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平成12年8月25日 | ||||||||
| 日本電信電話株式会社 | ||||||||
世界初、回路構成を自己改変できるLSIを開発 ― コンピュータの概念を一新する汎用情報処理アーキテクチャ ― | ||||||||
NTTは、用途や環境に応じて動作中でも回路を自ら変化させるLSI「PCA-1」を開発しました。 「PCA-1」は、現行コンピュータとは異なる新しい汎用情報処理アーキテクチャ「プラスティックセルアーキテクチャ (以下PCA: Plastic Cell Architecture) 」を実現するもので、外部から機能設定等をしなくても、求められる機能や環境の変化に対応して必要な論理回路を自律的に生成変化させることのできる新概念のLSIです。 これまでのコンピュータは、「ハードウェアは固定的」という常識のもとに発展してきました。しかし、最近になり、LSI製造コスト低減の観点から、製造後(使用時)に回路素子の論理的機能を目的に応じて自由に再構成できるデバイス、いわゆる「やわらかいハードウェア」が脚光を浴び、研究が活発化しています。 「やわらかいハードウェア」としては、すでにFPGA (Field Programmable Gate Array *1) をはじめ、予め用意された数種の機能を実行時に切り替えられるLSI等も開発されていますが、これまでのところ、回路構成情報をLSI内部で操作する、真に「自ら再構成可能な」LSIは存在しませんでした。 NTTでは、従来のコンピュータにおいてソフトウェアが担っていたすべての処理を「やわらかいハードウェア」で実現することを目指し、PCAと名付けた全く新しいコンピュータ技術の研究を進めてきました。 PCAは、CPUからの命令によってメモリ上のデータを逐次的に処理する従来型のコンピュータと異なり、CPUを介さずに再構成可能な論理回路をネットワークで結ぶ構造をとるため、情報処理を直接かつ並列的に行うことができます。従来型が様々な機能を時間的に展開したのに対し、PCAは空間的に展開するアーキテクチャといえます。そのため、動的に生成変化する複数の論理回路により並列処理を行うことや、仕様の変更や環境の変化に対応して自在にシステム規模を変更することも可能になります。 今回開発した「PCA-1」は、PCAの概念を実現する最初のLSIであり、「自ら再構成可能な」世界初のLSIです。PCAの概念をすべて盛り込んで動作確認することを優先させたため、PCA-1では、LSIテクノロジ自体は安定した既存の技術で実現していますが、メモリを基本とした均質なチップ構造や、クロックを排した完全非同期回路など、コンピュータ概念を一変する簡潔な回路構成方法を採用しています。このため、従来型コンピュータと比べて省資源化、低エネルギー化、高効率化が図れます。 現在、「PCA-1」を多数並べた実験環境によってアーキテクチャの評価実験を進めており、例えば回路自身が動作中に自らの構成情報を転送してクローンを生み出す(自己増殖する)といった特徴的な機能が問題なく動作することを確認しています。汎用情報処理のLSIであり用途は無限に考えられますが、仕様の違いや機能要求の違いに即座に対応して“最適な状態に姿形を変えられる”特性から、様々な仕様が混在するモバイル端末への応用や、様々なサービスに対応する通信ネットワークを構成する装置への応用も考えられます。あるいは、自己増殖、自己組織化が可能なことから人工生命への応用も期待できます。 今後は、デバイス構成技術以外に、設計自動化技術、アプリケーション処理技術等の研究開発も進め、ハードウェア・ソフトウェアともに機能変更がすぐに求められる変化の激しい情報流通社会を支える基盤技術として発展させていきます。 <PCAの特徴> PCAのPlasticは「形成力のある」という意味で用いています。用途・機能・仕様・環境などの変化に対応して、自ら回路構成を自在に変えることのできる「やわらかいハードウェア」という意味が、そこに込められています。 (1)CPUを介さない汎用情報処理(図1) 汎用情報処理の本質は、メモリ上にあるデータを互いに加工・転送することにあります。従来のコンピュータでは、これをCPUの命令にもとづいて行っていましたが、PCAでは、処理の主体を再構成可能な論理回路(実体はメモリ)自体に持たせ、互いにネットワークで結ぶ構造としました。 (2)PCAの基本構造(図2) 再構成可能な回路である「可変部」と、可変部の構成情報やデータを通信するための「組込部(ネットワーク部)」のペアから構成される「PCAセル」を2次元アレイ状に並べた、均質でスケーラブル(拡張自在)な構造になっています。 PCAで行われる基本的な情報のやりとりは以下の通りです。
(3)動的に生成する回路オブジェクトによる並列処理(図3) 様々なアプリケーションは複数のオブジェクト(ある機能を実現する論理回路ブロック)が通信しながら動作することで処理されます。オブジェクト自体は大きさや形を変えませんが、ネットワークを通じて、処理に必要なオブジェクトを新たに生成したり、複数のオブジェクトを並列処理することができます。たとえば、過負荷となった処理に対応するため、自らのクローンであるオブジェクトを作り出し、そこに処理を分配することなどが可能です。 <PCA−1の構造> (1)完全非同期回路 従来のコンピュータは、クロック信号に同期させることで高速な信号のやりとりを行っていました。しかし、PCA-1では、すべての信号の伝達をハンドシェイクによる非同期回路で行うこととし、隣接セル間の配線しか存在しないように構成しました。これによりクロック信号は不要となり、低消費電力にも有効であるとともに、LSI微細化技術の進展の恩恵を最大限に活かすことができます。 (2)LUTしきつめ型(図4) PCAセルの可変部は、さらに8×8の基本セルからなります。基本セルにはLUT(Look Up Table)と呼ばれるメモリが4つ(合計64ビット)埋め込まれており、このLUTに適切な値を書き込むことで、意味のある回路として機能します。しかも、書き込む値によって、論理回路としてだけでなく結線や記憶素子としても機能します。 従来のLSIにおいては、同じくLUTを採用したFPGAであっても、専用のフリップフロップや配線、あるいはこれらを接続するトランスファゲートなどが不可欠でした。しかし、PCA-1では、完全なLUTしきつめ型を実現することで、メモリと同様の単純な繰り返し構造を持つLSIを実現しました(図5)。 <PCAの可能性> (1)仕様の変更、環境の変化に適応可能なシステム 回路オブジェクトの生成・消滅が動的に実現することや、ネットワークを介して回路構成情報を流通させることから、必要なときに必要な回路を創り出しながら処理するシステムが実現できます。たとえば、携帯電話に使用すれば、規格の違う日米欧の通信方式に1台で柔軟に対応することができます。あるいは、処理するデータが文字情報であるか動画情報であるかに応じて、それぞれの処理に適切な回路に変化させて機能することもできます。また、処理量の増大に対して回路が自己増殖することで対応したり、回路自身が自己改変しながら最適なハードウェアへと進化していく、故障に対して自己修復で対応するといった、従来のコンピュータ像やネットワーク像を一新する自律的なシステムの実現も見込まれます。 (2)高効率、省資源ハードウェア 単純な繰り返し構造で実現できるため、物理レベルの設計が格段に容易になり、従来のプロセッサと比べ生産効率の向上が見込まれます。同一の装置のままで、論理的にハードウェアのバージョンアップを実現することが可能であり、省資源化が図れます。また、LSI全体ではなく、意味のある動作を行う回路部分だけが電力を消費する非同期回路構成を実現したことで、省エネルギー化という時代の要請に大きく貢献します。 <用語解説>
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別紙 ・図1 PCAによる情報処理の考え方 ・図2 PCAの構造 ・図3 オブジェクトとメッセージ ・図4 PCAの構成例 ・図5 PCA-1のチップ写真 | ||||||||
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