News Release

2006年5月17日


世界最短波長210nmの遠紫外発光ダイオードの動作に成功
〜ダイオキシン、PCB分解装置などに応用へ〜


 日本電信電話株式会社(以下NTT;本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)は、すべての半導体の中で最も短い波長で発光することが理論的に予測されている窒化アルミニウム(AlN)を用いた発光ダイオードの動作に世界で初めて成功しました。これまで、水銀ランプなどのガス光源でしか実現できなかった、波長200〜300nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)の遠紫外領域の光源を半導体化でき、環境にやさしく、小型化、高信頼化させることができます。
 AlN素子の発光波長は210nmと遠紫外光*1のなかでも最も短い領域であるため、紫外光の有効作用である分解能力も高く、近年、社会問題化しているダイオキシン、PCB*2などの高安定な有害物質分解など環境保全装置への応用が見込まれます。また、半導体による発光ダイオードであるため、従来の水銀ランプと違い、環境の観点から無害であるばかりでなく、高出力化した遠紫外半導体レーザができれば、数十nmの微細構造加工装置で用いられているガスレーザを代替し、小型化、高信頼化、高効率化が期待できます。
 これまでAlNは、多くの結晶欠陥や不純物が混入するという製造工程上の問題を抱えていました。しかし、当社は今回、きわめて純粋のAlN結晶作製技術に成功し、さらに、発光ダイオード作製に不可欠なp型およびn型ドーピング技術*3を世界に先駆け成功し、今回の世界最短波長の遠紫外発光ダイオードの実現に結び付けることができました。
 今回の成果は、実用化への第一歩にすぎませんが、理論上で最短波長発光可能と予測されている半導体で発光ダイオードを実現した学術的意義から、英国の科学誌「ネイチャー」(5月18日号)に掲載される予定です。


<窒化アルミニウム発光ダイオードの特徴>
高純度の窒化アルミニウム半導体結晶の作製技術を確立
発光ダイオード実現に不可欠な、p型、n型ドーピング技術の実現
世界最短波長で遠紫外の210nmの発光を実現
水銀ランプなどの従来の遠紫外ガス光源を代替できる

<開発の背景>
 AlNは直接遷移型*4の半導体の中で最も大きなバンドギャップ*5を持ちます。そこで、もし、AlNで半導体発光素子を作製できるようになれば、他の半導体材料では物理的に実現不可能な、最も短い波長の光を発生することが理論上予測されていました。つまり、AlNは「最短波長の発光半導体」です(図1)。しかし、これまでのAlNでは、結晶欠陥が非常に多く、また半導体素子の作製に必要不可欠なp型、n型ドーピングができなかったため、AlNの発光ダイオードは実現していませんでした。
 現在、窒化ガリウム(GaN)による青色発光ダイオードや半導体レーザが実用化されていますが、発光波長は近紫外光*1の365nmにとどまっています。
 これまでの遠紫外光の光源としては、水銀ランプやガスレーザなどのガス光源しかなく、水銀ランプでは水銀の有害性があり、ガスレーザはガスの交換が必要、大型、低効率といった実用上の問題があります。これらの遠紫外光源を半導体素子で置き換えることができれば、高信頼化、小型化、高効率化が可能になります。
 また、遠紫外光は波長が非常に短いため一般的に、物質との反応性が高い、微小な領域に光を集光できる、小さな微粒子を検出できる、などの性質があります。このため、遠紫外発光ダイオードは、環境、ナノテクノロジ、高度情報技術、医療、衛生、バイオ、など幅広い分野での応用が期待できます(図2)。

<技術のポイント>
1.高純度AlN半導体結晶の作製技術
 NTT物性科学基礎研究所は、AlN半導体の結晶作製のポイントは結晶欠陥*6と混入する不純物にあることをつきとめました。そこで、1100℃という高温での結晶成長に耐える装置の改良、アルミニウム(Al)原料と窒素(N)原料の副次的な反応の抑制などの技術を組み合わせ、AlN中の結晶欠陥密度と不純物濃度をそれぞれ従来の10分の1以下に低減させ、世界最高品質の結晶作製技術を確立することに成功しました(図3)。

2.AlNのp型、n型ドーピング技術
 高純度結晶作製技術をもとに世界に先駆け、AlNにマグネシウム(Mg)をドーピングすることでp型を、AlNにシリコン(Si)をドーピングすることでn型をそれぞれ実現しました(図4)。

3.AlN遠紫外発光ダイオードの作製
 続いて、同様のAlN結晶で作製した高純度発光層をn型AlNとp型AlNの間に挟みこんだ発光ダイオードを試作しました(図5)。AlNの発光ダイオードに電圧を加えて電流を流したところ、世界最短波長210nmの遠紫外光の発生を確認しました(図6)。

<今後の展開>
 今後、AlN中の結晶欠陥と不純物の更なる低減と、ドーピング技術の改善により、発光ダイオードの高効率化と実用化に取り組んで参ります。

<用語解説>
*1 遠紫外光、近紫外光
 波長400nm(ナノメートル)以下の光は紫外光と呼ばれます。紫外光の中でも、波長200〜300nmの紫外光は遠紫外光または深紫外光と呼ばれ、波長300〜400nmの紫外光は近紫外光と呼ばれます。ちなみに、波長200nm以下の紫外光は、大気で吸収されてしまうため、真空紫外光と呼ばれますが、応用は極めて困難です。すなわち、遠紫外光が、地上において使うことのできる、最も短波長の光です。波長が短い光ほど、より微小領域に集光できる、エネルギーが高いという性質があります。

*2 ダイオキシン、PCB
 ダイオキシン、PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、人体に有毒である上に、化学的に極めて安定であるため環境汚染が深刻な社会問題になっています。これらの環境有害物質を化学的に分解し、無害化する方法の一つとして、遠紫外光を照射する方法があります。これまでの遠紫外光源はガス光源であったため、実用的ではありませんでしたが、AlN発光ダイオードが実用化すれば、環境有害物質分解のための光源として利用できます。

*3 p型、n型ドーピング技術
 半導体に微量の不純物を添加(ドーピング)することで、半導体の電気的性質を変えることができます。プラスの電荷を持った正孔が多くなるようにドーピングする場合をp型ドーピングと呼び、マイナスの電荷を持った電子が多くなるようにドーピングする場合をn型ドーピングと呼びます。発光ダイオードや半導体レーザは、p型層から正孔を、n型層から電子を発光層に供給し、そこで正孔と電子を結合させて光に変換する原理で動作するため、p型、n型ドーピング技術は、半導体発光素子では不可欠です。

*4 直接遷移型半導体
 いずれの半導体も、その物理特性から決まるエネルギー構造により、直接遷移型と間接遷移型に分けることができます。直接遷移型は、電子と正孔が効率良く結合するため、発光する効率が非常に高く(光りやすく)、発光ダイオードや半導体レーザのような発光素子に適しています。逆に、間接遷移型は、電子と正孔が結合しにくいため、発光する効率は極めて低く、発光素子には向いていません。
 例えばダイヤモンド、窒化ホウ素などは、AlNに近い大きなバンドギャップを持ちますが、間接遷移型半導体です。したがって、ダイヤモンド、窒化ホウ素などは、発光効率が極めて低いため、発光デバイスには適していません。

*5 バンドギャップ
 半導体中に供給された電子と正孔が結合する時に発生するエネルギーで、いずれの半導体も、固有のバンドギャップを持っています。バンドギャップのエネルギーと発生する光の波長は、反比例の関係があります。AlNは直接遷移型半導体の中で、最大のバンドギャップを持っているために、最短波長の光を発生させることができます。

*6 結晶欠陥と不純物
 理想的には、AlN半導体の結晶中ではAl原子とN原子が交互に規則正しく並んでいますが、結晶作製に問題があると、本来あるべき原子が抜けて穴になっていたり、Al原子やN原子以外の、例えば酸素原子が入ったりします。原子が抜けている穴を結晶欠陥と呼び、異なる原子を不純物と呼びます。結晶欠陥や不純物があると、p型、n型ドーピングをしても、それらが一旦生成した正孔や電子を捕らえてしまうため、p型、n型になりません。
 AlNは、他の半導体に比べて、構成原子であるAlとNの結合力が強すぎて、副次的な反応が起こり、結晶欠陥が生じやすく、また不純物が混入しやすいという難しさが課題でした。



図1 「最短波長発光半導体」窒化アルミニウム
図2 窒化アルミニウム遠紫外発光ダイオードが実現すると
図3 技術のポイント(1) 高純度AlN半導体結晶の作製技術
図4 技術のポイント(2) p型、n型ドーピング技術
図5 技術のポイント(3) AlN遠紫外発光ダイオード
図6 技術のポイント(4) 世界最短波長210nmの発光



<本件に関する問い合わせ先>
 NTT先端技術総合研究所
 企画部 広報担当
 為近、甕(もたい)
 Tel: 046-240-5152
 http://www.ntt.co.jp/sclab/contact


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