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救急ビッグデータを用いた救急自動車最適運用システムの有効性を確認 ―― リアルタイムな救急需要予測等による救急車の搬送時間短縮をめざす

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総務省消防庁 消防大学校 消防研究センター、NTT、NTTデータは、2018年2月から2021年3月までの期間において救急ビッグデータを用いた救急車運用高度化の共同研究を実施しています。
近年、救急車の現場到着時間・病院収容時間が延伸していることを踏まえ、この時間短縮を目的に、救急搬送情報、およびG空間情報やモバイル空間統計等のビッグデータと、消防研究センターおよび消防機関における運用ノウハウ、NTTグループのビッグデータ分析・学習・価値化技術を活用した救急車の最適運用システムの開発をめざし研究を進めており、シミュレーションを通して有効性を確認しました。

共同研究および実証実験の概要

救急隊の基本的な業務フローにおいて、現場到着までの時間と搬送先決定に関する時間を短縮する技術と、医療機関搬送時の安全性確保の技術に関する研究開発を以下3テーマで行い、実装の可能性を検証します()。

(1) 救急隊最適配置(協力機関:名古屋市消防局)

現場到着までの時間短縮に関しては、各種救急活動情報を解析し、傷病者発生を予測します。さらに、この予測結果に対して救急隊の情報を加えた解析を行うことで、傷病者発生確率の高い場所への救急隊の最適配置を検討し、運用効率化の可能性を検証します。
具体的には、時系列データの学習に有効なリカレントニューラルネットワーク(RNN)を用いて市全体の救急需要を予測し、過去の救急搬送実績に基づく地図メッシュごとの確率分布と組み合わせることで救急需要の期待値の分布を算出し、それらの計算結果に基づいて各救急隊の最適配置を求めました。過去の救急搬送事例のデータや天候などの環境データ、動的人口データなどを用いて予測最適化アルゴリズムを考案し、現実に即した制約条件を加味したシミュレーションにより実データと比較検証した結果、平均現場到着時間の短縮が得られたことでその有効性を確認しました。

(2) 搬送先医療機関の受入可能性を予測(協力機関:仙台市消防局)

搬送先医療機関決定に要する時間の短縮に関しては、救急隊の出動履歴や医療機関の受入履歴、医療機関の受入体制等の情報解析を行い、傷病者ごとに各医療機関の受入可能性を推定します。これにより、医療機関との受入交渉における運用効率化の可能性を検証します。
具体的には、受け入れ可能性が高い医療機関を推定するために、ランキング学習を用い、過去の救急搬送事例について、受入病院選定までの交渉経緯を学習し、受入優先度の推定アルゴリズムを考案しました。過去、医療機関選定までに2回以上の受入交渉が必要だった事例について、本アルゴリズムを用いて複数の病院の受入優先度を推定したところ、過半数の事例で最終的に受け入れた病院(2回目以降の交渉先)を、最初の交渉先として示すことで、その有効性を確認しました。

(3) 安全搬送に適したルート提示(協力機関:藤沢市消防局)

医療機関搬送時の安全性確保に関しては、救急車等の走行情報や地図情報等から、道路の段差・高低差等の道路状況を推定します。これにより、救急隊に対して走行ルートおよびその道路状態の案内を行うことで、傷病者へ負担を与えないスムーズな救急車の運転や、車内での救急救命処置の安全性確保の支援が可能か検証します。
具体的には、NTTが参加している都市ビッグデータによるスマートシティの実現をめざすEUとの共同研究プロジェクトBigClouT(1)の成果である、慶應義塾大学が測定・蓄積したごみ収集車の走行データを活用して、本共同研究の中で藤沢市内の段差データベースを作成しました。そのデータベースに基づいた段差警告システムのプロトタイプを作成し、走行実験によってその警告システムの有効性を確認しました。

図 共同研究の概要

図 共同研究の概要

■参考文献
  • (1) http://bigclout.eu

◆問い合わせ先
 NTT研究企画部門
  プロデュース担当
  TEL 046-240-5157
  E-mail advanced-ambulance-mlhco.ntt.co.jp
  URL http://www.ntt.co.jp/news2018/1811/181126a.html

担当者紹介

救急車が傷病者に接触するまでの時間短縮をめざして

中山 公介

NTTデータ
ヘルスケア事業部 第三統括部 救急医療ソリューション担当 課長代理

中山公介

国内の救急車による傷病者の搬送件数と医療機関到着までの時間は、ともに右肩上がりとなっており大きな社会問題となっています。これまでNTTデータでは救急医療の分野において、救急車が傷病者に接触し医療機関に到着するまでの時間を短縮するソリューションを展開していました。
そんな中、お客さまから救急車が傷病者に接触するまでの時間短縮を目的とした共同研究の公募がなされました。自身も子どもが深夜に急病になり、救急車を呼んだことがあります。救急車が到着するまでの時間はとても長く感じられ、不安が募りました。そのような経験から、傷病者はもちろんのこと、そのご家族の不安を少しでも解消したいという強い思いがあり、自ら志願し本プロジェクトに参画しました。
NTTグループの知見を結集し受注した本研究は、救急搬送の要請場所や搬送先医療機関をITの力を駆使し予測するという前例のないものでした。研究を進めるにあたりさまざまな課題や問題に直面しましたが、お客さまやNTTグループの仲間たちと協力し合い1つひとつ解決してきました。その結果、机上でのシミュレーション結果が認められ実際の救急現場における実証実験にこぎつけました。
本研究はまだまだ道半ばです。救急車の到着を1秒でも短縮したい、という強い思いを持ってこれからも取り組んでいきます。

研究者紹介

現在の技術で救急車運用を最適化する

前田 篤彦

NTT未来ねっと研究所
ユビキタスサービスシステム研究部

前田篤彦

本研究を本格的に開始した経緯は1年ほど前にさかのぼり、救急医療情報システムのビジネスを手掛けているNTTデータとともに、消防庁消防大学校消防研究センターの共同研究公募に申し込み、採択されたことによります。消防研究センターでは、救急車の現場到着時間等が延伸し続けている近年の状況を踏まえ、この時間短縮を目的として、ITを活用した救急車最適運用システムの研究を進めるためのパートナーを探しているところでした。
一方、NTT未来ねっと研究所では、以前より、都市のビッグデータや地理空間情報を活用した各種予測技術や移動支援技術等の研究を進めてきました。また、私自身は、深層学習の開発ライブラリがまだ世に出回っていないころに、同技術を用いたシステムをNTTドコモ在籍中いち早く商用化した経験もあり、これまで蓄積した知見等を救急車運用にも活かすことができると考え、公募に応募しました。
共同研究開始後、ご協力いただいている自治体の救急隊員の方々に何度も接する機会があり、自治体の厳しい財政状況の中で、彼らは大変な激務に携わっているということが分かってきました。本研究では現状、開発した技術の有効性がシミュレーションにおいて確かめられたところですが、今後はより本格的な実証実験を通して技術の評価を進めます。そして将来、救急車運用の最適化により、救急隊員の方々の激務を少しでも減らせればという思いです。

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