日本電信電話株式会社(以下NTT、東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺)と富士通株式会社(以下富士通、東京都港区、代表取締役社長:野副 州旦)は、総務省が推進する「フォトニックネットワーク技術に関する研究開発」の一環として、独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT、東京都小金井市、理事長:宮原 秀夫)の委託を受け、光ファイバで伝送される信号を波長、波長群(波長の束)の異なる単位で編集・スイッチングでき、40Gbps(Gはギガで10億を表す)の2波長の信号を80Gbpsの1つの大容量信号として扱える波長バーチャルコンカチネーションと呼ばれる機能を備えた多階層光スイッチノードを構成し、総容量10Tbps(Tはテラで1兆を表す)で光スイッチングすることに成功しました。
この成果は飛躍的に増大しているトラヒックに対応するために、将来目標とする100Tbps級超大容量光スイッチノードを構築するための技術として期待されるものです。
本成果は2009年3月22日から米国のサンディエゴで開催されている光ファイバ通信国際会議(OFC/NFOEC 2009)において、ポストデッドラインペーパー(最新成果報告)として2009年3月26日(現地時間)に報告されました。 |
【背景】 |
 | インターネットでの高精細な動画配信などコンテンツ大容量化に伴い、ネットワークの通信トラヒックは飛躍的な増大を続けています。その増大する通信トラヒックに対応するには、光ファイバやスイッチノードの増設が必要であり、それに伴い消費電力が増大するなど改善すべき課題があります。
増大する通信トラヒックのニーズに応えるには、ユーザ間を光ネットワークで結んだ、高速で大容量の情報を省電力で伝送できる光通信路(光パス※1)の実現が求められています。そのため、複数のチャネルの光信号を一本の光ファイバで伝送する波長分割多重(WDM)※2伝送技術、波長分割多重された信号を波長ごとに異なる行き先の光ファイバに切り替えられる光スイッチ技術などの研究開発が取組まれています。(図1) |
【今回の成果】 |
 | 1.マルチ粒度光スイッチングの実証 |
|  | 多階層光スイッチノードは、新しい光スイッチ構成技術を用いて、光ファイバの信号を一括してスイッチする ファイバスイッチ、複数波長を一括してスイッチする波長群スイッチ、単一波長ごとにスイッチする波長スイッチを1つのノードに組み合わせ、波長単位と波長群単位の編集・スイッチング機能を小型で、低消費電力で動作する構成になっています。また、多階層スイッチング時に特に課題となる、光信号の強度の劣化を抑えるために、半導体光増幅器(SOA)※3を波長スイッチ素子として使用しています。
この多階層光スイッチノードを用いて、1つの光スイッチノードで切り替え・編集された全信号において、データ復号後に誤りがないことを確認し、総容量10Tbpsのマルチ粒度光スイッチングができることを世界で初めて実証しました。これは、信号誤りのない光スイッチノード容量としては世界最大となるものです。
今回の成果は、NTTが開発した、マルチ粒度光スイッチノードアーキテクチャ技術(補足説明<1>)、多波長一括発生光源技術(補足説明<2>)と、富士通が開発したポート拡張可能な無損失光波長スイッチ技術(補足説明<3>)を用いて実現したものです。 |
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2. |
波長バーチャルコンカチネーション技術(補足説明<4>)の遅延差調整機能の実証 |
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|  | 従来の技術を用いた波長群信号生成部では、1つの波長単位を1つの信号として扱っているため、40Gbpsを超える大容量データをひと塊の信号として伝送することはできませんでしたが、NTTの研究所では、複数で連携動作が可能な40Gbps符号化回路を開発し、その回路の2つの連携動作により、80Gbpsをひと塊の大容量信号として扱える波長バーチャルコンカチネーション技術の遅延差調整機能の実証に成功しました。 |
【今後の展開】 |
 | 100Tbps級の超大容量フォトニックネットワークの実現のため、マルチ粒度光スイッチノードアーキテクチャ及びそれを実現する光スイッチング要素技術の研究開発をさらに進展させる必要があります。さらに、ネットワークとして動作させるためにはネットワーク制御系との連携動作に関する研究開発が必要です。
本開発は、日本電信電話株式会社、富士通株式会社、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社、国立大学法人名古屋大学、国立大学法人大分大学が共同で進めているNICT委託研究「高機能フォトニックノード技術の研究開発」における課題ア「超高速スイッチング技術の研究開発」 課題イ「波長群スイッチングノード技術の研究開発」での開発の成果です。
なお、今回の実験でファイバスイッチ機能部に用いたMEMS※4型光スイッチは、2001年度〜2005年度に行われたNICT委託研究「光バーストスイッチングを用いたフォトニックネットワークの研究開発」における、富士通の開発成果です。 |
(補足説明)
【技術のポイント】 |
 | <1>マルチ粒度光スイッチノードアーキテクチャ技術(図2) |
|  | 光スイッチ部は3段構成(ファイバスイッチ機能部、波長群スイッチ機能部、波長スイッチ機能部)になっています。1本の光ファイバの中には複数の波長群信号が収容されており、さらに1つの波長群信号の中には複数の波長信号が収容されています。波長まで分解する必要のない信号は波長群単位でスイッチし、波長群までも分解する必要のない信号は光ファイバ単位でスイッチすることによって、光スイッチノードの規模を大幅に低減することができます。言い換えると、同じ規模の光スイッチでより大容量の信号を扱うことができます。 |
 | <2>多波長一括発生光源技術(図3) |
|  | 複数の波長を使うWDM伝送では、装置の小型化・経済化の観点から複数の波長を同時に発生させることができる多波長光源が有用です。今回、最大40波まで発生可能な多波長一括光源を開発しました。本光源は、原理的に損失の小さい素子を使用する構成を採用しており、従来の多波長一括光源に比べて雑音の少ない多波長光を発生させることができます。また、本光源は、発生させた各波長の光の強度や周波数や位相といった波としての性質が高い精度で安定化されていることが特徴であり、将来はその性質を利用したさらに高機能な光ネットワークを構築することが可能となります。 |
 | <3>ポート拡張可能な無損失光波長スイッチ技術(図4) |
|  | 集積化された半導体光増幅器(SOA)を実装した集積光スイッチモジュールを用いて、世界初の8入力ポート、8出力ポートの光スイッチサブシステムを開発しました。このシステムは、ポート単位でのスイッチ規模の拡張が可能な分配選択型光スイッチ※5構成で、トラヒックの増加にあわせて、柔軟にポート数を拡張することができます。光スイッチ素子として用いる半導体光増幅器での増幅機能によって、入出力ポート間での光信号強度が劣化することなく、ほぼ一定に保たれたまま、光信号の切り替えが可能となります。今回の実験では、波長スイッチ機能部の光スイッチとして使用しました。
また、ナノ(ナノは10億分の1)秒オーダーでのスイッチング動作が可能であるため、将来のアプリケーションのひとつとして考えられる、光バースト信号※6用のスイッチとしても使用することが可能です。 |
 | <4>波長バーチャルコンカチネーション技術(図5) |
|  | 波長バーチャルコンカチネーションとは、1つの波長では収容しきれない大容量のひと塊の信号を複数の波長を使って収容する技術です。異なる波長は一般に伝送路中の遅延が等しいことが保証されないので、ひと塊の信号を再生するためには受信側で遅延の調整をする必要があります。今回、40Gbpsの波長を扱うことのできる回路を2つ開発し、その連携動作による遅延調整機能を実証しました。 |
<用語解説> |
 | ※1:光パス |
|  | フォトニックネットワークの端から端まで提供される光の通信路。波長をラベル(識別子)として光スイッチにより経路(ネットワーク上のルート)が設定される。 |
 | ※2:波長分割多重(WDM) |
|  | WDMはWavelength Division Multiplexingの略。送信側でチャネルごとに、異なる波長の光に信号を符号化して多重し、受信側では波長単位で分波・受信することで、複数のチャネルの信号を1本の光ファイバで伝送する多重化方式。 |
 | ※3半導体光増幅器(SOA) |
|  | SOAはSemiconductor Optical Amplifierの略。インジウムリンなどの化合物半導体で作られた光増幅素子。駆動電流を制御することにより、高速光ゲートスイッチ素子として利用が可能。 |
 | ※4:MEMS(Micro Electro Mechanical Systems) |
|  | 微細な電気回路と機械的構造を一体化したもの。MEMS光スイッチでは、光の経路を切り替える微小な鏡の角度を変えることで、光信号の切り替えが可能。 |
 | ※5:分配選択型光スイッチ |
|  | 入力された光信号が、光分岐素子によって、全ての出力ポートに対して分配され、出力部において、全ての入力ポートから分配される光信号のうち、接続先の入力ポートからの信号を選択することで、必要とされる入出力ポート間での接続を行う光スイッチの方式。光信号を分配、選択する機能が入出力の1ポート単位で分離できるため、ポート単位での拡張が可能。 |
 | ※6:光バースト信号 |
|  | ファイル交換、データバックアップ、映像配信等の大きな塊のデータであるバーストデータを、塊のままで転送するために用いられる光信号。データを細切れではなく一括転送するため、伝送途中の転送処理や転送先でのデータ復元が容易。 |