News Release

(報道発表資料)
2003年9月24日


世界最高の電気光学効果を持つKTN結晶材料の作製に成功し
光通信用デバイスの飛躍的な高性能化へ見通し


 日本電信電話株式会社(以下、NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)は、世界最高の電気光学効果(*1)を有するKTN結晶(KTa1-xNbxO3)の作製に成功しました。また、KTN結晶の成膜技術ならびに加工技術を開発し、光透過特性に優れた光導波路を実現しました。この光導波路を用いて作製した光スイッチが、既存の光スイッチの約1/10の駆動電圧で動作することを確認し、光デバイスレベルでKTN結晶の高い電気光学効果を実証しました。
 今回作製したKTN結晶ならびに光導波路を用いることにより、光変調器や光スイッチなどの従来のLiNbO3光デバイスの駆動電圧やサイズを一桁改善できると共に、次世代の高機能デバイスの開発に道を開きました。

 KTN結晶とは、カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)と酸素(O)から成る透明な光学結晶であり、1950年代に初めて合成され、光デバイスの性能を決定する2次の電気光学効果(カー効果)が極めて大きい材料であることが知られていました。しかし、結晶成長が難しく、実用的な光デバイス材料とは考えられていませんでした。
 NTTフォトニクス研究所では、結晶のサイズは「KTNの大型結晶作製には温度の精密制御が重要である」ことを見出したことにより、40mm角という実用的な大きさを世界で初めて達成しました。今回作成したKTN結晶の電気光学効果の大きさを表す電気光学係数は600pm/V以上で、従来から使用されている材料LiNbO3*2)の20倍以上に達しています。この値は、光デバイスなどに応用したときに、サイズや駆動電圧を一挙に一桁以上向上させられる大きさです。さらに、光スイッチを作製し、駆動電圧が1/10となることを確認いたしました。


<開発の背景>
  近年、基幹ネットワークの大容量化は一段落し、メトロやアクセス系ネットワークの大容量化・高機能化を目的とした開発が進展しています。この実現には、光部品の小型化、省電力化、高機能化などが不可欠です。特に重要な光変調器や光スイッチは、従来、LiNbO3光デバイスが用いられていますが、小型化と駆動電圧の低減が課題となっています。しかし、LiNbO3などの材料の電気光学効果が小さく実現できていません。光デバイスの小型化や低電圧化を可能にするためには、従来の電気光学結晶LiNbO3の電気光学効果を上回る新たな材料の開発が望まれていました。また、次世代のネットワークを革新する、高速で動作し高密度に集積可能な高機能光信号処理デバイスの実現に向けて、機能性の高い材料の開発が期待されていました。


<技術のポイント>
<1>大型・高品質なKTN結晶育成技術(図1
 結晶成長条件の最適化と温度の精密制御により、光デバイスの作製が可能なサイズ(約40mm角で長さが約30mm)の世界最大級の結晶を作製することに成功しました。この結晶の電気光学係数は、実用化されている電気光学結晶LiNbO3の20倍以上であることを実証しました(電界60V/mm以上の場合)(図3)。

<2>光導波路作製技術(図4
 作製した結晶を基板に用い、その上にKTN結晶膜を液相エピタキシー法(LPE法)(*3)により成長する技術を確立しました。今回、結晶膜の基板表面の温度変動を抑制し成長速度を精密に制御することにより、光導波路に必要な、5〜10ミクロン厚の高品質な結晶膜を精度良く作製することが出来、ドライエッチング技術(*4)との組み合わせにより、光の透過損失が0.5dB/cm(*5)という低損失な光導波路を実現しました。

<3>光スイッチ動作の確認(図5
 KTN結晶導波路と石英ガラス導波路で、マッハツェンダー干渉計(*6)を構成しました。このマッハツェンダー干渉計は、KTN結晶導波路上に搭載した電極に電界が印加されると出力ポートが切り替わり光スイッチとして動作します。作製した光スイッチの特性を測定したところ、1.3Vという従来の約1/10の駆動電圧で出力ポートが切り替わることを確認しました。さらに、光スイッチにとって必須である偏光に依存しないスイッチ動作(*7)を実現し、偏光無依存の光スイッチとして最小の駆動電圧を達成しました。


<今後の展開>
 高機能光信号処理デバイスの実現に向け、大型結晶の育成や大規模な光回路作製を進め、KTN結晶が有する極めて大きい電気光学効果の有効性を実証する予定です(図6)。


<用語解説>
*1:電気光学効果
電界を加えることにより材料の屈折率が変化する現象。加えた電界に屈折率変化が比例する効果を1次の電気光学効果(ポッケルス効果)、加えた電界の二乗に屈折率変化が比例する効果を2次の電気光学効果(カー効果)と呼びます。

*2:LiNbO3
ニオブ酸リチウム。実用化されている材料の中では、最高の電気光学効果を有する材料で、通信用の光変調器として広く用いられています。

*3:液相エピタキシー法
液相エピタキシー法とは、溶液に基板を浸し、基板上に所望の結晶膜を成長させる方法です。欠陥の少ない高品質な結晶膜を、高い成長速度で作製できることが特徴です。

*4:ドライエッチング法
装置チャンバー内でプラズマ(放電)を発生させ、その内部で生成したイオンやラジカルなどの反応性の高いガスを利用して結晶やガラスなどの材料を微細に加工する技術です。

*5:dB/cm
光導波路の光の伝搬損失を表す単位です。0.5dB/cmは、1cmの単位長さあたりの光損失が0.5dB(透過率として約90%)であることを示しています。

*6:マッハツェンダー干渉計
干渉とは、2つの光の波が同一点で重なりあって互いに強め合う、あるいは弱め合う現象です。マッハツェンダー干渉計は、一つの光を分岐し、分岐した二つの光を再合成することで、光の干渉を起こす装置です。分岐した二つの光の光路差を変化させることにより、再合成した光の強度を変化させることが出来ます。この装置は、通信用部品として、光スイッチや光変調器に利用されています。

*7:偏光に依存しない動作特性
光はその進行方向に垂直な面内で互いに直角の方向に振動する2つの光の成分に分けることができます。一般に光導波路では、基板の垂直方向と水平方向の光学的性質がわずかに異なるために、その性能が偏光によって異なる現象が起こります。特に、電気光学結晶では、結晶の方位によって光学特性が大きく異なるため、電気光学結晶を用いた光デバイスでは2つの偏光で性能が大きく異なり、その克服が大きな課題でした。



(図1)KTN結晶
(図2)作製したKTN結晶
(図3)KTN結晶の電気光学効果
(図4)光導波路の作製
(図5)KTN光スイッチ
(図6)今回の成果




〔本件連絡先〕
NTT先端技術総合研究所
企画部 情報戦略担当
澤木、甕(もたい)
TEL(046)240-5152
E-MAIL: st-josen@tamail.rdc.ntt.co.jp


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