標準化が進めば、環境面とビジネス面の両方において、様々なメリットをもたらすと期待されます。ICTの利活用による環境への貢献が世界的に推進され、地球レベルで環境負荷を低減する牽引力になり得るからです。一方で、ICTによる環境ソリューション・ビジネスが国際的に活発化し、日本の国際競争力の強化に資することも期待されます。
もう一つ、環境影響評価手法の標準化がもたらす重要な意味として、利用者(ICTのユーザー企業など)自身のCO2削減活動の取り組みに活用できるということがあります。例えば、日本においては自主行動計画への反映等が考えられます。
また、特に「Green by ICT」については、表1で紹介したように、ICT利活用によるCO2排出削減の8つの効果(人や物の移動の削減、廃棄物の削減、オフィススペースの効率的な利用など)に集約できますが、ほとんどの企業では、これらの効果に関する取り組みをすでに何らかの形で進めています。しかし、自社の取り組みを業務効率化やコスト削減の観点でしか評価しておらず、残念ながらCO2排出削減という観点では定量化していないのが現状です。また、一部の先進企業では、独自に環境影響評価手法を考え、各社各様のツールを使って"ICTによるCO2排出削減効果の見える化"を進めていますが、同じ取り組みでも評価手法によって削減効果量は大きく変わるため、異なる企業の製品やサービスを定量比較することができません。「Green by ICT」の評価手法が国際標準化された暁には、"ICTによるCO2排出削減効果"を定量的に比較できるようになり、企業が製品やサービスを導入する時に、性能や価格だけでなく、どれだけCO2排出量を削減できるかという新たな評価軸で検討することが可能になります。
ITUがICTと気候変動に関するシンポジウムを2008年に開催
ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)は、2007年11月に発表したテクノロジーウオッチ・ブリーフィングレポート『ICTと気候変動』 の中で、5つの項目(【1】気候変動とICTの影響、【2】、気候変動モニタリングに関するICTの活用、【3】地球温暖化に対するICTと協調行動、【4】気候変動に関するITU-Tの取り組み、【5】気候変動に対するITU-Tの戦略と選択肢)を発表しました。この5項目の具体的なアクションプランとして、ITUは、気候変 動問題にICTが果たす役割の重要性を内外にアピールし、ICTを活用した温室効果ガスの排出削減を推進するため、ICTと気候変動に関するシンポジウム を2008年4月に京都、6月にロンドンで開催しました。
この2回のシンポジウムでは、気候変動問題に対応する上で、(【1】ICT機器自体のエネルギー消費削減(Green of ICT)、【2】ICT利活用により他セクターを効率化することでのエネルギー消費削減(Green by ICT)、【3】ビジネス側と消費者側の両方の行動変革、の3つが必要であり、ITUはこれら3分野で大きな役割を果たすことを表明しました。
また、ICTの役割として、「Green by ICT」等のICTポテンシャルの世の中への普及・啓発が重要であることが、共通認識として確認されました。さらに、多くの参加者が指摘したのが、ICT の利活用によるエネルギー消費(温暖化ガス排出)削減量を算出するための国際的合意に基づく共通手法の必要性でした。
NTTの積極的な寄与により、日本の環境影響評価手法をITU-Tに提案
京都、ロンドンの2回のシンポジウムを受けて、2008年7月にジュネーブで開催されたITU-Tの 電気通信標準化諮問委員会(TSAG)にて、日本や英国からの積極的な寄与文書の提出によって、国際標準化を進めるための準備検討会「ICTと気候変動に 関するFG(Focus Group on ICTs and Climate Change)」の創設が提案・承認されました。なお、TSAGとは、ITU-T活動における優先事項、計画、運営、財政問題や戦略を精査するグループで あり、研究委員会SG(Study Group:標準化勧告案を検討するグループ。会期ごとに責任範囲やグループ数が決定される)の作業ガイドラインの策定、他の標準化関連団体等との協調を 調整する役割があります。また、FGはITUメンバーだけでなく、ITU非メンバーの専門家をも含む幅広い参加を求めて、特定の研究テーマについて短期集中的に研究するグループであり、SG(Study Group:研究委員会)とは異なり勧告を策定する機能は持っていません。
この提案につながるTTC(情報通信技術委員会)の「ICTと気候変動に関するタスクフォース」における国内検討において、NTTグループは積極的に寄与しました。また、FG創設後も、総務省の情報通信審議会の下に新設された「気候変動対策ワーキンググループ」を通じて、FGに対してさまざまな戦略的な 提案を実施するとともに、FGの運営においても主導的な役割を果たしました。
FGは、2009年3月に広島で開催された最終会合を経て成功裡に終結しました。FGの活動概要の詳細については、『ITU-Tにおける「ICTと気候変動」の標準化動向』(PDF)をご参照ください。
FGの成果は2009年4月に開催されたTSAGで報告されました。また、FG終了後の検討体制についても審議され、現在はSG5(Study Group 5、「環境と気候変動」問題を中心に扱う研究委員会)にて、具体的な勧告化(標準化活動の中で規格や仕様などを策定し、標準規格として公開すること)に向けた具体的な検討が始まっています。
