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「少数精鋭」の衛星選択で世界最高水準のGPS時刻同期精度を実現 ―― シビアな受信環境で精度を飛躍的に向上するマルチパス対策GNSSレシーバを開発

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NTTと古野電気鰍ヘ、ビル街や山間部などのシビアな受信環境においてGPSなど航法衛星(GNSS)による時刻同期精度を飛躍的に向上するGNSSレシーバの開発に成功しました。
今回、NTTが独自に開発した衛星信号の選択アルゴリズムを古野電気の時刻同期用GNSSレシーバに搭載することにより、見通し状態にある衛星信号だけでなく、従来、高精度な時刻同期を阻害する要因となっていたマルチパス(ビルなど構造物に反射・回折する衛星信号)を活用することが可能となりました。実際に、マルチパスを受信する実験環境において、タイムエラー(誤差)を従来の5分の1程度に大幅に低減可能であることを確認しました。これは従来、高精度時刻同期に適さないとされていたビル街や山間部などの良好ではない受信環境においても、遮蔽物のないオープンスカイの受信環境に近い時刻同期精度が実現できる見通しが得られたという点で画期的な成果であるといえます。
古野電気は、本技術を搭載した時刻同期用GNSSレシーバの新製品「GF-88」「GT-88」シリーズを2019年4月に販売開始する予定であり、今後は高精度な時刻同期を必要とする4G・5Gモバイル基地局、金融取引、電力グリッド等の分野やデータセンタなどに幅広く展開する予定です。

背 景

GPSをはじめとするGNSS(Global Navigation Satellite Systems:航法衛星システム)による協定世界時への高精度時刻同期は、モバイル基地局の時刻同期・金融取引・地震計測などの幅広い分野において活用されています。特に近年、グローバルに展開が拡大しているTD-LTE(Time Division duplex Long Term Evolution)方式をはじめとするTDD(Time Division Duplex)方式のモバイル基地局では、セル間の信号干渉を抑制するために信号の送信タイミングをマイクロ秒の精度で同期させる必要があります。
しかしながら、ビル街や山間部などアンテナの周囲に構造物が存在する、理想的ではない受信環境においては、航法衛星信号を直接波として受信可能な開空間領域が制限されるだけでなく、構造物で反射・回折したマルチパス信号を受信することによって時刻同期精度が大幅に劣化することが課題となっていました。このため従来は、直接波として受信される可視衛星をより多く受信できる位置にアンテナを設置するのに加え、受信した衛星信号を仰角や信号強度のしきい値に基づいてフィルタリングするといった方法によって、受信位置から見通し状態にない不可視衛星信号を排除することにより、時刻同期精度を改善する方策が検討されてきました。それでもなお、こうした従来の方法では必ずしも十分な精度を確保できないだけでなく、信頼性の課題がありました。
そこでNTTでは受信に適した航法衛星信号を選択する、GNSSレシーバの独自のアルゴリズムを開発し、その有効性を実測評価により確認しました。

研究内容・成果

航法衛星信号により位置と時刻の4つのパラメータを算出するためには、少なくとも4つの衛星信号を受信する必要がありますが、周辺を構造物で遮られるアーバンキャニオン受信環境では常時4機以上の可視衛星信号を受信できるとは限りません。そこで、今回検討した衛星選択アルゴリズムでは受信位置の推定と衛星信号の到達時刻に基づく衛星の選択動作を繰り返し行うことにより、時刻精度を向上するうえで適切な衛星信号を選択する独自のアルゴリズムを考案しました。
本アルゴリズムでは、図1に示すようにまずは可視衛星信号を確実に選択し、可視衛星信号数が4機に満たない場合には不可視衛星信号から伝搬遅延の小さい衛星信号を最小限選択する動作を行います。これは、受信環境が良好ではない場合に不適な衛星信号を大胆に「枝刈り」することにより精度を向上する、いわば「少数精鋭」的な衛星選択方式であるといえます。本アルゴリズムを古野電気製の時刻同期用GNSSレシーバ「GF-87」に搭載した試作機を開発し(図1)、マルチパスを受信する実験環境において性能評価を行ったところタイムエラー(時刻誤差)が従来の5分の1程度という高精度な時刻同期精度が実証できました(図2)。
本方式では受信環境、すなわち可視衛星の数によらず、最適な衛星信号を選択することができるため、アンテナの設置位置を慎重に選定する必要がなく、さまざまな受信環境で時刻同期精度の大幅な改善が期待できます。

図1 開発した衛星選択アルゴリズムの動作とGNSSレシーバの試作機

図1 開発した衛星選択アルゴリズムの動作とGNSSレシーバの試作機

図2 マルチパス受信実験環境とGPS時刻同期精度の計測結果

図2 マルチパス受信実験環境とGPS時刻同期精度の計測結果

◆問い合わせ先
 NTT情報ネットワーク総合研究所
  企画部 広報担当
  TEL 0422-59-3663
  E-mail inlg-pr-pb-mlhco.ntt.co.jp
  URL http://www.ntt.co.jp/news2018/1810/181023a.html

パートナー紹介

マルチパスによる時刻誤差を大幅に軽減する時刻演算アルゴリズム

池田 貴彦

古野電気株式会社
システム機器事業部 ITS-BU 開発部

スマートフォンやカーナビには、地球を周回している複数の人工衛星から電波を受信して、現在位置を算出するGNSSレシーバが搭載されているのはご存じかと思います。実はこのGNSS、位置を算出する際の副産物として、非常に高精度な時刻も一緒に算出できるのです。その精度はナノ(1×10-9)秒のオーダーと大変細かく、また時間が経過してもずれることがありません。その有用性から多くの社会インフラで利用されています。
NTTネットワーク基盤技術研究所様では、以前からモバイル通信ネットワークにGNSS時刻を利用する研究が行われており、特にマルチパス対策については、GNSSそのものの動作を変えて試す段階まで発展しておりました。そこで、我々にお声かけいただき、掲題のアルゴリズムの実装・評価にご協力いたしました。
研究担当の吉田様が発案された本アルゴリズムは、長年GNSSに携わってきた我々からすると、「コロンブスの卵」的なもので、半信半疑で実装を進めました。当初、マルチパスを定量的に評価する環境がなく、既存のGNSSシミュレータの使い方を工夫して実験を行ったところ、極めてスマートにマルチパス(不可視)衛星を排除する動作がみられ、驚愕しました。その後、実際のマルチパス環境(NTT武蔵野研究開発センタ内)で実験を繰り返し、本アルゴリズムが実装されていないものに比べ、大幅に時刻誤差が軽減されることを確認し、その効果を確信しました。
本アルゴリズムを搭載したGNSSレシーバを世に出し、高精度な時刻を提供することで、社会のお役に立てればと願います。

研究者紹介

高精度時刻同期を実現するGNSSレシーバの開発

吉田 誠史

NTTネットワーク基盤技術研究所
ネットワークアーキテクチャプロジェクト ネットワーク革新技術共創グループ

通信システムのインフラにおいて高精度時刻同期の重要性が高まっています。4G・5Gのモバイル通信基地局では上り・下り方向の信号を時間軸上で交互に多重するため、信号フレームの送出タイミングを基地局間でマイクロ秒の精度で同期させる必要があります。さらに国内では周波数リソースの有効活用のため各事業者へガードバンド(干渉を防ぐための周波数の隙間)なしに帯域が割り当てられるため事業者間でも互いに同期を取ることが求められます。そのためGPS等のGNSSへ高精度に同期したタイミング信号を従属同期網により各基地局に配信するアーキテクチャが各事業者単位で採られ、時刻同期網の最上段に位置するGNSSレシーバの時刻同期精度や信頼性が極めて重要となります。とりわけGNSSレシーバチップ・モジュール部品はシステム全体の信頼性・品質を確保するうえで鍵となります。従来、私たちのような通信キャリアは装置ベンダ様との連携により装置の機能開発を行うスキームが一般的でしたが、今回、GNSSレシーバチップセットの主要ベンダである古野電気様と初めてコラボレーションを行いました。両者の密な連携により従来課題であったマルチパスの影響を排除するアルゴリズムを開発し、キャリアグレードのGNSSレシーバを実現することができました。今後は本製品が国内外の通信機器に組み込まれ、品質・性能が向上することを期待しています。

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