報道発表資料

2001年7月2日
文部科学省国立天文台
日本電信電話株式会社



電波望遠鏡用に「光からミリ波を発生する技術」を開発
─ 手のひらサイズで世界最高レベルの出力に成功、サブミリ波発生も射程に ─

 国立天文台は日本電信電話株式会社のフォトニクス研究所と協力して、光からミリ波・サブミリ波を発生する技術の開発研究を進めてきました。同研究所が開発した超高速フォトダイオードを国立天文台が開発した導波管型フォトミキサーに組み込んで実験したところ、世界における同様な方式での出力に比べ20倍以上高い出力(約1ミリワット)を発生させることに成功しました。しかも、2波長のレーザー光の波長間隔を調整することにより、波長3mm帯で75GHz〜110GHzというきわめて広帯域な出力特性を得ることができました。今回の結果はサブミリ波(テラヘルツ光)発生への大きな第一歩です。
 チリの5000m高地に建設が予定されている巨大電波望遠鏡ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)では、このフォトニクス技術によるミリ波・サブミリ波発生技術が宇宙からの微弱電波の受信に大変重要な役割を果たします。また、本技術は天文学のみならず、分光学、高度情報通信、地球大気環境計測、医療診断技術、核融合プラズマ診断など非常に広範囲な分野への波及効果が期待されます。



【概略説明】
■ フォトニクス技術によるミリ波・サブミリ波の発生

 電波天文学や分子分光学の分野では、電磁波のスペクトルを測定する標準的手法として、信号周波数を低周波数(〜数ギガヘルツ以下)に変換してから周波数分析する方法(ヘテロダイン法という)が使われている。このような方法をとることにより、非常に精度の高い分析が可能となるためである。このため、周波数変換に使用する基準信号源(局部発振器という)には、高純度・高安定度のものが必要とされてきた。
 ミリ波・サブミリ波帯での局部発振器として最も標準的な方法は、ガン発振器などの半導体発振器と逓倍器を組み合わせたものである。この方法では従来、機械的なチューニング機構なしで広帯域での信号発生は困難であった。この問題を解決する新しい手段として、国立天文台とNTTフォトニクス研究所は共同してフォトニクス技術(光・電波融合技術)を応用した信号源の開発を進めてきた。新しい方式では周波数の異なる2つのレーザー光をフォトミクサーによって混合し、その差周波数としてミリ波からサブミリ波にかけての信号を発生させる方法である(下図)。



■ 手のひらサイズで世界最高レベルの出力に成功
 NTTフォトニクス研究所で開発してきた超高速フォトダイオードは上記の目的にとって最適のデバイスであるため、昨年からNTTと国立天文台との間でフォトニック信号源の共同開発研究を進めてきた。研究の第一段階として、同フォトダイオードを波長3mm帯の導波管に組み込んだフォトミクサーを開発し、世界における同様な方式での出力に比べ20倍以上高い出力(約1ミリワット)を発生させることに成功した。しかも、2波長のレーザー光の波長間隔を調整することにより、波長3mm帯で75GHz〜110GHzというきわめて広帯域で平坦な出力特性を得た。レーザー光の波長は通信分野で標準の1.55ミクロンを使用しているため、将来の技術発展への即応性という面でも大変有利である。また、波長1.55ミクロンは光ファイバでの長距離低損失伝送が可能なので、長基線の電波干渉計にとっては大変魅力的である。
 本フォトミクサーには大掛かりな光学系を介さないで光ファイバから直接レーザー光を注入できるため、装置は超小型で手のひらにのるサイズである。実際に光からミリ波への変換は10ミクロン以下というきわめて小面積の部分で行われる。また、導波管は電磁波を閉じ込めるという点では大変効率がよい。


■ テラヘルツへの挑戦
 本実験に使用した超高速フォトダイオードは、NTTフォトニクス研究所が開発したUTC(Uni-Traveling-Carrier)フォトダイオードと呼ばれるもので、電子の動きのみを効果的に利用することにより超高速応答を可能にできた。この技術は、超高速光通信のみならず様々な超高速信号処理などへの応用が期待されている。このフォトダイオードのパルス応答実験からTHz(テラヘルツ)領域までの信号発生が可能であると期待されるため、サブミリ波天文学で必要とする1THzあるいはそれ以上の信号発生に挑戦している。当面はフォトダイオードを広帯域アンテナに搭載した準光学方式でテラヘルツ領域までの測定評価を予定しており、1年以内に350GHz帯用導波管マウント型フォトミクサーを開発する計画を進めている。


■ ALMA(アルマ)計画への応用
 チリの5000m高地に日・北米・欧の国際協力で建設が予定されている巨大電波望遠鏡ALMAでは、低雑音の超伝導受信機を使って宇宙からの微弱なミリ波・サブミリ波を受信する。銀河や星間物質などの分子スペクトル観測のために、上記ヘテロダイン法が使われる。ALMAのように14kmの範囲に配置された多数のパラボラアンテナを結合して宇宙を観測するALMAにとって、このフォトニクス技術による局部発振器の技術は重要なキーテクノロジーの一つである。
 10km以上も離れたパラボラアンテナに高純度の基準信号を分配するには光ファイバ伝送が唯一可能な方法であり、また1000台近い受信機ユニットの安定な運用にとって、シンプルで機械的な可動部分のないフォトニック局部発振器は大変有利な方法である。フォトニック局部発振器は、国際協力で建設されるALMAにおいて日本の貢献に大きな期待が寄せられている分野である。この技術は将来、電波天文学、とりわけミリ波・サブミリ波天文学にとって間違いなく大きなブレークスルーをもたらすであろう。例えば超広帯域のヘテロダイン観測が可能なサブミリ波天文観測衛星への応用などが考えられる。


■ 期待される波及効果
 本技術は天文学のみならず、分光学、高度情報通信、地球大気環境計測、医療診断技術、核融合プラズマ診断など非常に広範囲な分野への波及効果が予想される。



注)なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金[研究課題名:「フォトニクス技術による超広帯域サブミリ波ヘテロダイン観測法の開発」、平成12年度〜14年度、研究代表者:石黒正人(国立天文台)]によって実施されたものである。



導波管型フォトミクサの構造
フォトミクサーからの出力信号例および従来性能との比較




<本件に関するお問い合わせ先>
■ 国立天文台
石黒正人 (国立天文台教授、ALMA計画準備室)
電話:0422-34-3765 FAX:0422-34-3764 電子メール:ishiguro@nro.nao.ac.jp

■ NTT先端技術総合研究所 企画部
相原、活田、佐々木
電話:046-240-5152 電子メール:st-josen@tamail.rdc.ntt.co.jp



News Release Mark
NTT NEWS RELEASE