平成9年5月29日 光ファイバを用いた地盤や建造物のひずみ計測技術を開発 ─地形や建物の形状変化監視システムの実現に大きな可能性─ NTTでは、通信用の光ファイバをセンサとして用いて、地盤や建造物の形状の変化 を計測する技術を開発しました。 今回開発した計測技術は、通信用光ファイバの保守技術「光ファイバ歪み・損失統 合型OTDR*1」を応用したもので、光ファイバを地盤や建造物などの被測定物に固定 しておき、その光ファイバにかかる張力の大きさとその位置から被測定物の形状変化 の度合いとその場所を計測可能としたものです。また、「歪み・損失統合型OTDR」 の計測精度を向上させたことにより、構造物の歪み計測に適した仕様となっています。 今回の開発により、従来から連続的な形状変化の観測が望まれていた地盤状態の監 視や建造物の健全度評価などに、大きく貢献できると期待できます。 今後は、本技術を用いた地盤・建造物の歪み監視システムの実用化に向けて、研究 開発を続けていく予定です。 <開発の背景> 建造物に蓄積された歪みを正確に評価することは、その建造物の信頼性を診断する 上で重要です。また、自然の地盤であってもその歪みを監視することができれば、地 滑りや土砂崩れの前兆を事前に検出するための手段となりうる可能性があります。こ れまで、このような用途には電気式の歪みゲージを点在させるという手法が取られて きましたが、“連続的な歪みが計測できない”、“点の計測である”という問題があ りました。 光ファイバには、パルス光を通すと歪みや損失がある部分から特別な反射光が戻っ てくるという性質があります。この反射光とその戻ってくるまでの時間によって、光 ファイバの片端からファイバ全体の歪みや損失の度合いとその位置を検出するのが「歪 み・損失統合型OTDR技術」です。 これまでNTTでは、阪神大震災の光ケーブル被害調査、北海道日勝峠の凍結故障 光ケーブル原因調査など、光ファイバ網の状況・故障原因の把握手段として、本技術 を利用してきましたが、実際の現場で調査適用していく中で、この技術が地盤や建造 物の歪み計測にも有効であると判断し、より広い範囲で役立てるための研究開発を進 めてきました。 <技術のポイント> 1.歪み計測精度の向上 NTTでは、光ファイバ内で発生するブリルアン散乱光*2の周波数が光ファイバ の歪み量に比例することを明らかにし、歪みの大きさとその発生位置の計測を可能 にしてきました。今回、この散乱光の検出感度を上げることにより、測定最小距離 が1mのとき、歪み計測精度を従来の約3倍([伸び(縮み)/元の長さ]=±3× 10-5:従来は±1×10-4)向上させることができました。この性能は、代表的な土木構 造物であるコンクリートが破壊(歪み限度1×10-4)する前に検出できる可能性を示 唆しています。 2.“線あるいは面”での計測が可能 物理的に長い光ファイバをセンサとして使用することで、長さ方向の任意の点の 歪み計測“線での計測”が可能になります。光ファイバの張り方によっては“面” をカバーする歪み計測も可能になります。 3.高い信頼性と経済性 センサとして用いる光ファイバは、それ自体が信号を発したり、物理的な動きを することがない受動部品です。そのため電源等が不要で故障や経年変化が極めて少 ない高い信頼性を実現します。また、センサとしての光ファイバは生産性にすぐれ ており、施工も従来の歪みゲージによるものに比較して簡便で、低コスト化が図れ ます。 <今後の展開> NTTでは、すでに基本的な実験・評価を行っていますが(図)、今後は、効果的な設置 技術、被計測物の素材と歪み量との関係など、実用システムとしての完成度を高める ための研究を行っていく予定です。
<用語解説> *1)OTDR(Optical Time Domain Reflectometer) 光ファイバの片端から光パルスを入射して、光ファイバ長さ方向の各位置で発 生した散乱光のうちで入射端側に戻ってくる光(後方散乱光)の特性を解析する ための測定器です。歪み・損失統合型OTDRは通信用光ファイバにかかる張力とそ の張力の発生している位置を、光ファイバの一方の端から計測し、断線過度の屈 曲による事故を防止するための技術です。 今回の地盤・建造物歪み計測では、光ファイバ歪み・損失統合型OTDRの歪み検 出機能を利用しています。 *2)ブリルアン散乱光 光ファイバに入射した光が光ファイバ中を伝搬する過程で引き起こす周期的な 光ファイバガラスの密度揺らぎ(音波)による散乱光です。この密度揺らぎも光 ファイバ中を伝搬するために、散乱光の周波数は材料固有の周波数だけシフトし ます。


b.コンクリート梁歪み分布測定結果
上図aの実験系でコンクリート梁に重りを載せることにより、コンクリート梁がわずかに下方にたわみま す。コンクリート梁の底面側では引っ張り歪み(正の歪み)、上面側では圧縮歪み(負の歪み)が生じます。 下図bの測定結果は、その歪みが本開発技術で計測できたことを示すものです。荷重区間は重りを乗せた位置 を示します。また、従来から用いられている歪みゲージによる検証結果も合わせて示しました。
図.コンクリートの梁歪み分布測定実験図および測定結果
