慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(機構長:安西祐一郎、以下DMC機構)と日本電信電話株式会社(代表取締役社長:三浦惺、以下:NTT)は、カリフォルニア大学サンディエゴ校とイリノイ大学シカゴ校の協力のもと、12月8日(月)〜10日(水)に米国サンディエゴで開催されたCineGrid(※1)・ワークショップにおいて、東京、サンディエゴ、およびシカゴを10Gbps(ギガビット/秒)のIPネットワークで結び、4K超高精細映像(ハイビジョン映像の4倍の解像度)と2K映像(ハイビジョン)(※2)の映像設備が混在した遠隔協調環境において、4Kカメラ映像を用いた多地点テレビ会議を実演することに世界で初めて成功しました。
この実演は、地球規模のIPネットワークを介して複数拠点間で超高精細映像をリアルタイム共有する遠隔協調環境の実現および、移動に伴う環境負荷を低減しつつ、学術・教育・医療・文化・娯楽など幅広い分野での新たな協業活動の可能性を実証するものです。 |
1.実証実験の詳細 |
 | 今回の実演では、NTTの未来ねっと研究所(以下 NTTの研究所)が開発した、4K映像成分と2K映像成分に分離して4K映像を符号化伝送する4K/2K階層化配信技術、IPマルチキャスト機能を持たないネットワークにも対応したFlexcastストリーム分岐技術、および映像同期信号の高精度配信技術と、DMC機構が確立してきた4Kや2Kの高精細映像制作技術、地球規模のネットワークにおける4K映像配信技術を組み合わせることで、未来の遠隔協調環境の実現に成功しました((1)参照)。
また、高品質映像素材の伝送技術として2K24P映像のRGB4:4:4非圧縮伝送((2)参照)の実演、動きの速い映像素材を扱うための技術としてJPEG2000コーデックを用いた4K60P映像のリアルタイムストリーミングの実験((3)参照)、および、リアルタイム性を必要とするネットワークアプリケーションのためのパケット単位の通信遅延時間の計測((4)参照)を行いました。 |
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(1)4K超高精細映像を用いた3地点間遠隔協調環境の実現 |
|  | 4K超高精細映像を2地点で用いた世界初のテレビ会議システムの実証実験に成功しました(図1、2参照)。また、映像配信方式にJPEG2000(※3)コーデックの4K/2K階層化配信技術(図3参照)を新たに採用することで、4K映像設備を持つ拠点間のみならず、4K映像設備を持たず2K映像設備のみを有する拠点と4K映像設備を持つ拠点との遠隔コラボレーションを可能にしました(図4参照)。多地点配信にはFlexcast(※4)プロトコルを採用し、ネットワーク内にストリーム分岐装置(※5)を設置することで、IPマルチキャスト機能を持たないネットワークにも対応しています。遠隔協調環境として、各地点でカメラと他の2地点の映像を表示する2つのディスプレイを工夫して配置し、表示される映像が等身大のサイズになるように撮影・表示することで、あたかも3人が向き合って話をしているかのような環境を実現しました(図5参照)。
さらに、よりスムーズな会話を実現するために、複数の教育研究用の広帯域ネットワークを相互接続し最短の遅延時間で通信が行えるようにネットワークを構築しました。これらにより、4K超高精細映像を用いたテレビ会議システムの実現可能性、またその高い解像感がもたらす豊かな臨場感を伴うテレビ会議システムにより未来の遠隔協調環境への展望が実証されました。 |
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(2)2K RGB4:4:4(※6)映像の豊かな色彩を劣化なく伝送する技術の実現 |
|  | 映画などに代表される高品質映像制作の現場での利用されている、2K(2048x1080画素)、毎秒24フレーム・プログレッシブ(※7)、RGB4:4:4のデジタル映像(以下、2K24P映像)を、圧縮せずに約3GbpsのIPパケットストリームとして伝送することに成功しました。
DMC機構がHD24P映像を出力するカメラおよび2K非圧縮映像素材を用意し、NTTの研究所が開発した非圧縮映像多重伝送装置(i-Visto gateway XG)(※8)にDual-Link HD-SDI(※9)で入力し、これをカリフォルニア大学サンディエゴ校にIPパケットストリームとして送信、現地で受信再生し、映像品質の劣化や符号化遅延のない映像を表示しました。
これにより、映画制作の現場などで、ロケ地で撮影した映像をリアルタイムに制作スタジオに伝送し、編集作業を行うといったネットワーク分散編集環境の実現可能性が実証されました。 |
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(3)4K60Pの動きの速い映像をリアルタイムに伝送する技術の検証 |
|  | 毎秒60フレーム・プログレッシブの4K映像(以下、4K60P映像)のJPEG2000によるリアルタイムストリーミングの実験を行いました。4K60P映像は、4Kの高い解像度と通常の2倍のフレームレートを兼ね備えた映像で、空間解像度と時間解像度の両方に関して優れた映像再現性を持っています。今回の実験では、DMC機構が制作した4K60P YCbCr4:2:2(※10)の非圧縮収録映像(非圧縮時約12Gbps)を、慶應義塾大学からカリフォルニア大学サンディエゴ校に向けて、NTTの研究所が開発したJPEG2000コーデックを用いて最大800Mbpsに圧縮してストリーミング配信を行いました。この技術により、スポーツなど動きの速い映像の遠隔地での大画面ライブ視聴やより臨場感のあるテレビ会議など、ネットワークを使った新しい映像サービスが可能になります。 |
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(4)高精度同期クロック配信(※11)を用いた4K映像伝送の補助技術の検証 |
|  | 今回の実証実験では、映像・音声信号だけではなく高精度な同期クロックも配信し、これが4K映像のリアルタイム伝送の実現を支えています。高精度同期クロック配信技術には、NTTの研究所が開発したNTPハードウエア実装技術(標準SNTPプロトコルのハードウエア処理)を利用し、非同期IPネットワーク経由ながら同期ネットワーク並(精度サブマイクロ秒)の日米間クロック同期を実現しました。これを用いることで、まず、デジタル映像・音声機材に必要なリファレンス同期信号を送信元と受信先で同期させることが可能になりました。さらに、パケットの通過時刻を記録するプローブ装置に高精度の同期クロック機能を搭載、これを送信側と受信側に配置することで、ネットワークを通過する際に4K映像等のデータパケットがどの程度遅延するのかをリアルタイムに計測することに成功しました(図6)。これにより、IP網では避けられないパケットごとの伝送遅延時間の微小な揺らぎを、GPSなどの外部クロック入力なしに簡単に計測できることが実証されました。この技術はネットワークの品質評価や高いリアルタイム性を必要とする通信アプリケーションの動作検証に有効です。 |
2.今後の展開(予定) |
 | DMC機構、NTTは、今後も高速ネットワークを用いた高品質デジタルコンテンツの流通や制作に関する研究や、学術・教育・医療・文化面での利用技術に関する研究を進めていく予定です。 |
3.本実験に関する協力機関等一覧 |
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| (1) |
会場: |
カリフォルニア大学サンディエゴ校Calit2 (California Institute for Telecommunications and Information Technology)、イリノイ大学シカゴ校EVL (Electronic Visualization Laboratory)、CineGrid |
| (2) |
機材: |
アストロデザイン株式会社 |
| (3) |
回線: |
JGN2plus, T-LEX, IEEAF, CiscoWave, CaveWave, PacificWave, GEMNet2, StarLight, Pacific Northwest Gigapop |
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【参考】 |
| 1.実証実験の内容 |
 | カリフォルニア大学サンディエゴ校で開催されたCineGridワークショップ会場(米国、サンディエゴ)、DMC機構(東京、三田)、イリノイ大学シカゴ校(米国、シカゴ)の3地点をIPネットワーク経由で接続し、4K超高精細カメラ映像による双方向多地点テレビ会議を世界で初めて実現しました(図1)。4Kデジタル動画カメラで撮影されたライブ映像は、JPEG2000コーデックにより200 Mbpsにリアルタイム圧縮し、4K映像ストリームとしての双方向リアルタイム通信を実現しています。 |
2.説明図 |
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【用語の解説】 |
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| ※1. |
CineGrid(シネグリッド) 超高速ネットワーク環境における超高品質メディアの応用を実証する国際的な研究コミュニティ。2006年にメンバ制の国際的なNPOとして発足。慶應義塾大学DMC機構やNTT未来ねっと研究所をはじめ、シスコシステムズ、ルーカスフィルム、ソニーなど最先端メディア技術、ネットワーク技術を保有する世界の研究機関、企業がメンバになっている。参照:[http://www.cinegrid.org/]
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| ※2. |
4K超高精細映像と2K映像 4K超高精細映像は、横方向に約4000、縦方向に約2000の1画面あたり約800万の画素を持つ映像である。一方2K映像は、横方向に約2000、縦方向に約1000の1画面あたり約200万の画素を持つ映像である。デジタルシネマの規格では、4K映像の画素数を4096x2160、2K映像の画素数を2048x1080と定めている。なお、ハイビジョン放送(HD)は1920x1080の画素数で規格化されている。 多地点テレビ会議の実験(1)では、4K映像として3840x2160画素のYCbCr 4:2:2(※10)映像を用い、2K映像には、HDを用いた。また、2KRGB4:4:4の実験(2)では、デジタルシネマ規格に準拠した2048x2160画素の映像を用いた。
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| ※3. |
JPEG2000 デジタル化された映像信号を、高品質に符号化する方式でデジタルシネマの圧縮規格にも採用されている。JPEG2000は、1画面(映像フレーム)単位でデジタル情報量を減らす方式のため、フレーム間の相関を用いるMPEGに比べて圧縮率は低いものの、高い品質とリアルタイム性を両立する符号化方式である。
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| ※4. |
フレックスキャスト(Flexcast)技術 ネットワーク内にストリーム分岐装置を配備し、通常のIPユニキャスト網上で自律的に経路を構築してマルチキャスト機能を実現する方式。IPマルチキャストがサポートされていないネットワークを介してのマルチキャスト配信が可能で、トラヒックの増大やビジネス戦略にしたがい段階的に導入できることが特徴。NTTの研究所が開発し、NTT-AT社 の映像配信システムLive Sparkなどに利用されている。
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| ※5. |
ストリーム分岐装置 ストリームを構成する各IPパケットについて、パケット内容を必要な分岐数分だけ複製(コピー)し、それぞれに異なる配信先アドレスを付与して送出する装置。
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| ※6. |
RGB4:4:4 光の三原色レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の各成分を、すべて同じ周波数(74.25MHz)でサンプリングする方式。YCbCr4:2:2に対して1.5倍の情報量となり、より高精細な映像を表現できる。
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| ※7. |
プログレッシブ 1回の画面表示を1回の走査で行なうこと。映画や文字の精細表示に向く。なお、現行テレビ放送では、奇数段目と偶数段目の2回の走査で1画面分の表示を行なうインタレース方式が採用されている。インタレース方式は、テレビ放送の規格策定時の主にブラウン管ディスプレイの技術制約に基づいて導入された。
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| ※8. |
非圧縮映像多重伝送装置(i-Visto gateway XG) IPネットワーク技術を用いて非圧縮HDTV映像信号を低遅延で伝送可能な装置「i-Visto(アイビスト)ゲートウェイ XG」は、10Gbit/sのネットワークインタフェースで複数のHDTV映像信号を同時に送受信できる。HD映像をIPパケットに変換する「i-Visto」技術はNTT研究所が開発し、NTT-AT社の非圧縮HDTV-IP Gateway XG-2などに利用されている。
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| ※9. |
Dual-Link HD-SDI SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)で定められたデジタル映像のシリアル伝送規格SDIの一種。Dual-link HD-SDIは2本のHD-SDIケーブルを用いることで、約3Gbpsの伝送が可能になる。1本のHD-SDIケーブルで伝送する場合に比べて2倍の帯域を利用し、より豊かな映像表現を可能にする。
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| ※10. |
YCbCr4:2:2 輝度信号(Y)のみ74.25MHzで、色差信号(Cb,Cr)は半分の37.125MHzでサンプリングする方式。
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| ※11. |
同期クロック配信 受信側に送信側の映像信号(HD-SDI等)の同期クロックを配信することをいう。送信側と受信側の映像信号のクロック、フレーム位相を同期させることにより、映像破綻をきたすことなく低遅延かつ長時間の安定した映像伝送が可能になる。 |
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慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC機構)
2004年に文部科学省科学技術振興調整費の戦略的研究拠点育成プログラムに採択され、設立。デジタルコンテキストの創造と流通の活動を一般の人々に開放し、新しい産業分野を切り拓くことを目的に、研究開発・国際流通促進・人材育成を展開。 URL:http://www.dmc.keio.ac.jp
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科学技術振興調整費 総合科学技術会議の方針に沿って、重要事項の総合推進調整を行う経費であり、政策誘導効果の高いものに活用されるものです。特に戦略的研究拠点育成事業は、組織の長の優れた構想とリーダーシップにより研究開発機関の組織改革を進め、国際的に魅力のある卓越した人材育成・研究拠点に育成を図ることを目的としています。
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NTT未来ねっと研究所 大容量・超高速のネットワーク、次世代ワイヤレスシステム、フォトニックネットワークなど、21世紀のネットワークシステムの通信方式に関する研究開発を進めています。 |
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