グローバルスタンダード最前線

IEC/TC37(避雷器)/SC37B(低圧サージ防護部品)/WG3の活動紹介と経済産業大臣表彰受賞

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佐藤 秀隆(さとう ひでたか)

NTTファシリティーズ

日本提案による通信用SIT(サージアイソレーショントランス)のIEC(International Electrotechnical Commission)国際標準が制定されました。SITは雷サージに対して高い絶縁耐圧とインピーダンスを示し、被保護装置に影響を与えない小さなサージ電圧レベルに低減し、同時にコモンモードノイズループを遮断する部品であり、ICT機器2次側の直流SELV(安全特別低電圧)回路の保護に優れています。ここではそのIEC国際標準化の取り組みと技術内容を紹介します。

IECプロジェクト設立の背景

近年の新たな課題

これまでの雷害対策は、雷の過電圧・過電流サージによるICT機器や電気・電子機器内部の絶縁破壊に伴う、焼け、焦げ、熔けによる永久故障や火災を防ぐ対策が主流でした。雷害対策技術が進んだ今日、ハードウェアの過電圧破壊による機器の故障は低減してきましたが、新たな雷害として「データエラー」が顕在化してきました。ハードウェアは全く故障していないにもかかわらず、扱っているデータに誤りが発生する現象です。これが基で、原本(オリジナル)データ誤り、装置のフリーズ、ハングアップ、誤動作、暴走、システムダウンなどが発生します。これらの現象が起こった際は、装置のリセットや電源のOFF-ONの入れ直し(リブート)、OS(オペレーティングシステム)の再読み込みや破損データの復帰作業(サルベージ)で回復するケースが多いです。しかしその間の機会損失、直前までのデータ成果物の消失、メモリ内容のデータエラー発生が潜んだまま気付かないなどの危険があります。データ読み取りやデータ伝送中に発生するデータエラーに関しては、ECC(エラー訂正符号)による対策がなされていますが、落雷時に発生するデータエラーに対しても対策の強化が求められてきました。

日本特有の分離接地環境問題

これまで日本の電源系では「耐雷トランス」の名称で広くSIT(サージアイソレーショントランス)が使われてきましたが、海外ではほとんど普及していません。その背景は、日本は分離接地であるのに対して、海外は統合接地が進んでいたため、海外は接地を基準とした等電位手法による雷防護が向いているためです。例えば通信の接地に関しては、日本では通信用加入者保安器がすべての電話加入者宅に設置されていますが、通信用保安器だけの単独接地であり、電力系や建築物等の接地とは分離されています。このため日本の分離接地環境では、いずれか1つの接地に雷サージが流れるとその接地抵抗による地電位上昇が発生し、それが新たな過電圧サージ源となる欠点があります。IEC(International Electrotechnical Commission)では等電位手法のSPD(サージ防護デバイス)やSPC(サージ防護部品)の規格開発が主流でしたが、アイソレーション手法に関しても、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)、ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)で規格開発が進められてきました(図1)。

図1 サージ防護手法とそれを実現するデバイス・部品の国際規格

図1 サージ防護手法とそれを実現するデバイス・部品の国際規格

IEC/SC37B/WG3組織概要

IEC/SC37B組織

IEC/TC37(避雷器)/SC37B(低圧サージ防護部品)は、雷サージを十分小さなレベルに低減し、人体・機器を保護する個別サージ防護部品のIEC国際規格を制定するための組織です。これまでに、IEC 61643-311:GDT(ガス入り避雷管)、IEC 61643-321:ABD(アバランシブレークダウンダイオード)、IEC 61643-331:MOV(金属酸化物バリスタ)、IEC 61643-341:TSS(サージ防護サイリスタ)の4種類の国際規格が制定されました(図1)。これらはすべて各SPCが持つ電圧非直線抵抗特性を利用して、雷等電位化手法により過電圧防護するための部品です。このような中、日本から第5のSPCとして、これまでとは全く異なるアイソレーション手法の部品である通信用SITに関して、NP(新業務項目提案)を行いました。

WG3プロジェクト活動概要

初回2010年のNPおよびCD(委員会原案)は国際投票で可決されましたが、Pメンバー14カ国のうち、プロジェクト成立に必要な最低4名の海外エキスパート参加が得られなかったため、IEC新規プロジェクトの日本提案は否決されました。SITの国際的認知度が低かったことが原因でした。その後2年にわたり世界中の認知度を高めるためのプロパガンダ活動を行い、2012年の再NP提案では中国、ドイツ、英国、日本の4カ国からのエキスパート参加によりIEC 61643-351、-352プロジェクトが成立し、IEC/SC37B/WG(Working Group)3(サージアイソレーショントランス)が新規に設立され、筆者がコンビーナとなり、標準化業務を推進してきました。これと並行して、フランスと米国が反対する理由であった「SITはSC37Bのスコープ外である」に対する取り組みを進めました。審議母体のIEC SC37Bのスコープは「SPD用部品」であり、SPDの定義が「サージ電圧を制限し、サージ電流を分流することを目的とした、1個以上の非線形素子を内蔵しているデバイス」であったため、非線形要素を持たないSITはスコープ外であることが理由でした。そのため2013年のプレナリー会議においてSC37Bスコープの見直し提案とその審議を行い、国際投票の結果、新たにスコープが「To prepare international standards for components for low-voltage surge protection. These SPCs (surge protection components) are used in power, telecommunication and/or signalling networks with voltages up to 1000 V a.c. and 1500 V d.c.」となり、サージを低減する部品はすべてSC37Bで扱えるようになり、フランス、米国もエキスパートとして加わりました。ITU-T SG5会議「ITU-T SG5 meeting in Geneva meeting from 26th April to 3rd May 2011」において、日本からのSITに関するIEC NP活動が紹介され、ITU-TでもSITの必要性が認識されていたことから、リエゾンを取りながら進めてきました。

通信用SITによるICT機器の雷防護

SPD(等電位化手法)とSIT(アイソレーション手法)の組合せによる雷過電圧サージとコモンモードノイズの対策事例を、スイッチの等価回路を用いて図2に示します。SPDとSITは排他的かつ相補型動作です。SPDは等電位化してサージ防護するために接地が必要で、雷サージが印加された場合には、速やかにスイッチONし、サージ電流をアースへと分流する経路を形成します。この際にアースを含む大面積のコモンモードループが形成され、ノイズ源になるためデータエラーの発生、および接地抵抗による地電位上昇が発生する欠点があります。一方SITは雷サージ印加時にはOFFとなり、コモンモードのサージ電流を阻止するため、EMC面からノイズ耐性を飛躍的に高めることができます。SITの絶縁耐量により1次側と2次側のGNDポテンシャルを異なるものとすることができ、GNDを分離したアイソレーション化が可能になります。ICT装置への適用事例を図3に、DC給電を伴うイーサネット通信への適用事例を図4に示します。通常ICT装置の2次側は直流SELV(Safety Extra Low Voltage: 安全特別低電圧、尖頭値42.4 V、直流60 V以下)回路であり、絶縁との併用で接地が不要であり、フローティングポテンシャルにすることができます。従来のSPD多段防護では、SPDの協調動作のためレットスルー電流が流れ、それが強力なコモンモードノイズ源になり、ICT機器のデータエラーの原因になっていました。SITとSPDの組合せは、コモンモードノイズをSITがブロックし、サージ電圧移行もSPDピーク電圧の100分の1〜1000分の1と非常に小さくできるため、雷過電圧サージおよびデータエラー両方の対策に優れています。

図2 SITとSPDの組合せによる雷過電圧サージとコモンモードノイズ対策

図2 SITとSPDの組合せによる雷過電圧サージとコモンモードノイズ対策

図3 ICT装置へのSIT適用事例

図3 ICT装置へのSIT適用事例

図4 DC給電を伴うイーサネット(PoE)通信へのSIT適用事例

図4 DC給電を伴うイーサネット(PoE)通信へのSIT適用事例

経済産業大臣表彰受賞

筆者は、平成30年度工業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰を受賞しました。IEC/TC37/SC37B/WG3のNP日本提案とコンビーナ(WG3国際議長)を務め、IEC61643-351(通信用SITの要求性能及び試験方法)および-352(通信用SITの選定及び適用基準)の制定に貢献したこと、世界的に普及拡大が予想されるAI(人工知能)、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ接続等、インターネット接続される安全特別低電圧ICT機器における雷害対策を先取りした国際規格を、我が国主導で策定し、国際産業競争力強化への貢献が評価されました。

今後の予定

近年は、Industry 4.0(IoTやAIを用いることによる製造業の革新)およびISO8000(データ品質)の国際標準化〜Society 5.0ビジョン実現に向けた検討が加速されています。今後ビッグデータの利用拡大やIoT・AIの普及、工業分野、サービスや医療分野、行政や公共機関が公開する各種データベースでは、データ品質は一層の重要性が高まると予想されます。SITは雷過電圧サージ防護とデータ品質を同時に支えるだけではなく、直撃雷や雷電磁波に対しても強い実績を持つ航空機と同様のSIS(自己完結雷防護システム)構想(1)を実現する主要部品であるため、今後は電源用SITのIEC国際標準化も進める予定です。

■参考文献
  • (1) H. Sato:“Self-contained isolation system using surge mitigation components against lightning surge and EM wave for ICT and IoT equipment、”ICLP 2018, Rzeszow, Poland, Sept. 2018。

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