News Release

2003年8月20日


世界最高の周波数特性を持つダイヤモンド半導体の作製に成功
〜通信衛星、放送局、レーダー用電子素子として実用化に目途つく〜


 日本電信電話株式会社(以下、NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)は、次世代の半導体であるダイヤモンド半導体素子を作製、世界最高の周波数、出力を得ることができました。これまで真空管でしか実現できなかった宇宙空間にある通信衛星やテレビの地上放送局、レーダーなど高周波帯域・高出力の電子素子を半導体化できるだけでなく、その出力を飛躍的に向上させることができます。
 NTT物性科学基礎研究所は、ドイツのウルム大学と共同で、高純度低欠陥ダイヤモンド結晶を使ったダイヤモンド半導体素子の作製に成功しました。同素子の能力は、周波数81G(ギガ、1ギガは10億)Hzで、通信衛星やレーダーなどが使うミリ波帯域(周波数30GHz以上、300GHz未満)での高周波増幅を実現しました。素材がダイヤモンドであるため、シリコンやガリウムヒ素などの半導体と比べ、放熱性や耐高電圧性に優れており、地上はもちろんのこと宇宙空間でも安定的に動作することができます。
 これまでダイヤモンド半導体は、シリコン半導体などに比べて、多くの結晶欠陥や不純物が混入するといった製造工程上の課題を抱えており、実験段階にとどまっていました。しかし、昨年4月に当社が開発した高品質ダイヤモンド薄膜結晶の作製技術により、これら課題を解消し、ウルム大学の半導体微細化技術を得て、今回のダイヤモンド半導体素子作製に結び付けることができました。


<高周波・高出力ダイヤモンド半導体の特徴>
・次世代半導体であるダイヤモンド半導体結晶の作製技術を確立
・ミリ波帯域の周波数81GHzを実現
・宇宙空間でも長期間使用できる信頼性がある
・通信衛星、地上放送局などの真空管を代替、高出力化できる
・デバイス周辺技術が確立すれば実用化(出力30W/mm)へ


<開発の背景>
 近年、通信の大容量化に伴い、電子素子の高周波数化と高出力化が求められています。携帯端末であれば周波数・出力は1.5GHz・1W程度で済みますが、通信衛星、テレビの放送地上局などでは10GHz・1kWレベル以上の高周波・高出力化が必要になっています(図1)。しかし、これらの周波数帯域では、半導体の電子素子がまだなく、いまだに真空管が用いられているのが現状です。いうまでもなく真空管は半導体に比べ効率が低くエネルギーロスが大きいため、環境保全の観点からも半導体化が課題となっていました。
 半導体の素材については、シリコン、炭化ケイ素、ガリウムヒ素、窒化ガリウムなどが実用化段階に入っていますが、理想的なダイヤモンドができた場合は、その物理性質上から、シリコンや窒化ガリウムをこえる周波数、出力が得られることが理論上わかっています。理想的なダイヤモンドは、シリコンに比べて、高温動作で5倍、高電圧化で30倍、高速化では3倍の特性が期待されます(図2)。これは、ダイヤモンドが半導体の中でも最大の熱伝導率があり放熱性が良く、また、高い絶縁破壊電圧(*1)があるため長寿命であるばかりでなく、最大キャリア移動速度(*2)も非常に高いからです。そのためダイヤモンドは、高周波電子素子として最も適した究極の半導体と見られてきました。
 しかし、これまで人工のダイヤモンドは、ほかの半導体と比較し、結晶製造時に非常に多くの結晶欠陥が発生し、多くの不純物を含有してしまうといった問題点があり、究極の半導体ではあるが、実用化は容易ではないとされてきました。


<技術のポイント>
<1>高純度低欠陥ダイヤモンド結晶の安定的な製造技術
 当社は昨年4月、高純度低欠陥のダイヤモンド薄膜結晶作製技術を開発しました(図3)。ダイヤモンド結晶の半導体としての特性を阻害する原因は大きくは3つあり、グラファイト成分、結晶欠陥、不純物(*3)です。グラファイト成分は半導体の動作速度であるキャリア移動速度を低下させます。結晶欠陥と不純物があると、回路上に電流が漏れてしまうリーク電流が発生、高出力が得られません。
 当社が開発した技術では、グラファイト成分、結晶欠陥、不純物がほとんどできない最適な条件(作製温度650度C〜750度Cなど)を発見、結晶欠陥とグラファイト成分を完全に除去するとともに不純物を従来の20分の1に低減させました。これによりリーク電流がほとんどなくキャリア移動速度の低下もない、本来ダイヤモンドが持っている特性を活かした半導体を素子化できる道を開きました。

<2>ダイヤモンド結晶による半導体素子化技術を確立
 このダイヤモンド結晶を用いて、ドイツのウルム大学と共同でダイヤモンド半導体素子を作製しました(図4)。ダイヤモンド基板とダイヤモンド成長層の上にT型ゲートと呼ばれるサブミクロン微細電極を形成しました。デバイスの性能を決めるゲート間隔は0.2m(ミクロン、1ミクロンは1000分の1ミリメートル)というもので、これも世界最高レベルにあります。
 これにより、最大動作周波数は81GHzと、従来のダイヤモンド半導体素子で報告されている最高値である33GHzの2倍以上の高周波数となり、ミリ波帯域での増幅を世界で初めて確認しました(図5)。この数値は瞬間的なものではなく、これまでも継続的に動作を続けており、長期間の使用にも耐えられることを証明しております。また、出力においても、素子周辺技術が確立しさえすれば実用化レベルの出力30W/mmに到達できるという目途が立ちました(図6)。


<今後の展開>
 今後、ダイヤモンド中の不純物のさらなる低減を進め、周波数200GHz、出力30W/mmを目標に、次世代半導体素子の早期実用化に取り組みます。

 
<用語解説>
*1 絶縁破壊電圧
 半導体にある一定値以上の高電圧を加えると、半導体は破壊されてしまいます。この現象を絶縁破壊といいます。この現象が起こる電圧値は絶縁破壊電圧といいます。絶縁破壊電圧は物質の種類によって決まります。半導体の絶縁破壊電圧が高いほど、高電圧で半導体素子を動作させることができるので、高出力電子素子として有利です。ダイヤモンドは最も丈夫な半導体なので、絶縁破壊電圧が非常に高いという特徴があります。
 
*2 キャリア移動速度
 キャリアは半導体素子の機能をつかさどる担体(電子、正孔)のこと。結晶品質が高いほどキャリア移動速度が高くなり、デバイス動作速度が増大します。しかし最高品質の結晶でもキャリア移動速度には物質の種類によって決まる最大値があります。それを最大キャリア移動速度といいます。最大キャリア移動速度が高いほど高周波電子素子として有利だといえます。ダイヤモンドはこの最大キャリア移動速度が高いという特徴があります。
 
*3 グラファイト成分、結晶欠陥、不純物
 グラファイトはダイヤモンドと同じく炭素原子だけで構成しますが、ダイヤモンドが4本の腕が正しく出ているのに対し、グラファイトは腕が3本しかない状態です。結晶欠陥は、同じ炭素原子であっても並ぶ方向などがずれていると考えられています。ちなみに不純物は、炭素以外の酸素原子や窒素原子がつながっているもの。



図1 通信の大容量化に伴う半導体の高周波数化・高出力化の必要性
図2 ダイヤモンドの優れた物理性質と半導体素子の性能
図3 技術のポイント(1) 高純度低欠陥ダイヤモンド結晶の安定的な製造技術
図4 技術のポイント(2) ダイヤモンド結晶による半導体素子化技術を確立
図5 技術のポイント(2) 世界最高の高周波増幅
図6 技術のポイント(2) 素子周辺技術が確立すれば実用化へ




〔本件問い合わせ先〕
NTT先端技術総合研究所
企画部 情報戦略担当
澤木、甕(もたい)
TEL(046)240-5152
E-MAIL: st-josen@tamail.rdc.ntt.co.jp


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