日本電信電話株式会社(以下NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)は、電気光学結晶*1KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3)を用いて光を自在に曲げられることができる現象を発見し、従来技術に比べて80倍のスキャン効率*2を有する超小型・超高速なEO(Electro-Optic=電気光学)ビームスキャナ*3を開発しました。
新しいビームスキャニング現象が発見されたKTN結晶は、1960年代から「高い性能を有するが結晶成長が困難である」とされていましたが、NTTフォトニクス研究所では実用サイズの結晶成長に2003年に世界で初めて成功しています(図1)。今回このKTN結晶を用いて新たに発見したビームスキャニング(図2)の原理は、従来絶縁体と考えられていたEO結晶に電流を注入することによって、屈折率のグラデーション*4を誘起するという新しい概念にもとづくものです(図3)。新発見の動作原理と、高性能なEO結晶KTNという二つのNTT独自の技術の相乗効果により実現された新原理KTNビームスキャナは、従来型のEOビームスキャナ*5と比べて80倍という世界最高のスキャン効率を達成しました(図4、図5)。
従来型のEOビームスキャナは、高速動作が可能、デジタル・アナログスキャンのいずれも可能という大きな利点があるものの、素子サイズが大型であることや、高電圧が必要であると言う理由から実用が難しいものでした。今回の発見にもとづく新原理KTNビームスキャナはEOビームスキャナのこれらの問題を一気に解決する80倍の効率を達成しました。
さらに、現在スキャナ素子として広く用いられている可動ミラー(ポリゴンミラーやガルバノミラー*6)と比べると、可動ミラーの実用上の課題である素子サイズと動作速度について、KTNビームは素子体積1/100、動作速度100倍と、いずれも2桁性能向上することができるという驚異的なポテンシャルを有しています(図6)。
今回の新しい動作原理にもとづいたKTNスキャナの実現によって、KTN結晶の応用分野が光通信の枠を超えて、映像機器、プリンティングなどのさまざまな領域へと広がり、これまでにない光デバイスの実現が期待されます。
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<技術のポイント>
1.高性能電気光学結晶KTN(図1) |
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KTN結晶は、カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、酸素(O)からなる結晶であり、その特長としては、1)誘電体の中で最大クラスの10000以上の誘電率を有する、2)大きい電気光学効果、3)有害・有毒物質を含まないので環境・人にやさしいということなどが挙げられます。KTN結晶は1960年代から、電気光学結晶として高い性能を有することが知られていましたが、結晶成長が困難でるため実用が阻まれていました。NTTフォトニクス研究所では、2003年に世界で初めて実用サイズの結晶成長に成功し、実用化の道をひらきました。 |
2.新しく発見した光スキャニング現象とその原理(図2、図3) |
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KTN結晶に電圧を加えることによって光ビームを自在にスキャンできることを今回発見しました。この現象の原理を理論・実験の両面から探求したところ、「従来絶縁体と考えられていたEO結晶に電流を注入することによって、屈折率のグラデーションが誘起される」という新しい概念にもとづいて動作していることを解明しました。空間電荷制御モードEO効果と名づけたこの現象は電気光学結晶一般に適用できるものですが、KTN結晶ではその巨大な誘電率ゆえに顕著に発現するということも、理論的に明らかになりました。 |
3.世界最高効率のEOビームスキャナ(図4、図5) |
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KTN結晶と空間電荷制御モードEO効果という二つのNTT独自の技術の相乗効果によって実現されたものが、世界最高効率のEOビームスキャナです。EOビームスキャナは、高速動作が可能、デジタル・アナログスキャンのいずれも可能という実用上の大きな利点を有しています。しかし従来の結晶を用いたプリズム型のEOビームスキャナは、素子サイズが大型であることや、高電圧が必要であると言う理由から実用が難しいものでした。今回の発見にもとづく新原理KTNスキャナはEOビームスキャナのこれらの問題を一気に解決する80倍の効率を達成しました。 |
4.各種の光ビームスキャナとの比較(図6) |
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光ビームスキャナは、「光の方向」という光の最も基本的な性質を制御する装置であり、映像機器、プリンティング、光記録、光通信などさまざまな分野で重要な光デバイスです。新原理KTNスキャナは従来の各種光ビームスキャナの限界を大きく超える性能を達成しました。現在スキャナ素子として広く用いられている可動ミラー(ポリゴンミラー、ガルバノミラー)が抱える課題である素子サイズや動作速度さえも2桁向上することができるという驚異的なポテンシャルです。 |
<今後の展開>
KTNビームスキャナの通信、映像機器、プリンティングなどのさまざまな領域での製品応用を目標として技術の研究を進めていきます。 |
<用語解説>
*1電気光学結晶 |
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結晶に電圧をかけることによりその屈折率が変化する特性を有する結晶。屈折率が電圧に比例するポッケルス効果と、電圧の2乗に比例するカー効果があり、KTNはカー効果を示します。EOはElectro-Opticの頭文字をとった略語。 |
*2スキャン効率 |
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長さ1cm、厚さ1mmの結晶に、1kVの電圧をかけたときに生じる光のスキャン角度のこと。 |
*3電気光学ビームスキャナ |
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電気光学結晶を利用して、光の方向を制御する素子。 |
*4屈折率のグラデーション |
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KTN結晶の上下の電極の間で屈折率が徐々に変化すること。空間電荷制御モードでは屈折率は線形に変化します。 |
*5従来型EOビームスキャナ |
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従来のEOビームスキャナは、結晶をプリズム形状に加工しプリズムの屈折角を電圧で変化することにより光ビームをスキャンしますが、わずかなスキャン角(〜1度)を得るために1万ボルト近い電圧をかける必要があるという実用上の大きな問題がありました。 |
*6ポリゴンミラー、ガルバノミラー |
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モーターの軸にミラーをつけたものであり、現在レーザープリンタなどでもっとも一般的に用いられているビームスキャナ。大きいスキャン角度が得られるという利点があるものの、高速動作が難しいことや消費電力が大きいなどの難点もあります。 |