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                               平成9年2月6日


      40Gbit/sのATM交換機用スイッチLSIを開発
      ─ATMによるメガメディアの実現に向けて一歩前進─


 NTTでは、0.25ミクロンCMOS/SIMOX技術を適用し、従来の4倍の切
り替え速度40Gbit/s(世界最高速)をもつATM交換機用スイッチLSIを開
発しました。
 CMOS/SIMOX技術は、素子サイズが0.25ミクロン以下の最先端領域にお
けるLSIの低消費電力化と高速化のキーテクノロジーとなるNTT独自の技術です。
 今回の成果は、これまでは研究室レベルであった超高速ATM交換機用スイッチLS
Iについて、動作速度、消費電力、スイッチ規模などの多くの課題を解決し実用化のフ
ェーズにまで進めたもので、CMOS/SIMOXの優位性をあらためて証明すると同
時に、ATMによる大容量ネットワークの実現に大きな前進をもたらすものです。
 NTTでは今後、開発したスイッチを交換機に実装するためのモジュール化技術等、
メガメディアあの実現に向けての研究開発を続けていく予定です。
 また、今回の成果を2月7日にサンフランシスコで開催される国際会議ISSCCに
おいて発表する予定です。

<開発の背景>
 マルチメディアの進展がさらに進み、パソコン等の高速処理端末が現在の電話機の台
数並みになったとすると、ネットワークには現在の10倍以上の処理能力が必要になり
ます。そのためのキーテクノロジーが将来の大容量ネットワークの標準信号転送方式A
TMです。ATM交換機用スイッチLSIはそのキーデバイスとして広く国内外で研究
が進められていますが、それらはいずれも超高速性と現実的な低消費電力特性を両立で
きていないのが現状でした。
 NTTは、高速・低消費電力LSIを実現する回路技術であるCMOS/SIMOX
を独自に開発してその優位性の確認を進めてきました。昨年2月に発表したゲートアレ
イLSIはこのSIMOS/SIMOXの低消費電力を示す一例ですが、今回の成果は
、CMOS/SIMOXの特長を生かし、実用化を前提とした超高速ATM交換機用ス
イッチLSIとして具現化したものです。

<技術のポイント>
 今回の開発では、CMOS/SIMOX本来の特長に以下の技術を加えてATM交換
機用スイッチLSIに求められる高いレベルでの高速・低消費電力特性を満たしていま
す。
(1)SIMOXの特長を生かした高速回路構成
  CMOS/SIMOXは素子の寄生容量を激減できるという特長があります。しか
 し、ゲート容量は従来のCMOSと同等であるため、LSIの高速性能を得るために
 は回路上の工夫が必要となります。今回開発したATM交換機用スイッチLSIでは
 高速動作を行う回路の素子の接続数を減らすことで動作速度に対するゲート容量の影
 響を低減しています。すなわち、低減された寄生容量に対する充・放電時間が動作速
 度を決めるように回路を構成することでCMOS/SIMOXの特長を引き出し、L
 SIとしての高速化を実現しました。

(2)出力電圧立ち上げ回路の付加
  LSIからの出力信号は電圧の高/低で1か0かが表現されます。しかし、出力信
 号が高速になってくると電圧の上がり/下がりが信号速度に追従しきれなくなってし
 まいます。例えば0−1−0と変化する信号を表現すべき時、信号が高速になると電
 圧が0に対応する値から1に対応する値まで上がりきらないうちに次の0に対応する
 値に変えなくてはならなくなり、その結果本来は1を表現する電圧が1か0かの判断
 ができないレベルになってしまいます。
  今回開発したATM交換機用スイッチLSIでは、出力部の電圧の上昇(立ち上げ
 )時にタイミングを合わせて外部から瞬間的に電圧をかけてやる回路を付加し、出力
 信号の高速化を可能にしています。

(3)高品質基板製作技術によるCMOS/SIMOX大規模LSIの実現
  従来のSIMOX基板は大規模なLSIを作るのには品質にやや不十分な点があり
 ました。NTTでは独自の高品質SIMOX基板製作技術を開発し、約90万個のト
 ランジスタと110kb/sのメモリを10.5mm×13.5mmのサイズに作り
 込んでATM交換機用スイッチLSIを実現しました。

<今後の展開>
  今回開発したATM交換機用スイッチLSIは、スイッチ単体としては実用化に十
 分な処理速度を実現したものです。また、CMOS/SIMOXによる低消費電力特
 性はスイッチの規模を拡大しても消費エネルギー量を現実的なレベルに抑えることを
 可能にしています。
  NTTでは、今後このLSIの研究をモジュール化など実際の交換機への実装のフ
 ェーズにすすめ、ATMによるメガメディア実現に向けた開発を続けていきます。





<用語解説> *1) CMOS/SIMOX  COMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体) は低消費電力性に優れており、現在のLSIを構成するもっとも基本的な構造です。  SIMOX(Separation by IMplanted OXygen)は、SOI*構造形成技術の一つで、高層を形  成するNTTで発明した技術です。 このCMOSをSIMOX基板の上に形成した構造をCMOS/SIMOXと呼んでおり、1/4ミクロン  以下のディープサブミクロン領域で高速・低電力の優れた性能を示します。 *SOI(Silicon On Insulator):酸化膜などの絶縁物の上に、素子を作り込むためのシリ コン 層を設けた構造 *2) ATM交換機用スイッチLSI   ATM(Asynchronous Transfer Made:非同期転送モード)はB-ISDN(Broardband Integrated Services Digital Network)の標準信号転送方式です。信号はすべてサー ビスや速度に関係なく、セルと呼ばれる53バイトの固定長のブロックにより伝達され ます。ATM交換機用スイッチLSIはATM交換機の中枢をなす部品であり、セル内に書かれ ているアドレスを読み、書き換え、そしてアドレスに指定されたポートにセルを転送 します。その速度、容量が多いほど、ATM交換機は多くのセルを高速に処理可能となり ます。 *3)メガメディア  お客さま間近の電柱際まで、メタル並のコストで経済的に光化が可能な新光アクセ スシステム(πシステム)をベースに、光ファイバケーブルの多芯化、光信号のATM 化、中継系の高速・大容量化を行い、マルチメディアの成熟期を迎える21世紀初頭 に、「メガビット」レベルの情報流通を可能とするメディアのことをいいます。メガ メディアは社会経済システムの根幹をなす貨幣が情報や商品と同じように、電子的に ネットワーク上を流通する豊かな未来社会「エレクトラム・サイバー・サービスを 10Mb/s〜150Mb/sの多彩な速度メニューで提供したいと考えており、具体的な目標とし て、実効スループットとして10Mビットを1秒以内に全国どこへでも転送できるマルチ メディア・ネットワーク・サービスを2005年までに月額1万円程度のコストで実現する べく研究開発を推進していきます。 *4) 寄生容量  LSI内のトランジスタに付随的に付く容量です。この容量により信号の遅延時間が増 大するため、LSIの高速動作を妨げる一要因となります。

図-1 既発表の1チップATMスイッチLSIとの比較
既発表の1チップATMスイッチLSIとの比較  0.25μmCMOS/SIMOXデバイス技術と、その特長を活かす高速回路技術を用いて、8× 8ATMスイッチLSI試作した。  入出力部の高速化により、従来の化合物IC(HEMT*1)並みのビットレートを実現する とともに、従来のCMOS-LSIの集積度(リンクの本数)を達成しているため、LSIのス イッチング能力を示すバンド幅は従来の4倍の40Gbpsに向上した。 *1) HEMT(High Electron Mobility Transisitor:高電子移動度トランジスタ)   化合物系の半導体で電子が高速に動くことを利用した超高速トランジスタです。 *2) BiCMOS(Bipolar-CMOS LSI)  高速なバイポーラトランジスタと低電力なMOSトランジスタを同一のシリコンチップ に集積化したLSIです。

<図-2 通常CMOSとCMOS/SIMOXとの構造比較>
通常CMOSとCMOS/SIMOXとの構造比較

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