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「つなぐコラム」 “人と自然”

第4回 ワイルドなスギが、今にも絶滅しそうなんだぜぇ〜。道家 哲平

今回のタイトルは、2012年に流行語大賞を受賞し、一世を風靡(ふうび)したギャグをお借りしました。しかし、ワイルドなスギの現状はこのギャグのようには笑えません。今、世界中でワイルドなスギの多くが絶滅の危機に瀕しています。

スギといえば花粉症を連想する方も多いでしょう。花粉症の原因となっているせいで、スギと聞くと嫌悪感を持つ方も多いかもしれません。あるいは「絶滅して何か困るの?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

花粉症の原因となるスギの多くは、戦後の高度経済成長の下で建築用材を確保するために、天然林を人工林に転換する「拡大造林」が進められた時代に、人間が人工的に植えたスギです。今回はワイルドな(野生の)スギのお話です。嫌わずに、どうぞ一読してみてください。

高知県に残る貴重な天然スギ「魚梁瀬杉」の調査風景写真

高知県に残る貴重な天然スギ「魚梁瀬杉」の調査風景
(写真提供:日本自然保護協会)

木曽の天然ヒノキの森の調査風景写真

木曽の天然ヒノキの森の調査風景
(写真提供:日本自然保護協会))

2013年7月、国際自然保護連合(以下、IUCN)が、スギ・ヒノキ・マツなどの針葉樹(ワイルドなスギの仲間)の全615種についての調査結果を発表しました。その内容は、針葉樹の3割以上(211種)が絶滅危惧種であるという衝撃の内容でした。世界のスギの仲間が危機的状況にあることについて、IUCNが世界レベルで警鐘を鳴らしたのです。

この発表では、絶滅の危機があまりにも急速に進んでいることが注目されました。IUCNによる針葉樹の一斉調査・評価は1998年にも行われていましたが、その後15年の間に新たに25種(4%)が絶滅危惧種になっていたのです。この事実に関係者は大変驚かされました。

針葉樹は、種類ごとに差はあるものの寿命がとても長い生物です。樹齢5000年にもなるブリスルコーンパイン[Bristlecone Pine (Pinus longaeva)]や、樹齢2500年とも言われる屋久島の縄文杉などが有名です。

15年という歳月は、人間にとっては長い時間かもしれませんが、針葉樹の歴史を考えれば、ほんの一瞬なのです。ほんの一瞬で4%の仲間が絶滅の危機に陥ってしまったのです。

針葉樹は、恐竜がわがもの顔で歩いていたジュラ紀中期(約1億6千万年前)に地球上に出現し、シダ植物とともに陸上を覆いました。ジュラ紀中期には巨大な草食恐竜が出現しましたが、これは餌となる針葉樹が世界中に広がったからであるといわれています。

そして、現代でも針葉樹は、私たちの暮らしや自然界の中でとても大切な役割を担っています。木材やパルプ材、建築材などとして活用されているだけではありません。イチイの仲間の樹皮からは、タクソールという抗がん成分が発見され、がん治療の発展に貢献するなど、計り知れない経済価値をもったものもあります。

セコイア(絶滅危惧TB類)は樹高が110メートルにもなり、吸収できるCO2の量も熱帯雨林の樹木の3倍にもなるといわれており、気候変動を緩和する自然のCO2吸収源としても働いています。また、広葉樹よりも針葉樹は寒さや乾燥に強いため、ロシアやカナダなどの寒冷地では、針葉樹が乾燥した大地を覆うことで、水を貯めたり、野生動物の餌や生息場を提供したりするなど、生態系の中でも重要な役割を担っています。

20年に一度お宮を建て替える伊勢神宮の式年遷宮には、長野・岐阜県にまたがる木曽地域の天然のヒノキが用いられています。針葉樹は文化面でも私たちの社会と密接につながっているのです。

日本自然保護協会では、林野庁が所有する国有林「木曽悠久の森」の管理委員会に参画し、ヒノキを含む温帯性針葉樹林を守り、復元していくために、天然木の厳正な保護と厳格な植栽木利用のルール作りに取り組んでいます。

恐竜が生きていた時代から生き残り、生態系を支える、最古で最大の生物の仲間。そう考えると、スギって本当にワイルドだろぉ、絶滅しないように守ろうぜぇ。

※日本自然保護協会が取り組んでいる木曽ヒノキの利用ルール作りについては以下をご覧ください。

道家 哲平 (どうけ てっぺい)

公益財団法人 日本自然保護協会 経営企画部 副部長

国際自然保護連合(IUCN)日本委員会 副会長 兼 事務局長

生物多様性条約の NGO における第一人者。国際的な情報収集・分析を行い、生物多様性保全の底上げに取り組んでいる。特に、国内では、2020 年までに日本から愛知ターゲットの達成を目指し、企業や団体、自治体など多分野のセクターのネットワーク化を行いながら、地域や企業の生物多様性戦略、「にじゅうまるプロジェクト」などを推進。 大学院で研究していた哲学という異色の専門を活かし、世界の自然保護の問題を理解し、日本の課題・解決策に活かす、「世界のコトを日本のコトに」をモットーに奮闘中。プライベートでは、かわいい子どもたちの子育てが趣味という3児のパパ。

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