News Release

2008年8月29日


超伝導干渉素子で100兆分の1メートルの振動を検出
〜巨視的な物体における量子現象の観測に向けて〜


 日本電信電話株式会社(以下NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺)は、超伝導量子干渉素子※1(SQUID)の一部をマイクロマシン構造(板バネ)に加工し、約10フェムトメートル(fm:フェムトは1000兆分の1)という微細な振動を検出することに成功しました。これまで困難であった巨視的な物体※2における量子現象※3の観測を可能にする有力な新手法を示したものです。
  今回得られた成果はオランダのデルフト工科大学と連携して得られたもので、英国の科学誌「ネイチャー・フィジックス」電子版2008年8月31日号(英国時間)に掲載される予定です。
 なお、本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会(東京都千代田区、理事長:小野元之)科学研究費補助金の援助を受けて行われました。


1.研究開発成果の概要
 高感度の磁気検出素子として知られるSQUIDの一部を、長さ50μm(ミクロン:1ミクロンは百万分の1メートル)、幅4μm、厚さ0.5μmの微小な板バネに加工し、板バネが振動する時に発生する抵抗値の変化で、約10fmの極めて微細な板バネの振動を検出することに成功しました。
 今回作製した素子は、電子や原子などの基本粒子の振る舞いを記述する量子力学が、板バネなど巨視的な物体の振る舞いをどのように支配するかを調べる実験ツールとして期待されます。また、質量、電荷などの超高感度検出に用いることが可能なことから、医療機器をはじめとした様々な検査・分析機器や量子計算機などへの工学的応用の可能性も広がります。


2.開発の背景
 すべての物質の構成要素である原子や電子の振る舞いは、ミクロの世界の基本法則である量子力学によって支配されていることが理論上知られています。現実の世界に存在する巨視的な物体が量子力学によってどのように支配されるかを検証するためには、測定する対象物への影響が小さく、巨視的な物体の極めて微細な動きを検出できる技術が不可欠です。
 一方、巨視的な物体の微細な動きを最も高感度に検出する技術としては、レーザー干渉計※4が知られていますが、照射するレーザー光の対象物への影響が大きく、波長より小さな対象物の評価には不向きであるという問題があります。


3.技術のポイント
(1) SQUIDと板バネを組み合わせた素子を作製
 NTTが独自に開発した結晶成長技術を用いた、板バネの加工に適した半導体薄膜で新しいSQUIDを作製、SQUIDの一部を板バネ状に加工しました(図1)。
  作製に用いた半導体薄膜は、薬品に対して溶け方が異なる半導体の積層構造になっており、この溶け方の差を利用して、SQUIDの一部を長さ50μm、幅4μm、厚さ0.5μmの板バネ状に加工しています。

(2) 100兆分の1メートルの振動を検出
 SQUIDにおいて超伝導回路が囲む面積は、斜めから見ると板バネの振動とともに変化します(図2)。
  その面積の変化を利用し、斜め方向から磁場を加えると、回路を貫く磁場の総量(磁束数)が板バネの振動とともに変化します。この磁束数の微細な変化をSQUIDにより検出し、100兆分の1メートルという極めて小さな板バネの振動を検出しました(図3)。


4.今後の展開
 今回の成果を受け、さらに小さな振動を検出できる素子の作製により、巨視的な物体における不確定性原理※5やトンネル効果、エネルギーの量子化など、量子現象の観測を目指します。
  また、今回作製した素子は板バネの振動を変化させる物理量の計測に応用できる可能性を持つことから、医療機器をはじめとした様々な検査・分析機器への応用も探っていきます。


【用語解説】
※1 超伝導量子干渉素子(SQUID : Superconducting quantum interference device)
 超伝導体を微小な接合を含むリング状の回路に加工し、その回路の抵抗値が回路を貫く磁束数によって変化する性質を用いて磁気を高感度に検出する素子です。現時点で最も高い磁気検出感度を持つ素子のひとつであり、最近では脳磁計や心磁計などの医療用検査装置等で実用化されています。

※2 巨視的な物体
 莫大な数の原子、分子や電子などが集まって構成された物を意味します。石や金属片など、身の回りにある通常の物体をはじめ、顕微鏡でなければ見えない微小サイズの物体も、実際には何万、何億という数の原子や電子から構成されている巨視的な物体と言えます。この研究で扱っている板バネも顕微鏡でなければ見えませんが、数億個の原子から構成されている巨視的な物体です。

※3 量子現象
 量子力学は20世紀前半に大きく発展した物理学の基本法則で、これまで電子や原子など基本粒子の振る舞いを記述する理論として知られてきました。量子力学によると、これらの基本粒子は波としての性質も持つことが知られており、このような量子力学特有の性質により引き起こされる様々な現象を量子現象と呼びます。閉じ込められた電子の持つエネルギーが飛び飛びの値になる「エネルギーの量子化」や、本来侵入できない高いエネルギーの領域を通り抜けることのできる「トンネル効果」などは量子現象の代表的なものです。

※4 レーザー干渉計
 レーザーを物体の表面で反射させ、入射させた光と反射させた光の干渉により、物体の動きを測定する装置です。極めて感度の高い汎用変位計として様々な場面で用いられていますが、レーザー光の照射による試料への影響や、対象物の大きさがレーザー光の波長程度必要である、といった点が巨視的な物体の量子現象の観測には問題となる場合があります。

※5 不確定性原理
 量子力学によると、いくつかの物理量を同時に確定させることは原理的にできないことが知られています。この原理を不確定性原理と呼びます。例えば、物質の位置と運動量は同時に確定できないため、どのような物体もある位置に完全に静止させることはできないということになります。



図1 超伝導量子干渉素子の構造図
図2 板バネの振動により、面積が変化する様子
図3 板バネの振動の検出結果



<本件の問い合わせ>
NTT先端技術総合研究所
(物性科学基礎研究所)
企画部 広報担当 飯塚
TEL:046-240-5157
http://www.ntt.co.jp/sclab/contact.html


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