NTTグループの技術戦略を統括する宇治則孝副社長に、サービスや研究開発の取り組み状況やNTTのグローバル展開などについて聞きました。

情報通信に関しては世界的に大きな変化が生じています。例えば、通信回線を利用した映像配信や携帯電話向けのワンセグのような放送と通信の垣根を越えたサービスに代表される「サービス融合」の動きがあります。また、皆様ご存知のとおり、クラウドコンピューティングの登場により、サーバやソフトウェアを「所有」するという形態から、それらの機能をネットワークを経由して「利用」するという形態への転換も進んできました。
このような大きな変化の源泉となる新しい技術やサービスは、様々なコラボレーション(連携)の中で生まれています。国内にとどまらず国境を越えた様々なかたちで、異なる業種の企業とのコラボレーションにより、技術、サービス、そして経済的にも大きく発展する、そんなチャレンジ精神をもって臨みたいものです。
私たちは、ブロードバンド・ユビキタス社会の実現に向け、固定・無線ともにブロードバンドネットワークの普及に取り組んできました。長年培ってきた光や無線の技術を活用し、さらにコスト削減に向けた技術開発を進めることで、日本のブロードバンドネットワークは、世界で最も高速でかつ廉価なレベルになっています。光のブロードバンドは日本全国の約90%をカバーしており、NGN(次世代ネットワーク)の提供エリアも、2011年の3月までに既存の光サービスのエリアを概ね網羅する予定です。そして、無線の高速ブロードバンドについては、高速・大容量・低遅延が特長の新たな通信規格であるLTEサービスを「Xi」(クロッシィ)®として2010年12月に提供開始しました。
重要なことは、こうしたインフラを生かして、お客様に対してどのような価値のあるサービスが提供できるかということです。固定と無線のブロードバンドネットワークを使ったサービス提供もどんどん進めていきます。
ブロードバンドを最大限に活用したサービスとして、映像、ホームICT、そしてクラウド、これまでも推進してきたこれらのサービスのさらなる充実と新たなサービスの創出・展開に挑みたいです。
光のIPネットワークを使った映像配信サービスである「ひかりTV」については、すでに利用者が130万を超えております。地上波デジタル放送の再送信、多チャンネル放送、VOD(Video On Demand)などをご利用いただいていますが、2010年は3D映像の配信や、携帯などの端末を利用したリモート予約サービス、BS放送のIP再送信を開始しました。2011年は、研究所を中心として高品質のフルHDの3D映像配信などの実証実験も始める予定であり、より便利で楽しいサービスの提供を進めていきます。
ホームICTについては、2009年12月から大手家電メーカ、オフィス機器メーカの方々をはじめとする多くの企業とアライアンスを組み、共同実験をしておりましたが、基本的な技術検証が完了したため、2010年11月よりフィールドトライアルを開始しました。2011年の春以降いよいよ本格的なサービス始動です。すでに提供しているPC・ネットワーク機器の設定サポートやトラブル対応を遠隔から行うリモートサポートサービスも順調に契約者数を増やしており、今後ホームICTが家庭のコントロールセンタとなって、ホームセキュリティ、映像の共有、医療・ヘルスケア、教育、環境など生活の品質向上や様々な社会的問題の解決に役立っていくと考えています。また、数多くの中小企業に対してもオフィスICTとして同じ技術を基にサービス展開できるので、推進していきたいです。
そしてクラウドに関しては、クラウドを実現するプラットフォームやネットワーク、さらにはパートナと連携してプラットフォーム上のアプリケーションを展開しております。
今、研究所では「オープン」「セキュリティ」「大規模」「分散」「エコ」をキーワードに、クラウドの展開に向けて重要な大規模分散処理基盤と運用管理技術を開発しています。これまでの技術とノウハウを生かし、事業会社と連携をしながら法人向けクラウドや、行政や医療・健康、教育の場へ展開し、安心・安全な社会基盤クラウドに発展させていきたいと思っています。
これらの映像、ホームICT、クラウドを発展させることで、お客様は、場所や端末を意識せずに自分が普段使っている環境へシームレスにアクセスするというのが当たり前になる時代が近い将来訪れます。2011年は、ブロードバンドネットワーク、上位レイヤのサービスや多種多様な端末も含めたFMC( Fixed Mobile Convergence:固定通信と移動通信を融合した通信サービスの形態)がより重要になってくるでしょう。
サービス創造はエンドレスです。単にできるということと、それが使いやすく、かつリーズナブルに提供できるということは違います。携帯電話も自動車電話からショルダー、そして携帯型となり、さらにファッショナブルにもなりました。コンシェルジュサービスやお財布ケータイなど、様々な機能がどんどん生まれており、今や携帯電話から「ケータイ」となり、さらには、スマートフォンの出現も含め、社会生活のあらゆるところで使われるようになってきています。
しかも、私がかつて想像していた以上のスピードでその技術は発展しています。世界的にみてモバイルの契約者数が固定を上回ったこと、ブロードバンドの速度や料金、コンピュータの処理能力やメモリ容量、サーバに大変な量のデータをアップロードできること、これらはすべて驚くべきことです。技術的には可能であることは分かっていたとしても、これだけ早く実現できたということは驚きです。
そのとおりです。ですから、私は研究開発者には、「スピード」だと常に話しています。世の中でサービスしているのがNTTだけなら、このスピードでも良いのでしょうが、世界のあらゆる企業が参画している市場であり、その分だけ多くの技術革新が展開されています。
中でも、クラウドの分野は注目されています。クラウドサービスはコンピュータやネットワーク機器メーカ、ネット関連の新興企業、ソフトウェア業界からも参入していますし、NTTのような電気通信事業者も参入するなど、競争のメカニズムは大きく変化しています。だからこそ、技術革新、競争ともにかなりのスピードを強いられる。お客様のための技術革新を進めながら、こうした競争にも対応していく必要があります。
NTTは日本の電気通信事業者からスタートしていますが、グローバルにICTの技術とサービスを提供する事業者でありたい。技術もさることながら、その技術をどう利活用するかを熟知し、実際のサービスとして提供できる存在でありたいと思っています。グループ全体で約6,000名の研究者を抱える研究開発体制は世界的にみてもトップレベルの存在であり、NTTの競争力、成長力の源です。しかし、技術的にできることと本当に使いやすいサービスにはギャップがあります。コストパフォーマンスや使い勝手の良さなどは、お客様や時代に合うものに改善していかなければならないのは当然です。グローバルで競争しながら、お客様に良いサービスを提供するためにやること、できることはまだまだあります。日本人は良い意味で要求するレベルが高いだけに、日本の技術は成長しているし、グローバルの目線を持って、こうした技術を世界へ展開するのは、良い方向性だと思います。
2010年に南アフリカで開催されたワールドカップサッカーでは映像伝送装置を提供しました。この装置は世界の20以上の放送局で利用され、60以上の国々に高品質な映像を配信しました。これは、通信と放送とのサービス融合の一例です。それから、チリの鉱山で発生した落盤事故の救出現場でも私たちの技術をご利用いただきました。地下の様子を確認するために、TV電話を活用したのを覚えていらっしゃいますでしょうか。実はあれはNTTの技術が利用されていたのです。チリでは鉱山を所有している「CODELCO」という国営会社があるのですが、このCODELCOとNTTは、NTTの研究開発成果を鉱山業界に展開するための合弁会社として「micomo」を2006年に設立しました。このmicomoが地上から開けられた穴に光ファイバを通し、TV電話を設置したのです。もともと鉱山では落盤事故などの可能性があるので、地下での安全管理や通信手段は必要であると考え、micomoを創設していました。その技術が役に立ち、映像を使ったコミュニケーションが救出現場で活躍したのは非常に嬉しいことです。

グローバルというキーワードでいえば、この円高のもと、海外企業とのM&Aにも拍車がかかっていることは日本社会のトレンドです。また、日本のマーケットの伸びが限られてきていることも事実であり、企業を成長させるにはやはりグローバル展開は必須であると思います。成長しているマーケットは世界にはまだまだありますから、そこを見逃す手はありません。NTTグループにおいてもM&Aは積極的に進めています。2010年に買収したDimension Data社は全世界49ヶ国において事業展開をしていますから、NTTに新しい風、マーケットをもたらすことでしょう。また、NTTデータの傘下となったKeane社はアメリカでシステムインテグレーションを主要業務としており、NTTグループのアメリカでの事業展開のキーになると思います。
NTTは、日本の通信会社ですが、今やグローバルなICTサービスカンパニーを目指し、エリア、業務内容も広がっています。この大きな変化を機にいよいよ本格的に世界に向けて動き出していきます。NTTのように製造業ではない電気通信事業者が、ネットワーク事業以外でグローバルに展開し、業務内容も広がっていくということは先進的であり、先駆的な活動になります。NTTグループは、固定・無線の通信事業に加え、上位レイヤサービス、ソリューション、建築・電力、研究開発など多面的なグループパワーを持っていますので、それらの総合力を発揮していければと思います。