News Release


(報道発表)
2001年8月30日



世界初、複数ISP間の経路障害を解析する
インターネット自動診断システム“ENCORE”を開発


 日本電信電話株式会社(NTT)では、インターネット上で複数のインターネット接続業者(ISP)間にまたがる経路障害を自動診断するシステム“ENCORE”(注-1)を世界に先駆けて開発しました。
 NTT未来ねっと研究所が開発した“ENCORE”は、変化しながらインターネット全体に伝播するISP間経路情報の挙動を把握するために、各ISPに経路情報を観測するエージェント(注-2)を配し、これらの情報を統合して経路情報の挙動を推論し、障害の原因解析を行う知的診断システムです。これにより個別ISPからは困難であった、複数ISP間にまたがる経路障害の自動的な早期発見・解析を可能とし、安定性に優れたインターネット環境の構築を実現します。
 またNTT未来ねっと研究所では、この“ENCORE”の有効性を明らかにするために、観測エージェントを日本国内およびアメリカ東海岸ニューヨーク州に設置し、世界規模での評価実験を6月から開始しました。本システムは、観測エージェント数を増やすことで、より正確な診断が可能となるため、今後もNTTコミュニケーションズ株式会社と共に評価実験の範囲をさらに拡大していく予定です。


<開発の背景>
 インターネットは、 AS(Autonomous System = 自律システム)と呼ばれるISP、大学、企業などのネットワークの巨大な集合体です。あるASから送りだされたIPパケット(注-3)は、複数のASを経由して目的のASに到達しますが、その際、IPパケットの転送経路は、各AS内のルータ(注-4)の経路表に従って決定されます。経路表は、AS間で交換される経路情報を参照することによって、設定されますが、その際経路情報は、各AS内でそのASの経路情報管理ポリシー(注-5)に従って書き替えられながら全世界のネットワークに伝播していきます。

 しかしながら、この経路情報管理ポリシーはASごとに独自であるため、AS間でのポリシーの不整合が発生しやすく、また、そのポリシーのルータへの設定も手作業で行われるため、設定の誤りが発生しやすく、経路が不安定になったり、場合によっては大規模な接続性の喪失事故を引き起こしたりします(図1参照)。
 このような問題を解決するには、経路情報を追跡できればよいのですが、現状では、広報した経路情報が各ASでどのように加工されIPパケット転送制御に使われているかについて、発信元ASから観測したのみでは分からないという困難さがあります。
 これに対し、NTT未来ねっと研究所では、実ネットワークでの運用経験と実障害解析事例を基に分析を行い、AS外部に置いた複数のエージェントの分散定常観測と協調解析機能を用いてこの問題を解決する技術を確立し、これを実現する診断システムを開発しました。


<技術のポイント>図2参照)
1) 複数のASに分散配置された知的エージェント間の協調による自律的な観測と検証
経路情報がそれを広報したASの意図通りに伝播していることを検証するために、広報元ASの外部から観測した情報を統合し、経路情報の挙動を推論する方法を採用しました。具体的に“ENCORE”では、エージェントを複数のASに分散配置し、それぞれのASの環境下で自律的に経路情報を観測し、エージェント間で観測情報を共有することによって、広報元ASの意図どおりであることを検証します。

2) 経路障害の発見と協調解析
各エージェントは、観測した情報を統計処理してAS固有のローカルな事象・傾向を数値化し、障害の兆候をさぐります。障害の兆候を発見した場合は、予め登録済みの仮説と比較して可能性のある仮説を取り出して検証します。その過程で必要に応じて他のエージェントと協調して診断ツールの実行や情報の交換を行ない、複数の視点からの情報を統合した解析を行ないます。

3) 障害事例に基づく診断知識
障害の兆候の発見、診断対象の絞り込みや検証ルールの選択には、実際のASの運用・管理の経験と障害解析事例に基づいた診断知識を用います。


<“ENCORE”導入による効果>
 従来は、AS間の経路障害は専門家が手作業による解析を行うしか方法がありませんでした。また、実際のIPパケット転送挙動の検証や障害の早期発見のため、ネットワークオペレータが変化する膨大な経路情報を常に観測し続けることも困難でした。ISP業者が本システムを導入することによって、経路情報に関する専門知識がないオペレータでも、トラフィックの挙動が設計意図通りであることの検証や、障害の早期発見を行うことが可能となります。またある程度までのAS間の障害に関しては、自動障害解析を行うことができ、より複雑なAS間障害解析に関しては、オペレータへの早期通知、解析に必要なデータの提供を行ない、オペレータの解析コストを削減することが可能となります。


<今後の展開>
 日本国内とUSA東海岸に設置された観測ポイントを使って、“ENCORE”システムの世界規模での評価実験を進めます(図3参照)。また、“ENCORE”は観測エージェント数を増やすことでより正確な診断結果が得られる技術であるため、今後、NTTコミュニケーションズと共に観測点を増やして実験を拡大する計画です。
 さらに、本評価実験環境から得られた知見を元に“ENCORE”を発展させた知的エージェントによる自律的なネットワーク管理環境の研究を推進します。


<用語解説>
(注-1)ENCORE
An Inter-AS diagnostic ensemble system using cooperative reflector agentsの略

(注-2)エージェント
本来は「代理人」の意味ですが、コンピュータネットワークの世界では利用者の操作を必要とせず、自律的に情報収集や状況判断を行って適切な処理動作を実行できる機能あるいはそのソフトウェアを指します。

(注-3)IPパケット
インターネット上の情報の転送単位です。情報を小分けにし、それぞれに行き先の情報(宛名)を付けたものです。

(注-4)ルータ
インターネットの中に置かれ、最適な経路(ルート)を選択してIPパケットを伝送する装置です。

(注-5)ポリシー
実際のIPパケット転送をどのように制御するかを決定する運用上の規約です。



図1:経路情報の障害事例
図2:ENCOREの特徴
図3:世界規模での実験ネットワーク環境




<本件に関する問い合わせ先>
NTT 先端技術総合研究所 企画部
相原、活田、甕、佐々木
Tel : 046-240-5152
E-mail : st-josen@tamail.rdc.ntt.co.jp



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