NTT R&Dフォーラム2018(秋)基調講演

Smart Worldの実現に向けて

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NTT代表取締役社長 澤田純

本稿では、NTTグループが取り組んでいる「Smart World」の実現に向けた「新たな価値創造」について紹介します。本記事は、2018年11月29〜30日に開催された「NTT R&Dフォーラム2018(秋)」での、澤田純NTT代表取締役社長の講演を基に構成したものです。

澤田 純(さわだ じゅん)

NTT代表取締役社長

スマートシティ

NTTグループは、人々が豊かで幸せになる未来を実現していくお手伝いをしたいと考えています。スマートシティの実現に向けて、数年前より札幌市、福岡市、横浜市、いわゆる政令指定都市クラスの皆様とデータを活用した産官学の連携による、新たな価値創造の取り組みを進めています。今回の講演ではスマートシティの取り組みをさらに強化、進化させたラスベガス市の取り組みと、日本での街づくりの発展、課題解決に向けた新しい取り組みを紹介します。

ラスベガス

NTTは2018年9月よりデルテクノロジーズとのパートナーシップの下、ラスベガス市を舞台にスマートシティの共同実証実験を始めました。ラスベガス市のダウンタウンに設置された多数のカメラやセンサをネットワーク化し、歩行者や交通パターンの情報を解析することで事件の発生を検知し、犯罪の防止につながるシステムづくりをサポートしています。
ネットワークのエッジで認識・検知するものとAI(人工知能)でトレンドを分析・予測をするものを組み合わせたモデルになっており、センシング技術をはじめ、さまざまなNTT研究所の先進的な技術が投入されています。そして、それらをつなぐためにコグニティブ・ファウンデーションという新しいソフトウェア基盤を用意しました(図1)。今後は、より安全性の高いソリューションやトラフィック監視など、機能を拡張していきます。また、ネバダ州においてもスマートシティ化していく動きがあります。
さらに、デルテクノロジーズと米国のNTTグループの営業部隊が連携し、全米にスマートシティソリューションを拡張していく予定です。
NTTグループは、従前より図2のようなB2B2Xモデルを推進しています。NTTグループはファーストB、つまり左側のBであり、パートナーとともに、真ん中のBのメインプレイヤーの方を支えることで新たな価値を生んでいきたいと考えています。
ラスベガス市は、真ん中のBになるわけですが、ファーストBのNTTとデルテクノロジーズは、データを自分では所有しません。ラスベガス市がそのデータを使い、新しい価値を創造するサポートをするのが私たちになります。ラスベガス市の最高情報責任者(CIO)であるMichael Sherwood氏からは、NTTはラスベガスの発展に必要なサイバーセキュリティや、データ管理など、データを使った新しい分野での専門的なノウハウを持つことに加え、ラスベガス市が主役となる(データを自ら所有する)提案がNTTとデルテクノロジーズを選んだ理由と聞いています。データは事業やサービス、あるいは社会生活の基本になっていきます。それを誰が保有し、誰がコントロールをしていくか、日本では地方自治体が保有するべきだと考えています。これを世界規模でも展開していこうと考えています。

図1 スマートシティの事例(ラスベガス市様)

図1 スマートシティの事例(ラスベガス市様)

図2 B2B2Xモデルの推進

図2 B2B2Xモデルの推進

街づくり会社

2018年11月27日まで公開買付を実施していましたNTT都市開発ですが、トータルで95.2%の株を保有することができ、TOBが実現しました。これはNTT都市開発の街づくりノウハウとNTTファシリティーズの建築関係、電力関係のソリューション、さらにはNTTのアセットあるいは他の技術を重ね合わせて、街づくりをお手伝いすることを目的としています。コミュニティ、ダイバシティ、イノベーション、レジリエンスの実現を期待しており、そのためには、IT、通信は必須のツールになります。それらにより私たちが街づくりのお手伝いをし、事業体を広げていくことで世の中に貢献していけるのではないかと考えています。

スマートワールド

次に、スマートワールドについて、いくつかの分野に関する事例を紹介させていただきます。

スマートエンタテインメント

Jリーグ様とは次の新しい観戦スタイルの提供をめざしています。松竹様とは伝統芸能とICTの融合に取り組んでいます(図3)。
2018年11月1日に京都南座が新しく開場され、この中に超高臨場通信技術「Kirari!」の装置を入れていただきました。2019年夏から、この場所で共同公演をスタートさせます。南座は非常に伝統のある施設ですが、新しい伝統と新しい芸術を融合させる試みを進めようと考えています。

図3 スマートエンタテインメントの事例(松竹様)

図3 スマートエンタテインメントの事例(松竹様)

スマートマニュファクチュアリング

JSR様とはプラントのスマート化、コマツ様とは建設・鉱山機械の遠隔制御のサポート、ファナック様とは製造現場のデータ利活用、三菱重工様とは未知のサイバー攻撃の検知と対処のサポートなど、さまざまな取り組みを進めています。特にJSR様のプラントのスマート化では、アクセンチュア様とともに、AI、音声認識、センサを使用して形式知化を行っています(図4)。将来的にはコネクテッドバリューチェーンでいろいろなものをIoT(Internet of Things)で接続し、部分的ではなく、コンビナート全体で付加価値を高める構造にしていきたいと考えています。また、非常に苦労しているのが電池を利用できないことです。電池はショートすると爆発してしまうため、化学コンビナートでは規制上使用できません。そこで、NTTアドバンステクノロジとinQs(インクス)様が開発した色素増感という赤外線等で発電する技術を組み込んだ防爆センサを使用しています。

図4 スマートマニュファクチュアリングの事例(JSR様)

図4 スマートマニュファクチュアリングの事例(JSR様)

スマートモビリティ

トヨタ自動車様とは自動運転を実現する基盤技術、日本郵船様・MTI様とは船舶の安全、環境への取り組み、JR東日本様とはシームレスな移動について取り組みを進めています。
(1) トヨタ自動車様
2018年12月からトヨタ自動車様と本格的な実証実験に入ります。1台、2台の車を走らせる実験はさまざまなところで行われていますが、将来的には数千万台規模のデータを処理する基盤が不可欠であるため、まずは500万台規模の車が走ることを想定した実験を行います。実験では、車から収集したデータをデータセンタで処理し、その結果を他の車へ通知するエンド-エンドでのデータ流通を実現するコネクティッドカー基盤の検証を行います(図5)。このような取り組みを一定の期間、さまざまなケースを想定し、続けていく予定です。トヨタ自動車様と一緒につくる基盤を他の自動車会社を含め、世界でも使えるようなモデルにしていきたいと考えています。
(2) 日本郵船様、MTI様
日本郵船様とMTI様とは、船の内部でのデータを収集しながら、衛星通信等を利用して陸上からもデータを管理することで、燃費の向上、予防保全、安全向上につながる船舶IoTプラットフォームの取り組みを進めています(図6)。コンテナ船をはじめ、いろいろな船に対応させていくとともに、船対船などコネクティッドな世界を実現していきたいと考えています。

図5 スマートモビリティ(トヨタ自動車様)

図5 スマートモビリティ(トヨタ自動車様)

図6 スマートモビリティ(日本郵船様、MTI様)

図6 スマートモビリティ(日本郵船様、MTI様)

中期経営戦略「Your Value Partner 2025」

2018年秋にNTTグループの中期経営戦略「Your Value Partner 2025」を発表させていただきました。国が端末分離の動きを進める微妙な時期でしたが、ドコモにはマーケットリーダになるという考えで料金値下げを発表してもらい、その内容を不誠実にならないよう中期経営戦略へ盛り込みました。振り返ってみますと1985年に固定電話に競争が導入されたときに、端末分離がなされています。固定電話の電話機が分離された結果、電話機の市場が非常に広がりました。端末を分離することで通信市場や端末市場の競争が活性化するべきであり、それが健全な状況ではないかと考えています。一方で、ドコモは厳しくなるわけですが、そのような状況に自らが入っていくことで、マーケットリーダになりながら、より良いサービスをお客さまに提供していく、そういう会社になっていこうという考え方で取り組んでいきます。

今後の動向

今回の中期経営戦略は3年、5年、7年の節目をイメージしています。特に3年以内には5Gが開始され、7年目には固定電話がすべてIP電話に変わります。一方で、社会はグローバリズムとブロックリズムが並存する状態が数年間続くのではないかと考えています。そのような中、2025年の大阪万博の開催が決まりました。NTTとしてもさまざまな取り組みを進め、1年半後の東京オリンピック・パラリンピック、7年後の大阪万博などのビッグイベントにトライしていきたいと思います。
また、ITに関する動向では、ムーアの法則が終焉する中で、新しいアーキテクチャや方式が求められてくる一方、7年後には労働人口の半数がロボット化されるという予測も出ています。言い方を変えると、個人個人がもっと豊かな仕事や文化活動に従事できることを意味しており、私たちもそれをサポートすることで市場が広がるものと考えています。

さらなるフェーズチェンジ

通信あるいはIT事業者としてのフェーズチェンジでは、NTTのビジネスモデルは前述のように、B2CからB2B2Xへ変化してきています。また、端末完全分離により全面競争となり、通信サービスからデジタルサービスへ、インフラはクラウドから仮想化・AI化へ、そしてアクセスは5G・スマートデバイスへ変化していくことになるのではないかと考えています。

中期経営戦略の全体像

NTTは選ばれ続けるYour Value Partnerになりたいと考えており、その実現のため、中期経営戦略では成長投資とコスト削減を両立しながら、利益拡大を図るため、ROIC(投下資本利益率)をKPI(Key Performance Indicator)として導入しました。
中期経営戦略を考えるうえで、NTTグループのミッションは、社会的課題の解決であり、ビジョンとして体現するのが、選ばれ続けるYour Value Partnerです。それにより持続可能な社会(SDGs)とSociety 5.0の実現に貢献していきたいと考えています。NTTグループがもともと持っている公共性と企業性をバランスさせながら、パートナーと一緒に社会的課題を解決していくことが、私たちの使命ではないかと思います。
めざすのはYour Value Partnerですが、主役は人です。イノベーション・技術開発・研究開発を行うのもやはり人です。その規範は、「つなぐ」「信頼」「誠実」です。特に「つなぐ」はネットワークをつなぐという意味もありますが、これからはモノをIoTでつなぎますし、システムもつなぎます。あるいは人と人をつなぎ、現在と未来もつなぐことをお手伝いする概念も含まれています。
中期経営戦略は4つのブロックで構成されています(図7)。お客さまのデジタルトランスフォーメーションをサポートし、そのために自らのデジタルトランスフォーメーションを推進する。同時に人・技術・資産を活用して成長する。そしてベースにあるのは、ESG経営、あるいは株主還元になります。その実現のために10個の施策をセットしました。今回は研究開発に関係するところをピックアップして紹介します。

図7 中期経営戦略

図7 中期経営戦略

(1) 5Gサービスの実現・展開
次のネットワークとして5Gがありますが、5Gは公衆網ですので、これにプライベート、例えば工場内、車内などいろいろなネットワークや機能、システムが足されて、エンド-エンドが連携されたサービスになります。図8の上にオーバーレイソリューションがありますが、社会システムとして提供するには、ネットワークサービスに、いろいろなものをコーディネートとしていく必要があります。さらに5Gといっても、基地局までは光ファイバネットワークですので、トランスポート部分が下にあり、それも連動してもらわなければいけません。つまりすべてをオーケストレーションする機能配備とマネジメントが必要で、それらはソフトウェアディファインド化されていきます。オーバーレイソリューションの1つがラスベガスで行っているコグニティブ・ファウンデーションの事例になります。

図8 5Gサービスの実現・展開(3階層モデル

図8 5Gサービスの実現・展開(3階層モデル)

(2) グローバル事業の競争力強化
2019年7月を目標にNTTコミュニケーションズグループとDimension Dataグループを、グローバルの会社と日本国内をメインとする会社の2つに再編をしていく考えでいます。One NTTのブランドで再編した会社では、お客さまの事業の進化をサポートしていきたいと思っています(図9)。そのために、業界アドバイザリによる成果提供型ソリューション、ソフトウェアディファインド技術を活用したIT as a Service、グローバル調達会社を通じた効率化により、お客さまにデータセンタからアプリケーションまでを統合したさまざまなソリューションを提供します。
しかし、それだけではお客さまのデジタル化は実現できません。革新的創造の取り組みが含まれていないと、魅力的なソリューションにはなりません。そのために、長期的な開発を担う海外研究拠点、そしてグローバルイノベーションファンドをつくりました。イノベーションファンドは、新しい事業を立ち上げるのではなく、中期的に人をベースに新しい事業に取り組みたい方をつなぎ、インキュベーションしていくことが目的です。米国人をヘッドとし、米国に立ち上げました。そして革新的創造推進は、アドバイザリ機能の高度化を担います。短期で、デジタルあるいはスマートワールドをお客さまに提案できるチームです。このように、長期、中期、短期の取り組みをソリューションの中に取り込んでいきます。

図9 グローバル事業の競争力強化

図9 グローバル事業の競争力強化

(3) 研究開発の強化・グローバル化
研究開発については、共同研究を強化します。通信やITを突き詰めていくと、最後は自然、ナチュラルになるのではないか、ナチュラルにならないとお使いいただけないのではないかと考えています。ナチュラルな認識、手法、使い方をもっと研究していきたいと思います。また、非常にセキュリティの高い認証技術や量子計算理論、バイオメディカル技術等、現在よりさらに先の基礎研究については海外を起点に強化をしていきます。成長投資として、現在より1割ほど上げて5年間で2兆円を投入します。これ以外に5Gに関するインフラ構築等の投資を5年間で1兆円投入します。
(4) 地域社会・経済の活性化への貢献
内閣府はスーパーシティ構想、国土交通省ではコンパクトシティ構想が進められています。街をどうしていくか、日本にとって大きな課題になっています。そこにNTTグループの最新技術、設備、拠点を利用し、日本の各地域をサポートできないかと考えています(図10)。最近では、社会主義的(ナショナリズム、ブロックリズム)な動きと自由主義的(グローバリズム、ボーダレス)な動きが対立するような概念があります。ナショナリズム、ブロックリズムはデジュールでスタンダードが決められ、グローバリズム、ボーダレスはデファクトでスタンダードが決められると考えています。これから地域社会と一緒に課題解決を進めていくと、グローバルであり、ローカルであるという意味で、グローカリズムという概念が強く出てくるのではないかと思います。そして、ローカルが7〜8割を占める構造になり、その場合はデジュール、デファクトに対し、デコンセンサスでスタンダードが決まるのではないかと考えています(図11)。

図10 地域社会・経済の活性化への貢献

図10 地域社会・経済の活性化への貢献

図11 Global + Local

図11 Global + Local

(5) 災害対策の取り組み
最後に災害対策の取り組みです。2018年、日本は非常に多くの災害に見舞われました。これまで通信ネットワークの信頼性向上、重要通信の確保、早期復旧の取り組みを行ってきました。今後もさらに、通信インフラを強靭なものにしていかないといけないと考えています。そのため、AIを使ったプロアクティブな災害対策なども必要になってきます。また、外国人の方も増えてきますので、外国語を含めた適切な情報発信の充実にも取り組んでいきます。

中期目標

これまでお話してきた施策を実行することにより、中期目標では、EPS一株当りの利益を5年間で5割増し、コストは8000億円削減していきます。EPS成長は利益で実現したいので、海外売上高は$18Bから$25Bに伸ばし、営業利益率を現在の3%から7%にまで上げたいと考えています。投資の効率的な回収として、ROICは8%にセットアップします。
NTTは$106Bの収入、グローバルの収入比率は、まだ19%ぐらいです。Fortune Global 500では55番目です。一方で、すでに190カ国以上でネットワークサービスを提供しています。データセンタのスペースは世界2位です。そして、30万人ほどの社員がいます。

自己変革を加速し、Your Value Partnerへ

過去1985年の電話収入は全体の83%でしたが、現在は携帯電話の音声収入を入れて18%です。つまりそれ以外がかなり大きくなってきています。これが30年ほどの変化ですが、さらに自らのデジタル変革を推進して、選ばれ続けるYour Value Partnerになっていきたいと考えています。その結果、ポートフォリオがかなり変わっていくとは思います。新たなNTTがどういうNTTになるかを支援いただき、また、一緒に議論させていただきながら、事業を進めていきたいと思います。

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