News Release

2004年2月12日


光メモリ“インフォ・マイカ”のプロトタイプを完成
〜切手サイズのプラスチック媒体で1GBの記憶が可能に〜


 日本電信電話株式会社(以下 NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)では、プラスチック樹脂媒体に大容量のデータ記憶を可能とする積層導波路構造*1をもった薄膜ホログラム*2メモリ方式の研究開発を行ってきましたが、このたび、100層で1ギガバイトの記憶が可能な切手サイズの媒体、および手のひらに載る小型データ読み出しドライブの試作に成功し、実用化への目処をつけました。今後は、NTTが2003年7月に開始した取り組みである「総合プロデュース機能」に基づき、メーカ各社と協力の上、インフォ・マイカ(Info−MICA: Information-Multilayered Imprinted CArd)*3の名称で、来年中の製品化を目指します。
 なお、本成果は、経済産業省のプロジェクト*4の成果の一部を用いています。



1.インフォ・マイカの特徴及び用途
 プラスチック樹脂媒体に大容量のデータ記憶を可能とするインフォ・マイカには、従来のメモリと比較して、
  <1> 媒体が極めて高い記憶密度を持つ、
  <2> ドライブが小型低消費電力、
  <3> 低コストでの媒体大量生産が可能、
  <4> 媒体偽造が極めて困難、
  <5> 媒体のリサイクルが可能、
という特徴があります。このような特徴から、今後、インフォ・マイカには大きく三つの用途が想定されます。
 一つ目の用途は、小型・安価・大容量の特性から、半導体ROMの代替です。特に今後、より多くの冊数の辞書データ記憶が求められる電子辞書、派手なグラフィック表示に大容量データ記憶が必要なパチンコ機およびカーナビの各分野での利用が期待されます。
 二つ目の用途は、媒体頒布性に優れリサイクルが可能なことから、紙に代わる本格的配布媒体としての利用が挙げられます。雑誌や商品に貼り付けたり、インフォ・マイカ媒体そのものをチケットやクーポンとして配布し、関連する情報をユーザへ届けたりする用途が期待されます。
 そして、三つ目の用途は、偽造が困難で大容量であることから、ゲームや音楽、映画、電子出版などのリッチコンテンツの発行用途です。特に消費電力と大きさの制約が厳しい携帯電話や携帯ゲーム機へインフォ・マイカドライブを組み込むことにより、ユーザはリッチなマルチメディアコンテンツをもっと身近に楽しむことができるようになります。特に、深刻な海賊版問題に直面している音楽業界からは、インフォ・マイカは偽造が困難でコピーコントロールの可能な次世代媒体として期待されています。
 インフォ・マイカ普及活動の一環として、すでに国際レコード産業連盟(IFPI: International Federation of Phonographic Industry)主催の技術サミットや日本レコード協会(RIAJ: Record Industry Association of Japan)主催のTechno-Legal Forumなどを通じて、5大レーベルを始め日米のレコード会社のメンバーに説明し、音楽メディアに用いた場合の意見交換を行いました。


2.インフォ・マイカの動作原理
 インフォ・マイカは、薄膜ホログラム原理に基づいてディジタル情報を記憶、再生する技術です(別紙1)。情報の記憶は、最初にディジタル情報を二次元符号化し、その符号化された情報をもとに計算機によって合成したホログラム(計算機ホログラムCGH:Computer Generated Hologram*5)を、媒体のひとつの導波路層内にサブミクロンの凹凸パターンとして形成することにより実現されます。情報の再生は、まず情報が記憶されている導波路層に端面からレーザ光を入射します。そうするとその導波路層内の凹凸パターンによって光が散乱し、その散乱した光が重なり合って、レーザ光入射に対して垂直の方向に再生像が結像します。その再生像を撮像素子で捕らえ、その後二次元復号化を行うことにより、元のディジタル情報を復元します。

 インフォ・マイカは、これまで発表されている他のホログラムメモリに対して、次のような原理的特徴を持っています。
(1) インフォ・マイカは“薄膜ホログラム原理”に基づいており、従来の体積ホログラム原理を用いたものに比べ、光源の波長変動や媒体の体積膨張に対して寛容であるという特徴があります。そのため、読み出しドライブの光源として、個体差や温度差によって波長が大きく変動してしまう汎用半導体レーザがホログラムメモリとしてはじめて利用できるようになり、小型で安価な読み出しドライブの構成を可能としました。また、大きな熱膨張係数を持つことから従来ホログラムメモリの媒体材料には不向きとされていた安価な汎用プラスチック材料がはじめて利用できるようになり、CDやDVDと同様に原版転写プロセス*6による媒体の低コストでの高速大量生産を可能とします。さらに、媒体は100%プラスチック樹脂のみでできていますので、リサイクル性にも優れています。
(2) インフォ・マイカ媒体は、光ファイバと同様に光を閉じ込める導波路構造を持つため、薄膜ホログラム(凹凸パターン)からなる層を積み重ねても、クロストークと呼ばれる層間の光漏れが発生しません。このため、極薄の導波路層を多数積層することにより記憶容量を容易に上げることが可能となります。
(3) インフォ・マイカは薄膜ホログラムメモリであるため、光学設計自由度の高い計算機ホログラム(CGH)が利用可能です。今回新たに考案した開口多重*7と呼ばれるデータアクセス法を、この計算機ホログラム(CGH)と光学系に設置した独自フィルタにより実現しており、ホログラム媒体の持つ緻密で大量のデータを安価な部品構成で効率よく読み出すことができるようになりました。


3.実装技術の開発と試作ドライブ
 インフォ・マイカを実現するため、NTTでは以下の実装技術の開発に成功しました。
積層された導波路層の各層に対してレーザ光線を入射する際、自動的に入射光の位置ずれを補正し、常に最適導波条件を維持するメカニズムを開発しました。
少ない処理量と高い符号化効率を両立する独自の画像整形技術ならびに二次元符号化アルゴリズムを開発しました。これにより、信号処理のための消費電力を低く抑えたまま、再生像の位置ずれや傾きを高精度で補正し、安定なデータ再生を実現します。現在、この信号処理を行う専用LSIも開発中です。
インフォ・マイカ媒体を転写製造するための原版に関しては、その凹凸パターンの描画線が重なりにくい独自描画アルゴリズムを開発しました。これにより、現在広く普及しているDVDマスタリング装置の流用による原版製造に目処を立てました。

 上記の実装技術に基づいて今回試作したデータ読み出しドライブのサイズは、88mm(W)×37mm(D)×22mm(H)で、手のひらに載せて持ち運び可能です(別紙2)。ディジタル情報を二次元符号化・記憶した試験用媒体(サイズ:25mm(W)×25mm(D)×2mm(T),別紙3)を用いて、所望の導波路層へのサーボ制御によるレーザ光入射、ホログラム再生像の撮像素子での取り込み、二次元復号化処理、ディジタル情報復元までの連続動作を確認しました。ドライブでは半導体レーザやフレネルレンズなどの採用により光学系を小型化するとともに、電磁アクチュエータによって、高精度に1.5ミクロン厚の導波路層へのアクセスを実現しています。また、ディジタル情報を二次元符号化・記憶した100層以上の媒体(容量1ギガバイト以上)を原版転写プロセスによって安定的に製造できることを既に確認しています。これにより、100層で1ギガバイトの記憶が可能な切手サイズの媒体、および手のひらに載る小型データ読み出しドライブ実用化への目処をつけました。


4.背景としてのNTTの総合プロデュース機能
 本件は、研究開発と事業化との間にある、いわゆる“死の谷”を克服することを目的とし、2003年7月から開始している“総合プロデュース機能”に基づく事業化を予定しています。総合プロデュース機能とは、事業化の責任者として指名されたプロデューサがNTTグループ内外の企業と協力しながら、NTT研究所の優れた研究成果の事業化を直接推進していく取り組みです。NTTは今後も総合プロデュース機能により、さまざまな研究開発成果を幅広く事業化推進していく予定です。


5.今後の展開
 NTTでは、総合プロデュース機能に基づき、メーカ各社と協力の上、2005年中に切手サイズで記憶容量1ギガバイトの読み出し専用メモリ(ROM:Read Only Memory)として、インフォ・マイカの製品化を目指します。量産時のコストは、ドライブが数千円、媒体が100円〜200円と想定しています。
 将来は映画の記憶も可能な10ギガバイト以上*8の読み出し専用メモリの商品化も目指します。また、NTTでは、インフォ・マイカ方式で書き込み可能な媒体材料およびドライブ構成に関しても基礎研究を継続して行っていきます。

NTTのインフォ・マイカの詳細は、専用ホームページ(http://www.info-MICA.com/)でも提供しています。



<用語解説>
*1 積層導波路構造:
 屈折率の高い層(コア層)と低い層(クラッド層)が、交互に積層された構造のことを言います。これにレーザ光を入射すると、光ファイバと同じように光がコア層付近に閉じ込められて伝搬していきます。インフォ・マイカでは、各コア層に凹凸パターンが設けられており、これによって光が散乱されます。この凹凸パターンは、予め情報を含ませた薄膜ホログラムで、散乱光が画像を生成し、この画像から情報を再生することができるように設計されています。また、レーザ光を入射させる層を選択することで、各層に記憶された情報を個別に再生できます。

*2 薄膜ホログラムと体積ホログラム:
 薄膜ホログラムは、ホログラムの厚みが光の波長程度か、それより薄い場合のホログラムです。回折を起こす条件が緩く、異なる波長や入射方向をもつ参照光に対しても、回折光が得られます。一方、体積ホログラムは、ホログラムの厚みが光の波長より十分厚い場合のホログラムです。回折条件が厳しく、特定の波長と入射方向をもつ参照光に対してのみ回折光を発生します。従来、大容量メモリといえば、この体積ホログラムの検討が主流でした。

*3 インフォ・マイカ(Info-MICA):
 Information Multilayered Imprinted CArdの略。雲母(mica)のような層状構造を持ったメモリ媒体からの命名です。

*4 経済産業省のプロジェクト:
 平成10年度から5年間における、産業技術応用開発制度に基づくプロジェクト「ナノメータ制御光ディスクシステムの研究開発」です。

*5 計算機ホログラム(CGH:Computer-Generated Hologram):
 所望の再生像が生成されるよう、コンピュータの計算で合成されたホログラムのことです。

*6 原版転写プロセス:
 現在のDVD媒体においても採用されている媒体製造方法で、あらかじめ凹凸のある原版を作製しておき、それを樹脂に転写して媒体を製造していく手法です。高速に製造できるため、媒体コストの低減が可能です。

*7 開口多重:
 媒体の1層内に開口毎の情報を多重して記憶しておく方式のことを言います。薄膜ホログラムでは、特定の1層にレーザ光を入射させるだけで、一瞬にして大量の情報をもつ画像を再生することが可能です。しかしながら、ホログラム媒体から再生された緻密な画像と、CCDなどの安価な汎用撮像素子の粗いピクセルピッチと間には2桁程度の密度差があり、汎用撮像素子で一度に映像を取り込むことは困難でした。インフォ・マイカでは、市販の安価な撮像素子を用いて高密度記憶を実現するため、媒体と撮像素子の間に複数の開口を有するフィルタを設け、複数の開口の中から所望の一つを順次選択して開けていくことにより、1層内の情報を時系列に再生していく方法を採用しています。

*8 10ギガバイト以上:
 インフォ・マイカの記憶密度の可能性に関して、顕微鏡を用いた光学定盤上での媒体検査では一層あたり 1.7ギガビット毎平方インチ(1.7Gbit/inch2)を確認しています。これは、例えばSDメモリーカード(Secure Digital memory card) (注)の大きさ(24mm(W)×32mm(D)×2.1mm(T))に換算すると、25ギガバイト(100層)の記憶容量に相当します。

(注) “SDメモリーカード”は、(株)東芝、松下電器産業(株)、米国SanDisk社の共同開発によるメモリーカードです。



別紙1 積層導波路構造をもった薄膜ホログラムメモリの原理
別紙2 インフォ・マイカドライブのプロトタイプ写真 (A)(B)
別紙3 インフォ・マイカ媒体のプロトタイプ写真 (A)(B)(C)




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