(報道発表資料)
2009年3月26日
日本電信電話株式会社
NTTアドバンステクノロジ株式会社


光を自在に曲げる光学結晶を用いた
従来比100倍高速光スキャナーの発売
および従来比1000倍高速可変焦点レンズの実現


 日本電信電話株式会社(以下NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦惺)は、光を自在に曲げられる電気光学結晶(*1)KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3)を用いて小型で高速な光ビームスキャナー(*2)の基盤研究に取り組んでまいりました。
 この度、NTTアドバンステクノロジ株式会社(以下NTT-AT、本社:東京都新宿区、代表取締役社長:鈴木滋彦)はNTTより本技術を取得し、従来製品の1/100以下のサイズで100倍以上の高速動作が可能な光偏向モジュール「KTNスキャナー」を研究機関向けに評価用サンプルとして販売いたします。 ・・・1.「KTNスキャナー」の実用化・販売について
 また、NTTのフォトニクス研究所(以下、NTTの研究所)ではこのKTN結晶を用いた新機能デバイスの研究を進め、電圧に応じて焦点距離を変えられる可変焦点レンズを開発し、既存デバイスの1000倍高速で焦点距離を変えられることを実証しました。本件は、3月30日〜4月2日に筑波大学で開催される応用物理学会にて発表されます。 ・・・2.KTN結晶を用いた可変焦点レンズの研究・実証成功について


1.「KTNスキャナー」の実用化・販売について
(1)KTN結晶およびKTNスキャナーの開発経緯
 今回NTT-ATから発売されるKTNスキャナーの基礎となるKTN結晶の高効率作成技術は、2003年にNTTの研究所が世界に先駆けて開発し、さらにこの結晶による光ビームスキャニング現象も2006年に同研究所で発見され、その原理が解明されています(本成果については2006年5月18日報道発表済み)。

(2)KTN結晶を用いたKTNスキャナーの特徴
 現在、レーザ加工、イメージング、プリンタ・コピーなどで光を曲げるのに使われているスキャナー素子としては、ポリゴンミラー(*3)やガルバノミラー(*4)、MEMS(*5)などが広く用いられています。これら従来の素子は、ミラーを機械的に駆動するため、素子のサイズや動作速度に限界があり、また、ランダムに光の方向を制御することは困難でした。KTN結晶を用いた光スキャニングは原理的にはこれらの問題を一気に解決し、素子体積1/100、動作速度100倍と、いずれも2桁向上することができるという驚異的な性能が期待できます。

(2)−1.KTNスキャナーの特徴
<1>従来製品の100倍以上の高速動作が可能
 機械的な駆動部分が無く、電子の移動と外部電界によって光を制御するため、従来にない高速動作が可能になります。具体的には、ほぼ静止状態〜1MHzの光スキャンを実現します。例えばレーザレーダ等に応用すれば、従来よりも高速で物体を識別することが可能となります。
<2>従来製品の1/100以下の体積、デバイスの小型化が可能
 結晶に電極を形成したシンプルな構造であり、チップサイズは数mm角と極めて小さいため、光偏向モジュールは約2×3×6cmの小さな筐体に収めることが可能です。
<3>従来製品では不可能なランダムスキャン機能
 加える電圧と光の進行方向が一対一に対応し、また動作速度が極めて高速であることから、電圧印加方法を工夫することにより、柔軟な光ビームスキャナー動作が可能となります。例えば、デジタル信号を加えると、光スキャン角は多点間を瞬時に移動し、アナログ信号を加えれば連続的にスキャン動作します。すなわち、連続動作からランダムスキャンまであらゆる動作が可能なことから、レーザレーダやレーザスキャンディスプレイに最適であると言えます。

(2)−2.KTNスキャナーの主な用途
 レーザ加工、3次元計測、光通信、ディスプレイ、光記録媒体(DVD等)、イメージング、センシング、プリンタ・コピーなど、幅広い分野において、従来使われているポリゴンミラー、ガルバノミラー、MEMSの代わりに使用され、高速化や小型化に寄与することが期待されます。

(3)KTNスキャナーの研究機関向けサンプル品の発売
 NTT−ATでは、KTN光スキャン素子と光ファイバによる入射光学系を実装したモジュールを「KTNスキャナー」として販売いたします(写真)。本製品は種々の分野の研究機関等に、実験や評価等のサンプルとしてご活用頂くことを見込んでいます。またKTNモジュール周辺の電圧等制御系機材についても、ご要望に応じて販売いたします。製品の詳細については、別紙の通りです。
 なお、今回のサンプル品販売は2009年6月2日より米国ボルチモアで開催されるレーザおよび電気光学国際会議(CLEO/IQEC 2009)の併設展示会への出展をもって開始いたします。


2.KTN結晶を用いた可変焦点レンズの研究・実証成功について
(1)KTN可変焦点レンズの研究
 NTTの研究所ではKTNスキャナーの開発に続き、さらなる研究の結果、KTN結晶に電圧を印加する電極構造を工夫することで、KTN結晶を可変焦点レンズとしても動作可能なことを見いだし、わずか1マイクロ秒で焦点距離を変えられることを実証しました。これは、PZT(*6)等を用いた従来の可変焦点レンズを1000倍高速化することになります。
 前述のKTNスキャナーとこの高速制御可能な可変焦点レンズとを組合せることで高速3次元スキャナーが現実のものとなり、3次元計測器(図1)や、立体レーザスキャンディスプレイなどへの適用が可能になります。

(2)KTN可変焦点レンズのポイント
<1>世界最高レベルの焦点移動性能
 KTN結晶に電圧を印加することによる焦点移動性能は次のとおりです。KTN可変焦点レンズは、凸レンズとして機能し、電圧の2乗に比例して焦点距離が変化します。焦点移動距離は、f=25cmのレンズと組み合わせ、1kVの電圧で4cmと、様々な分野に応用可能な性能が確認され、動作速度は同じ光学系にピンホールを設置し、ピンホールからの光強度が1マイクロ秒の短時間で変化することを確認しました。これは、実用化されている可変焦点レンズの1000倍の速度であり、論文レベルの報告を含めても世界最高速度です。
<2>鉛を使わないKTN材料
 従来、可変焦点レンズとしては、PZT(*6)の圧電性を利用したものが、比較的高速なものとして実用化されていますが、機械駆動方式であるため、その応答速度は1kHz程度が限界です。またPZTは鉛を含んでいるため、廃棄時の環境への影響が懸念され、欧州ではRoHS指令による使用制限が検討されています。KTN可変焦点レンズはこれらと比較して性能面で大きく上回っている他、鉛を使っていないので、環境に優しい部材であると言えます(図2)。


3.今後の予定
 NTTでは、独自の高性能なKTN結晶を用いて光通信分野に適用可能なデバイス開発を継続しており、今後もこれらの研究成果のビジネス化に取り組んでまいります。その一環として、当面可変焦点レンズの2009年度中の実用化を目指します。
 また、NTT-ATでは、KTNスキャナーの販売により、さらなる利用領域の拡大を目指します。


(用語解説)

*1: 電気光学結晶:電界を加えることにより材料の屈折率が変化する結晶。加えた電界に屈折率変化が比例する効果を1次の電気光学効果(ポッケルス効果)、加えた電界の二乗に屈折率変化が比例する効果を2次の電気光学効果(カー効果)と呼びます。
*2: 光ビームスキャナー:光の向きを変えるデバイス。光偏向デバイス。
*3: ポリゴンミラー:通常4〜6面の平面ミラー構成されており毎分数万回転で回転する軸に取り付けられ、回転に伴ってレーザ光の反射角度を変えるデバイスです。レーザープリンターで像を描くために利用されます。
*4: ガルバノミラー:ミラーがモーターの回転に取り付けられ、ミラーの角度が高速に制御されるデバイス。
*5: MEMS: Micro Electro Mechanical Systemの略。半導体プロセス技術を用いて、シリコン基板上に微細な機構部品と電気回路を混載したものです。この技術を用いて、微細なミラーを作ることが可能です。スキャン角度が2種類のデジタル動作の場合は100kHzという機械駆動としては極めて高速な動作が可能ですが、任意にスキャン角度を変えるアナログ動作の場合には数kHzの応答速度に留まっています。
*6: PZT:チタン酸ジルコン酸鉛。強誘電体セラミックであり、超音波モーターやアクチュエーターなど、電圧をかけることで伸び縮みする圧電効果を利用するデバイスに用いられています。



<写真 販売するKTNスキャナーモジュール>
<図1 3次元計測器への応用イメージ>
<図2 可変焦点レンズの電極構成>
別紙「KTNスキャナー」の概要



<KTNスキャナー販売に関する問い合わせ先>
NTTアドバンステクノロジ株式会社
KTN事業化推進室 KTN推進プロジェクト
藤浦・小平
TEL:046-250-3771

<研究開発内容に関する問い合わせ先>
日本電信電話株式会社
研究企画部門プロデュース担当
八木
TEL:046-240-2235


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