平成8年8月21日 凍結乾燥赤血球の新しい製造方法の開発について − 血液型検査用試薬への適用に可能性 − NTTでは、このたび急速冷却によるアモルファス製造技術を応用し、血液の長期保 存方法として注目されている凍結乾燥技術に改良を加え、凍結乾燥赤血球の新しい製造 方法を開発しました。 赤血球の保存方法には、従来から凍結保存と液体保存が用いられていますが、前者は 保存のための特別な設備を必要とし、また後者は保存期間が短いという問題がありまし た。これらの問題を解決するため、凍結乾燥による保存方法の開発が試みられてきまし たが、具体的な応用には至っておりません。 今回、NTTが開発した凍結乾燥技術は、(1)赤血球浮遊液を霧状に噴射して急速 凍結させる、(2)新しい添加剤及び戻し液を用いる、ところに特徴があります。この 方法を用いて製造した凍結乾燥赤血球を、北海道赤十字血液センター(関口定美所長) の協力を得て、評価してきました。その結果、製造後通常の冷蔵庫で3ヶ月間保存し再 生した赤血球は、ABOの免疫抗原性の劣化が少なく、ABOの型検査用試薬として適 用できる可能性が出てきました。 <開発の背景> 金属などの物質は、溶融状態から急速に冷却することによって、構造的・磁気的に優 れた特性が出現するなど、従来とは著しく異なる性質の物質(アモルファス)に生まれ 変わります。アモルファスの例としては、磁気ヘッドや光磁気ディスクに使用されてい るアモルファス金属や太陽電池などのアモルファス半導体があります。 NTTではこれまで、電気通信設備に用いられる磁性材料や半導体等の高性能化を目 指し、アモルファスの研究開発を進めて来ました。 一方、「自己血輸血」等を可能にするため血液の長期保存の重要性が認識されつつあ り、血液の凍結乾燥保存が将来的テーマとして重要になっています。このテーマに対す るNTT内医療関係者の問題意識と、急速冷却によるアモルファス製造技術の研究が新 事業検討の場で結び付き、凍結乾燥赤血球製造方法の開発へと展開しました。 <技術的ポイント> 凍結乾燥赤血球の通常の製造ステップは、凍結、乾燥及び再生に分かれます。この過 程で重要な要素は、凍結時の氷の結晶成長による赤血球破壊を防止するための急速凍結 技術、乾燥から赤血球を保護するために用いる添加剤、並びに再生時に用いる戻し液で す。 (1)急速凍結乾燥技術 凍結乾燥赤血球の製造には、アモルファス製造に用いられる急速冷却技術を応用して います。従来の製法では冷却された回転ドラムに赤血球の浮遊液を垂らす方法が用いら れていましたが、今回は周囲を液体窒素で冷却した容器内に赤血球浮遊液を霧状に噴射 して、ダイヤモンドダストのように瞬時に凍結させる方法を用いています。この急速凍 結された赤血球を真空乾燥機に導くことにより、凍結乾燥赤血球が得られます。 (2)添加剤及び戻し液 従来、赤血球を凍結及び乾燥から保護するために凍結防止剤や乾燥保護剤が使われて いましたが、再生時にはこれらの薬剤を除去する操作が必要になります。今回の方法で は、凍結防止剤や乾燥保護剤を使用せず、赤血球に与えるストレスが少ない添加剤と戻 し液を使用しています。この添加剤と戻し液を用いることにより、再生時の薬剤除去操 作を省略できるという利点があります。また、これらは、新しい急速凍結乾燥技術と相 乗して、ABOの免疫抗原性保存に重要な役割を果たしています。 (3)ABOの型検査用試薬への適用可能性 北海道赤十字血液センターの協力を得て、製造後3ヶ月間保存した凍結乾燥赤血球の 免疫抗原性を評価しました。その結果、被測定血清の希釈度を変化させても、生血から 製造された既存のABO型検査赤血球試薬とほぼ同等の凝集力を有することが確認され ました。 <今後の予定> NTTでは、今後、本「急速凍結乾燥法」による凍結乾燥赤血球の製造歩留まりの向 上を図るとともに、保存期間と赤血球の機能保存の関係等を継続検討し、検査用試薬製 造に必要な技術の確立を目指します。 参考 ABOの型検査方法について ABOの血液型の判定には、標準血清を用いて被験者の血球の型を調べる「おもて試 験」と、標準血球を用いて被験者の血清に含まれている抗体の型を調べる「うら試験」 があり、両方の結果を総合してABO型を判定しています。いずれの試験も血球上のA BO免疫抗原と血清中の抗体とが結びついて凝集する反応を利用しています。病院や検 査センターでは、凝集反応の状況を見て血液型を判定するため、人間の目に見える強い 凝集を起こさせることが必要です。 標準血清及び標準血球は、生血から抽出・製造され、ABO型検査試薬として販売さ れていますが、標準血球は製造後3〜5週間しか保存できないという問題があります。
