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「つなぐコラム」 “人と自然”

第5回 アカウミガメと日本の砂浜道家 哲平

「ウサギとカメ」や「浦島太郎」・・・童話や昔話にも登場するカメは、日本人にとって馴染みの深い生き物です。「鶴は千年、亀は万年」とも言われるように、長寿信仰とも深い結びつきがあり、神社や海辺の町の旅館では甲羅が飾られていることもあります。今回のコラムは、ウサギと競争した陸のカメではなく、浦島太郎に助けられた海のカメについてお話します。

ウミガメは海にくらしているカメの総称です。陸のカメとの大きな違いは、指や爪がなく手足がフリッパー(ひれ足)になっていること、そして甲羅が平べったいことです。ウミガメは、このフリッパーと甲羅のおかげで、とても速く泳ぐことができます。長い距離を泳ぐのも得意で、日本で生まれたアカウミガメは、黒潮にのって太平洋を横断し、遠くカリフォルニア半島まで移動して、再び日本まで帰ってきます。

ウミガメは、陸のカメと比べて種類が少なく、世界に7種しかいません。この7種のうち、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ、オサガメの5種は日本でみることができるといわれています。そして、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種が日本で産卵することが確認されています。なかでもアカウミガメは、日本沿岸の砂浜が、北太平洋で唯一の産卵場所となっています。

ウミガメが安心して産卵できる砂浜「表浜海岸[愛知県]」の写真

ウミガメが安心して産卵できる砂浜「表浜海岸[愛知県]」
(写真提供:日本自然保護協会)

表浜の砂浜にきたウミガメの写真

表浜の砂浜にきたウミガメ
(写真提供:NPO法人表浜ネットワーク)

アカウミガメは、1頭の母亀が、1回に100個程度の卵を産み、産卵の時期には3〜5回産卵をする、ということが分かっています。産卵のために上陸したアカウミガメは、砂浜の奥に移動し、30〜50センチくらいの穴を掘って卵を産み落とします。穴も適当に掘っているわけではなく、穴の中の温度が24〜33度で、一定の湿度がある状態になるように、場所と深さを感じ取って掘っているようです。

ウミガメの産卵といえば、母亀が涙を流しながら卵を生むという感動のシーンで知られています。これは実は涙ではなく、目の横にある体内の塩分濃度を調節する器官から常に出している塩水が、涙のように見えている(陸に上がった際には、眼球が乾燥するのを防いでもいます)のですが、命を生む姿というのはやはりグッとくるものがあります。

しかし、ウミガメは全7種の内6種が、IUCNのレッドリストで絶滅危惧種に分類されています(残る1種“ヒラタウミガメ”も、情報不足でよく分かっていないのでリストに入っていないだけで、7種全部が絶滅危惧種かもしれません)。近い将来、姿を消してしまう可能性のある生き物なのです。

絶滅危機の原因のひとつとして、産卵場所が失われてしまったことがあげられます。砂浜そのものが失われてきていることに加え、波消しブロックなどの人工物が海の中や砂浜にできたことも、砂浜に上陸できなくなるなどの影響があることがわかっています。一生のうちのほとんどを海の中でくらすウミガメですが、その始まり=生まれる場所である砂浜の環境がとても大事なのです。

日本自然保護協会が2003年から、3年半かけて行った市民による全国1,251カ所の海岸調査では、人工物のない自然海岸は1割以下、70%以上の海岸に堤防や護岸などが作られていることがわかりました。アカウミガメの産卵については、全国各地でボランティアによる調査も行われており、自然豊かな砂浜を保全する活動が求められています。

ウミガメというと外国の海にくらしている生き物で、水族館でしか見たことがないという人も多いかもしれません。ですが実は、日本で生まれ、日本に卵を産みに帰ってくる生き物であり、場所や時期、時間帯によっては出合うことができるかもしれない生き物です。

万年生きる長寿のシンボルがいなくならないようにしたいですね。

※日本自然保護協会が2016年に全国の砂浜環境を調べた「自然しらべ2016 海辺で花しらべ 結果レポート」もご覧ください。

道家 哲平 (どうけ てっぺい)

公益財団法人 日本自然保護協会 経営企画部 副部長

国際自然保護連合(IUCN)日本委員会 副会長 兼 事務局長

生物多様性条約の NGO における第一人者。国際的な情報収集・分析を行い、生物多様性保全の底上げに取り組んでいる。特に、国内では、2020 年までに日本から愛知ターゲットの達成を目指し、企業や団体、自治体など多分野のセクターのネットワーク化を行いながら、地域や企業の生物多様性戦略、「にじゅうまるプロジェクト」などを推進。 大学院で研究していた哲学という異色の専門を活かし、世界の自然保護の問題を理解し、日本の課題・解決策に活かす、「世界のコトを日本のコトに」をモットーに奮闘中。プライベートでは、かわいい子どもたちの子育てが趣味という3児のパパ。

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