トップインタビュー 森林 正彰 NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長

グローバル市場で勝つために、世界基準の体制を築く

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NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長 森林正彰

第4次産業革命が世界的に進行する現代、日本がイノベーションにおける国際競争力を保つためには、イノベーションの4つの類型、プロダクト、プロセス、マーケティング、組織、優位性を確立していく必要があると内閣府の平成30年度の年次経済財政報告で示されました。NTTコミュニケーションズがこの波に乗り、国際企業として確たる地位を築くには何が必要なのか、森林正彰NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長に伺いました。

◆PROFILE:1984年日本電信電話公社に入社。2009年NTT Europe Ltd. 代表取締役社長、2016年NTTコミュニケーションズ取締役 クラウドサービス部長を経て、2018年6月より現職。

変化させるのは提供方法。相手の文化や生活習慣を掴んで

NTTコミュニケーションズをグローバル市場で勝てる企業に押し上げるのが副社長のミッションと伺いました。すでに、十分に存在感を示していると感じていますがいかがでしょうか。

私はこれまで、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)をグローバル市場で勝てる会社、競争力のある会社にしたいと思ってきました。それを実現する機会をいただいたと思っています。グローバル事業に関しては、今まさに再編の時期にあり、そのステップを駆け上がっている実感があります。強みを存分に発揮し、このプロセスをどう乗り切るか、真のグローバル市場において強い企業に成長させられるようにしっかりと取り組んでいきたい、これが私に与えられた一番大きなテーマです。
グローバル市場でのビジネスは年々成長しているのですが、まだまだ日本国内の売上のほうが大きいのが実態です。海外においては同じ業界の人はNTT Comのことを知っていても、一般の人で知っている人はまだ少ないですし、ブランドイメージも浸透していません。世界各国において知名度の向上、ビジネスの拡張にもまだ大きく改善の余地があると考えています。
私は米国、香港、欧州と3カ所で15年ほど仕事をしてきたことでおおむね各地域のビジネスの特色を理解することができましたし、海外勤務で日本を外から眺めることもできました。海外にいると日本国内の状況が把握しにくいと思われるかもしれませんが、不思議と日本を離れているときのほうが日本のことがしっかりと見えてきます。この15年で日本、そしてNTTの「強み、弱み」が非常によく分かりました。日本は良い意味でも悪い意味でも非常にユニークです。例えばビジネスでいえば、日本企業の年功序列や終身雇用、採用制度等は独特です。「〇歳にならないと課長になれない」と、日本人は考えますが、日本以外の国の人にとって、これは全く理解できないことです。また、よほどのことがない限り会社を解雇されることはありませんし、昇給の交渉などしない人がほとんどではないでしょうか。しかし、日本以外の国では、一般的には給与も昇給も個人交渉ですから、プロスポーツ選手の年棒ように個人と会社の間で交渉が行われるのが通例です。
また、一般的なことでいえば、サービスの質が圧倒的に良いのが日本です。どこで食べても食事は美味しい、約束どおりに宅配便が届くなど、これだけ丁寧なサービスが受けられる国はほかにはありません。例えば、英国ではまず基本的に宅配便で時間を指定することはできませんし、たとえ時間指定ができたとしてもその時間に来ないということがよくありました。何かの修理を頼んでも時間がかかるなど、日本では当たり前のように受けていた丁寧で誠実なサービスは受けられませんでした。日本では当たり前のこうしたサービスの質はグローバル市場で強みにできるはずです。しかし、日本企業全般にいえることかもしれませんが、その強みの活かし方が上手ではないと感じています。

日本の技術やサービスの質の良さの活かし方を変えるのですね。

日本と英国の鉄道運営を例にとりましょう。日本の鉄道網の運行計画、ダイヤは1分でも遅れたら謝罪をするほど徹底管理されています。英国の地下鉄やバスには詳細な時刻表がありませんし、直前になって「〇分後に〇番ホームに列車が来ます」と駅の電光掲示板等に掲載されるだけです。それなら、英国に日本の正確なダイヤの運行を導入すれば喜ばれると考えますが、それは簡単ではありません。日本のダイヤ運行の仕組みを運用できるシステムがありませんし、そこまでコストをかけて正確なダイヤで列車を運行することを求めていないなど、サービスの考え方に違いがあると思います。「その国の事情に合わせたものを売り込んでいかなければ、売れない」という教訓は、あらゆる国において当てはまると思います。NTT Comのサービスも同様です。日本の品質はとても素晴らしいので、グローバル市場に日本流のサービスを売れば良いと考える人もいると思いますが、単純に品質や機能を訴求しても値段が高いと、「必要がない」と言われてしまいます。
少し前の米国の電子レンジの例が分かりやすいので紹介しましょう。当時より、日本製の電子レンジは材料によって温め方を変えることができるなど高機能でしたが、米国で一般的に使われている電子レンジは温め機能のみのシンプルで安価なものでした。これは、技術の差だけの話ではなく、米国人にとって電子レンジに求めるものといえば「チンという音とともに温まっている」ことだけなのです。「チン」以外の機能を求めていない彼らにとって、高機能の電子レンジは無用の長物ともいえるでしょうし、オーバースペックで高価なものとなってしまいます。この文化の違い、要求されるスペックの違いを理解しないとビジネスは成功しないのです。
私たちは、この文化の違いをしっかりと理解したうえで、まずはグローバルスタンダードなサービスを売り出すことにしました。そして、スタンダードよりも上を望むお客さまには対価を得てオプションサービスを提供するというスタンスで臨むことにしたのです。グローバルスタンダードに合わせた品質のサービスを携え、それ以上のサービスや製品を望むお客さまにもこたえられるオプションもしっかりと用意して、お客さまに選んでいただける体制が最善だと考えています。

NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長 森林正彰

「ソリューション提供」へ大きく舵切り。OJTでの試行錯誤が一番の近道

グローバルで勝てる戦略は文化を理解する、お客さまのニーズを把握することから始まるのですね。

そのとおりです。お客さまの要望を「デザイン思考」の考え方で丁寧に把握し、極力そのご要望に合わせたサービスをいかに効率的に提供できるかがポイントだと思っています。また、私たちはどの強みを前面に押し出して戦っていこうかという点についても社内で議論しています。例えば、桁違いのスケールを保有し果敢な先行投資を行っているAmazonと私たちが提供するクラウドサービスを単に機能の単品で比較するのでは分が悪くなってしまいます。お客さまが望むソリューションを提供するかたちで勝負をしていく方向に舵を切っています。分かりやすくいえば、レストランにインスタントラーメンは食べに行かないですよね? レストランにお客さまが望むのは、食事そのものに加えて、スタッフによる充実したサービス、店のインテリアや雰囲気、心地良い環境も含め、自分たちの目的に合った食事を楽しむことです。インスタントラーメンを食べるのなら、わざわざレストランに行かなくても自宅で食べれば十分です。
話をクラウドサービスに戻しますと、インスタントラーメン(単品のリソース)のみを提供するのではなくて、どのようにどんな食事(クラウドソリューション)をどのような環境で召し上がりたいか、本当に欲しいものは何かをしっかりと伺って、ふさわしいものを提案するという方法に、仕事のやり方を変えなくてはいけないと思っています。そのためには、お客さまのビジネスを理解し、技術的な知識も豊富でデザイン思考に基づいて最適な提案ができる人材が多数必要になりますが、まだまだこうした人材は足りません。しかし、ポテンシャルを持っている人は多く存在します。そうした人たちには実際のビジネスにおいてどんどん経験を積んでもらいたいと考えています。研修や座学でもある程度の知識は身につきますが、すべてを学ぶのは難しいですよね。言い古されたことかもしれませんが、優秀な先輩に帯同して先輩の仕事をつぶさに見て、自分も提案をして失敗を繰り返して学ぶことが一番の近道なのです。私は欧州就任時に、現地の社員が優れた先輩社員に新人を帯同させて仕事を覚えさせていたのを目の当たりにしました。最初はおぼつかない新人も2年後にはトップセールスを記録するほどに成長しているケースもありました。このやり方を見たときにこれが一番手っ取り早いのだと実感しました。

これまでも改革を推し進める、あるいは大きな事業に挑む等、大事な局面に臨まれたことはありますか。

いろいろと貴重な経験を積ませていただきましたが、もっとも印象深いのは香港就任時のデータセンタ事業です。過去にデータセンタを買収、保有するも、バブル崩壊とともに無駄な資産となってしまったという失敗事例があり、周囲の反対の声の中、ほとんど使われていないデータセンタビルを保有する会社を見つけて買収し、本格的なデータセンタ事業を立ち上げました。当時、香港のNTT Com Asiaのトップだった私は、部下たちの話を聞き、絶対に成功するという確信を得ていました。ポジティブに考え、成功すると信じ切って迷わず決断しました。上席への説明に際しては、周囲の声に惑わされず、自分の目と耳を信じて、ブレずに判断を下すという仕事のやり方をして理解を得てきました。さらに2009年に行ったNTT EuropeとNTT Europe Onlineの統合も大変貴重な経験になり、今から行うグループでのグローバル事業再編の予行演習にもなりました。今回の再編についてはこれら経験もあり、極めてポジティブに考えており、あまり心配しておりません。不安そうな社員を見かけた際には、前向きに考え心配しないでほしいと伝えていきます。
多くの場合、2つの企業があってそれぞれ協働せよという命を受けたとき、どうしても自分が所属している会社のことを中心に考えてしまうものです。何かのプロジェクトについて考えるとき、ミーティングで一緒に考えてきたとしても、その議案を持ち帰ってまたそれぞれの企業内で相談するという事態になります。しかし、1つの会社に統合すると帰るところが1つになりますから、おのずとまとまっていくのです。欧州での2つの会社の統合を行ったときもその経験をしました。流れをコントロールさえすれば自然に流れていきます。この流れを方向付けするのが難しいのですが、トップから明確に繰り返し戦略や方向性のメッセージを伝えていくことが大切です。すべてを向かうべき方向に設定していかなくてはなりません。今回のグローバル事業再編のミッションは大変ですがとても楽しくやりがいのある仕事です。もともとポジティブに考えるのが信条ですから、あまり悩むことはなく良い方向にしか進まないと考えています。

これまで受け継がれていたDNAに加えて新しい伝統が築かれるときなのですね。

加えて重要なのはパートナリングです。NTTは歴史的に、「自分で何でもやりたい」「自分たちのつくったものを売りたい」という感覚を持った人が多い会社です。もちろん自前の技術や強みを持ってサービスを差別化していくことは極めて重要です。しかしながら、すべてを自社で手掛けるのではなく、優れたシステムやサービスを持った企業や人としっかりとパートナリングして、エコシステムを築き、ソリューションを提供していくスタイルにしないと、ビジネス市場で取り残されてしまいます。競合すると考えられる企業でも、実際には競合する分野は一部分であり、別の側面から見たら手を組んだほうが良い場合もあります。「敵の敵は味方」というように、競合する企業と手を組んでビジネスを発展させるような柔軟な姿勢も大切だと思います。世の中に良いものが出てきたときに、それと同じことを後追いでやっていては手遅れです。自分たちのリソース、投資できるお金も限られていますので、すべてに自前主義の姿勢を貫くことはできません。繰り返しますが、自分たちがめざす方向、自らがすべきことはこれだと定め、同時に世の中にある優れたものを活用してサービスを提供していかないと私たちのビジネス市場では勝ち残っていけません。
この考え方はだいぶ社内に浸透してきましたが、さらに加速させたいと思っています。しかし、明確なビジョンを持って取捨選択をしないと舵切りを誤ってしまいます。トップに課せられているのはこの裁量です。パートナリングが重要だと話しましたが、対極にあるのが自分たちの技術をどうやって活かすかの考え方です。他社の技術を売るだけでは我々の存在意義がありません。確たる技術を持っていないと自分たちの強みが出せませんし、パートナリングも実現しません。幸いにも私たちNTTには研究所で開発した技術があります。この技術を活かして、それを含んだソリューションを今まで以上に提供していかなくてはなりません。

NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長 森林正彰

成長のキーワードはスピード、アジャイル、そして、ポジティブ

副社長が考える研究所のあり方、そして期待を寄せている技術を教えていただけますか。

前職でクラウドサービスを手掛けていたこともあり、クラウド関連の話をさせていただくと、例えばデータの秘匿化や秘密計算といった研究所のセキュリティ関連技術には期待を寄せています。クラウドサービスを利用されるお客さまもデータのセキュリティには高い関心を持たれていますので、我々の強みの1つとしてサービス化を実現させたいと思っています。弊社の技術は世界的に競争力が高いですし、研究所も先駆的な技術を携えています。研究者の方にはどんどん新しい技術をスピーディに世の中に出してほしいと思っています。完璧な状態ではなくても良いので、新しいアイデアを早く商用として実際に使えるかたちにしていただきたい。完璧を求めると時間がかかって機を逸してしまいますから、ある程度できたら世の中に出して、フィードバックを受けながら次のステップを研究開発するという、いわゆるアジャイルな研究開発で臨んでいただければとてもありがたいです。

社員の皆さんにも一言お願いできますか。

NTT ComをはじめNTTグループには非常に優秀な社員が数多くいます。会社として、まだその人材を十分に活かしきれていないとも思っています。1人ひとりがもっと大きな仕事、責任のある仕事を担えるような体制、環境にしたいですし、皆さんにも自発的に動いていただきたいと思います。もしかしたら、年功序列やヒエラルキーを意識している人がいるかもしれませんが、私たちは年齢や役職に関係なく、能力のある人、やる気のある人にチャンスを与えたいし、存分に実力を発揮できるような環境を提供したいと考えています。1人ひとりが今以上に、もっと活動の範囲を広げ、責任も持った仕事に臨むことになれば、とてつもないパワーを生み出すのではないかと期待しています。 
それから、海外にいる優秀な社員も、国籍を問わず多いので、これから彼らが活躍できる環境をもっと考えていきたいと思っています。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

森林正彰氏と外川智恵
■インタビューを終えて

代表取締役副社長 森林正彰

趣味はゴルフと旅行という森林副社長は、ここ最近日本を10年ほど離れていたこともあり、海外旅行よりも国内旅行を楽しんでいらっしゃるそうです。最近では金沢までカニを食べに行かれたとか。「旅行に行くとリフレッシュできますよ。随分前に訪れたことがある金沢もまるで初めてのように新鮮でした」と、旅の思いを馳せるようにゆっくりと語られました。食べ物や景色を楽しまれている様子を伺おうとすると「そこにゴルフが入ると最高なのですけれどね」と、休暇でさえもポジティブに挑まれている発言が飛び出しました。ゴルフのキャリアは30年以上。奥様とご一緒に、かつての職場のメンバーや海外勤務のときにお付き合いをしていた企業のトップの皆様とのコンペ等、多くの方々との交流の場としてもゴルフを使われているようです。「行けるものなら毎週ゴルフには行きたいですね」と森林副社長。公私とも何事にもポジティブに臨まれるお姿に、人生を謳歌する楽しみを教えていただいたひと時でした。

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