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「つなぐコラム」“地球にちょうどいい暮らし方”

第1回 人の暮らしと地球の「収支」〜エコロジカル・フットプリント小田 倫子

1970年代からずっと収支は赤字で、年々赤字幅は拡大するばかり、原資を食い潰しながら何とか存続している・・・そんな会社はありえるでしょうか。会社ではありませんが、今の私たちの暮らしと地球を会社経営にたとえると、このような危機的な状況といえます。

会社の収支のように、地球の収支を経年的に数字で表してきたのが「エコロジカル・フットプリント」です。1年間の人間活動による地球への負荷の大きさを「グローバルヘクタール」という概念上の面積で表し、「地球○個分」という形で示しています。人の暮らしに必要な食料や物資を生産するための耕作地・牧草地・森林・漁場などの面積、化石燃料を燃やして排出した二酸化炭素を吸収するために必要な森林面積、住居・工場・インフラに使う土地面積など、人間による消費の規模を面積で表しています。

最新のレポートでは、エコロジカル・フットプリントは世界全体で地球1.6個分という結果が出ています。

6つの土地利用区分

エコロジカル・フットプリントはすべての消費を6つの土地利用区分で表す[出典:地球1個分の暮らしの指標 WWFジャパン]

「地球1.6個分」と言われても「地球は1個しかないのに、それ以上の量を消費しているというのがピンとこない」という人もいるのではないでしょうか。

地球が持つ資源、つまり自然が生み出す資源の多くは、本来、持続可能なものです。たとえば、海の魚は採取されても繁殖して個体数を回復します。森の木は伐採されても新しい木が育ち森は甦ります。人間が排出した二酸化炭素も森林や海洋が吸収してきました。「地球1個分の暮らし」というのは、自然が回復することができる資源の量=1年間で得られる「地球の収入」に対し、ちょうどぴったりの消費量=1年間の「人間活動による支出」で人間活動が行われている状態を表しています。

しかし実際の世界では、自然の回復力を超えた人間活動が行われています。海の魚は過剰に採取されて個体数が減り、このままでは多くの魚種が将来食べられなくおそれがあると指摘されています。森の再生スピードを待たずに木の伐採が進むことで、荒れ地が広がり、野生生物のすみかも失われています。自然に吸収される量より多い二酸化炭素が排出され続けた結果、大気中の二酸化炭素濃度が高まり、気候変動を引き起こしています。

このままでは、そう遠くない将来に、海も森も資源が枯渇し、取り返しのつかない気候変動の影響にさらされてしまうことを、多くの科学者が予測しています。これが地球1.6個分の暮らしをしているということなのです。

エコロジカル・フットプリント

地球への負荷(エコロジカル・フットプリント)と地球の回復力(生物生産量)との差が拡大している[出典:グローバルフットプリントネットワーク]

「地球1個分」の暮らしが行われれば、地球の収支は改善し、人と自然が調和して生きられる未来が実現すると考えられます。しかし、エコロジカル・フットプリントは、増加の一途をたどっています。その背景には、世界人口の増加や豊かな暮らしの普及がありますが、それ以外にも原因がありそうです。

これが地球ではなく、実際の会社の話であったとしたらどうでしょう。長期にわたって赤字経営を続ける会社があったら、株主や債権者たちは緊急かつ抜本的な改善を厳しく迫るはずです。

地球の場合、私たちにとって、便利で豊かな暮らしは当たり前のものであり、「地球1個分」を超える赤字収支の影響を直ちに受けることはありません。赤字収支の最終的なツケは、将来世代や絶滅の危機に瀕した生物たちが負担することになります。しかし、生息地を奪われ絶滅しそうになっている野生動物や、まだ生まれてもいない次世代の子どもたちは、訴えようにも伝える言葉を持たない「声なき債権者」なのです。

また、私たちが「赤字収支」を生じさせて暮らしているということが認識されにくいという事情もあります。便利で豊かな暮らしを支えている食料や物資が、どのように地球環境に影響を与えているか、ということは通常は私たちの目に見えません。たとえば、商品の生産・製造国は”Made in ○○”という形で表示されますが、その材料がどこから来て、どこでどのように生産され、どのようなルートで運ばれてきたかという、商品の「出自」に関する情報は、私たちにはあまり伝えられていません。

しかし日本の私たちの消費が、実は熱帯林の破壊を引き起こしていたり、生物を絶滅させる脅威になっていたりする場合があります。世界中の人が日本人と同じレベルの生活をするとした場合のエコロジカル・フットプリントは、地球2.9個分が必要と計算されているほどです。

このように、「地球1個分」を超える活動の受益者と負担者の間には、時間的・地理的なギャップがあります。このギャップがエコロジカル・フットプリントの増加の原因のひとつであり、私たちが地球の赤字収支に気付きにくい原因でもあります。

「地球1個分」の暮らしを実現するためには、正確な知識の基で想像力を働かせ、ギャップを埋める必要があります。本コラムでは、WWFのスタッフが、活動現場で見聞きしたさまざまな事例を紹介しながら、このギャップを埋めていくお手伝いができればと考えています。

将来世代に豊かな地球を引き継ぐことができるよう、赤字収支を改善する「地球カンパニーの事業計画」を一緒に考えてみませんか。

小田 倫子(おだ ともこ)

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)職員(法人パートナーシップ担当)。
企業法務の弁護士として10年間稼働後、家族の転勤に伴い沖縄に居住したことなどを契機に、自然保護の仕事を志して保全生態学を専攻、2013年から現職。生物多様性保全や気候変動への取り組みに関する企業との協働プロジェクトの提案、実施業務を担当。趣味は里山散策と水生生物の観察。東京大学法学部卒、同大農学部(保全生態学専攻)卒、カリフォルニア大学バークレー校法学修士(環境法等専攻)。

写真:小田 倫子(おだ ともこ)
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