ページの先頭です。
コンテンツエリアはここからです。

「つなぐコラム」 “人と自然”

第8回 森を切って自然を守る!? 新しい自然保護の試み道家 哲平

群馬県みなかみ町。ここに赤谷の森(あかやのもり)と呼ばれる1万ヘクタールの森林が広がっています。日本最大の流域を誇り、関東に住む4,000万人の飲み水を提供する利根川の最初の一滴が生まれる森です。この森で「木を切ることで自然を保護する」という取り組みが行われています。

赤谷の森では2003年から、(公財)日本自然保護協会、林野庁、赤谷地域協議会の三者が協力し、森をより豊かにし、その森の恵みを地域づくりにも活かしていく先進的な活動である「AKAYAプロジェクト」を展開しています。このプロジェクトのひとつに、イヌワシをシンボルとした活動があります。

イヌワシは、羽を広げると横幅2mにもなる大型の猛禽類で、主にウサギやヘビなどを食べる森の食物連鎖の頂点に立つ生き物といわれます。このイヌワシも、日本全体での生息数が500羽以下に減少しており、環境省が定めるレッドリスト(日本に生息する野生生物についての日本版レッドリスト)で絶滅の危惧にあるとされています。イヌワシの子育ての成功率(繁殖率)が過去に比べ大きく下がっていることが、頭数減少の原因のひとつと言われています。

子育てが上手くいかないのはなぜでしょう。その要因はさまざま推測がありますが、ひとつには適切に管理がされていない人工林が増えすぎてしまったことが挙げられます。ここに木を切ることが自然保護につながるヒントがあったのです。

人が植え、育てる人工林では、樹木の成長に合わせて本数を少なくする“間伐”という作業が行われます。適切に管理がされずに間伐が行われない森は、木と木の間が密集し太陽の光が届かないため、低い草木も育たないうっそうとした暗い森になってしまいます。

このような適切に管理がされていない人工の森は、イヌワシにとってはとても暮らしにくい森です。イヌワシは、森の中の開けた空間で狩りをし、餌となるウサギやヘビなどを捕らえます。横幅2mを超える彼らにとって、木が密集した森は、入ることができず狩りをしにくい場所なのです。さらに、低い草木が育たない森では、ウサギやヘビなどの草地を好む生き物の数自体も少なくなってしまいます。餌が少ない、餌がとりにくい森では子どもを育てにくい、ということは想像に難くありません。

そこでAKAYAプロジェクトでは、イヌワシが狩りをしやすい、子育てしやすい環境をつくるため、増やしすぎた人工林を伐採して広い草地の空間を森の中に人工的につくるという日本初の取り組みを2015年から始めたのです。この「木を切る自然保護」については、専門家の助言・協力を得ながら人工林を伐採する前後のイヌワシの観察も行っており、伐採した場所でイヌワシが狩りをする様子も観察されました。

伐採直後のイヌワシの狩場創出試験地の写真

伐採直後のイヌワシの狩場創出試験地
(写真提供:日本自然保護協会)

また、この取り組みの直接的な成果とは言い切れませんが、2016年には赤谷の森で7年ぶりとなるイヌワシの幼鳥の巣立ちを確認することができ、全国的にも大きなニュースとなりました。さらに、2017年にも幼鳥の巣立ちを確認できたことが先日(2017年12月31日)発表されました。2年連続でイヌワシの幼鳥の巣立ちが成功したのは、赤谷の森で10年ぶりとのことです。

2017年に巣立ったイヌワシの幼鳥の写真

2017年に巣立ったイヌワシの幼鳥
(写真提供:日本自然保護協会)

東日本大震災前にはイヌワシが生息していたという宮城県南三陸の森でも、AKAYAプロジェクトの経験を活かしたイヌワシ保全の動きが生まれています。木を切ることで豊かな命の連鎖を作りだす「新たな自然保護」の試みがはじまっているのです。

多くの読者の皆さまは、木を植えることこそが自然を守ることにつながり、「木を切る=自然破壊」と思われるかもしれません。確かに、日本は国土の約7割が森林に覆われており、先進国の中ではフィンランド、スウェーデンについで3番目の森に恵まれた国です。しかし、全ての森が豊かな自然である、とは単純には言えないのです。

14年前にスタートしたAKAYAプロジェクトも、まだまだ続きます。豊かな森を増やす活動にご注目いただけるとうれしいです。

道家 哲平 (どうけ てっぺい)

公益財団法人 日本自然保護協会 経営企画部 副部長

国際自然保護連合(IUCN)日本委員会 副会長 兼 事務局長

生物多様性条約の NGO における第一人者。国際的な情報収集・分析を行い、生物多様性保全の底上げに取り組んでいる。特に、国内では、2020 年までに日本から愛知ターゲットの達成を目指し、企業や団体、自治体など多分野のセクターのネットワーク化を行いながら、地域や企業の生物多様性戦略、「にじゅうまるプロジェクト」などを推進。 大学院で研究していた哲学という異色の専門を活かし、世界の自然保護の問題を理解し、日本の課題・解決策に活かす、「世界のコトを日本のコトに」をモットーに奮闘中。プライベートでは、かわいい子どもたちの子育てが趣味という3児のパパ。

フッタエリアはここからです。