平成9年6月30日 ICC オープニング・シリーズ アート&サイエンスの共振 センシティヴ・カオス ─ 流れゆくものとの対話 ─ 同時開催 1 : ポール・デマリーニス展 ─ メディアの考古学 ─ 同時開催 2 : アート&サイエンスの歴史的映像 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)では、物理的現象をテーマにし、 アート作品として高い芸術性をもった作品の展覧会「センシティヴ・カオス--流れゆく ものとの対話」展を1997年7月29日(火)より、9月7日(日)まで開催します。 加速化する情報化時代のなかで、ひたすら増殖する記号的イメージと虚像の氾濫。一 方で、アートとサイエンスがこれほどまでに相寄ろうとしながら、常に皮相な観念のな かに拡散して裏切られてしまう現代の世紀末的状況……。せめて、科学と芸術の原初の ふるさとであった自然現象との対話を取戻し、童心に帰って、存在との一体感を懐かし む展覧会の可能性がないものか……。これは、そのささやかな試みの一つである。 ここには、ハイテクやウルトラ・モダンな装いの作品の代わりに、人類が悠久の昔か ら感動し、美意識と好奇心を触発されてアートや科学の芽を育ててきた水や砂や大気の 自然現象や、素朴な結晶構造の挙動や、そして大地と宇宙の律動を感じさせてくれる振 動や運動の軌跡の数々がある。しかも、いずれも、現代のアーティストたちが、科学者 と同様に、存在の背後に潜む摂理の神秘に感じて、五官で感じる表現にまで高めること のできた作品群である。ここには、もはや科学と芸術のあいだの厳密な境界線さえ存在 しない。 アトムからビットへと傾斜する現代のメディア・アートの趨勢のなかで、むしろこの 作品群は、次の時代にますます必要となるビットとアトムの共存、そしてビットからア トムへの往還運動へ向けての、新しい意識の触媒役を果たすに違いない。ときは夏。人々 が過去を偲び、水を触媒に、宇宙や精霊との対話を取り戻す季節ではないか。 <概要> ◇会期:1997年7月29日(火)〜9月7日(日) 月曜日及び8月3日(日)休館 午前10時から午後6時まで(金曜日のみ午後9時まで) 入館は閉館の30分前まで ◇場所:NTTインターコミュニケーション・センター ギャラリーA、D、シアター 〒163-14 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 ◇一般問い合わせ先:フリーダイヤル 0120-144199 ◇シンポジウム:7月29日(火)午後6時から8時まで 5階ロビーにて ◇ポール・デマリーニスによるワークショップ: 8月1日(金)午後6時から8時まで ギャラリーDにて ◇入場料(税込み):*ギャラリーA、D、常設展示室共通 個人 一般 800円 団体 一般 600円 大高生 600円 大高生 450円 小中生 400円 小中生 300円 *シアターは無料 監修:坂根厳夫 主催:NTTインターコミュニケーション・センター(ICC) 出展アーティスト: マイケル・ブラウン(Michael BROWN)、ポール・デマリーニス(Paul DeMARINIS)、 ネッド・カーン(Ned KAHN)、イェルク・レンツリンガー、 ポール・マチス(Paul MATISSE)、ジェームズ・オッシ(James OSSI)、 ビル・パーカー(Bill PARKER)、チャールズ・ロス(Charles ROSS)、 トーマス・シャノン(Thomas SHANNON)、高橋洋子(Yoko TAKAHASHI)、 サリー・ウィーバー(Sally WEBER) センシティヴ・カオス(Sensitive Chaos) ──流れゆくものとの対話── 企画展示室(ギャラリーA) センシティヴ・カオスとは、18世紀の詩人ノヴァーリスが水に与えた象徴的なことば。 ここでは、水だけでなく、大小さまざまな時間のスパンのなかで、液相、固相、気相と 相転移しながら姿を変え、宇宙の鼓動や大地の振動にまで連続する存在そのもののメタ ファーとして捉えている。 <作品紹介> 1) 水と砂の銀河 (ネッド・カーン) Fluvial Storm (Ned KAHN)1993 水と微細な白砂を封じ込めたガラス球を回転させると、渦巻く水の流れで、砂と水の 運動が起こり、さまざまなパターンを描き出す。回転の速度や方向を変えると、砂はハ リケーンのように巻き上がり、自然の海や河川の砂床のダイナミックな変化を再現して みせる。 2) 風が演ずる風景 (ネッド・カーン) Aeolian Landscape (Ned KAHN) 1992 観客が把手を回して扇風機の方向を変えると、装置内の細かい砂が流体のように舞い 上がり、時間と共に砂丘のように起伏する風景が刻々と変容する。砂丘の起伏が同時に 空気の流れにも影響しあい、複雑な大地の形が形成されていく。 3) 蛇行のドラマ (マイケル・ブラウン) Meandering (Michael BROWN) 1992 傾斜したガラス板の上から流れ落ちる複数の水流が、途中のガラスの表面抵抗や、水 の粘性やさまざまな偶然の力によって、互いに接触したり、離れたりし、複雑な蛇行現 象を生んでいく。観客がこのガラス板の傾きを調節することで、さらに蛇行のドラマは 複雑になる。水の流れ自体がレンズの様に光を屈折し、表情に彩りを添える。 4) デリケートなカオスの構造体 (ジェームズ・オッシ) Delicate Organization at the Edgeof Chaos(James OSSI)1995 幅1m、厚さ8cm、高さ3mほどのガラスの角柱の中を、ゆっくりと下からシャボンの膜 面が昇っていき、互いに交差する幾何学模様を描き出す。その膜面の角度は常に120度 となる。時間の経過とともに、はじめ透明だった泡の膜がさまざまな色彩を帯びて変化 する。15分ほど経つと上からシャボン液が落ち、膜面は洗い流され、再び最初から新し い膜面の構造が生まれてくる。 5) ウォーター・ガーデン (高橋洋子) Water Garden (Yoko TAKAHASHI) 1997 床の上に置かれた浅いプールの水面に、絶え間なく落ちる水滴。水面に広がる波紋の 干渉パターンが、ライティングによって天井や壁に投影され、光と波動の幻想的な空間 をつくり出す。 6) フレーム・オヴ・ハーモニー (ポール・マチス) Frame of Harmony (Paul MATISSE) 1997 ガラスで覆われた円形の容器の中に、液体と細かい金属の微粉を封じ込めた作品。ゆっ くりと手で回転させると、内部に渦や星雲のような流れのパターンが現れる。気温の低 い状態で静かに放置すると、局部的に熱対流が起こって、内部が無数の細胞状(セル) に分かれる。現象を発見した流体力学者の名前をとってベナール・セルと呼ばれるもの。 味噌汁の模様や鰯雲のパターンのできる原理と基本的には同じである。 7) 時空の彼岸を越えて (サリー・ウィーバー) Threshold of A Singularity - A Memorial temporal aspect (Sally WEBER) 1989 虹色のホログラフィ(白色光ホログラフィ)のパネルが吊り下げられ、その裏側の床 面上の水盤に落ちてくる水滴の波紋が、鏡の反射でこのホログラムを照らし出す。光の 干渉によって虹の色彩がリズミカルに変化する。タイトルに生死や境界点での現象を象 徴しているのは、父への思いを籠めた作品。 8) カオティック・ジャンプ・ロープ (ポール・デマリーニス) Chaotic Jump Rope (Paul DeMARINIS) 1995 垂直にのびたロープの両端にフィードバック回路を備えたモーターを取り付け、この 回転数の変化でロープの振動を定常波からカオス的運動にまで変容させられる。同時に、 発生する音が微妙に変わる。観客がロープに触れることでこの振動パターンも変化し、 さらにインターネットを介して振動のパターンと音をコントロールする事ができる。 9) アル・ファーラビーのそろばんに集まる蛍たち (ポール・デマリーニス) Fireflies Alight - on the Abacus ofAl-Farabi (Paul DeMARINIS) 1993 暗い部屋の中に13mほどの長さに張られたピアノ線が、高速で振動している。その線 に通されたテグスの小さな無数の輪が弦と平行に走る緑色のレーザー光で浮かび上がり、 まるで蛍のように光を点滅させながら舞続ける。同時にエオリアン・ハープの様な音楽 が奏でられ一種の瞑想的空間を演出する。 10) 水の惑星 (ビル・パーカー) Eospher (Bill PARKER) ガラス球の中に封入された気体は、電・現象によって帯電し、その電位の強さによっ て球の表面にさまざまなパターンを描く。観客がガラス球に触れると、電位の状態が微 妙に変わり、模様も刻々と変化する。地球上で起こる熱対流やエネルギーの流れ、風の 季節的変化など、一種の気象現象のモデルともいうべき作品。 11) 結晶の花園 (イェルク・レンツリンガー) Blooming Saltgarden 水に溶けたさまざまな塩の溶液が、紙の筒を昇り、繊維の上にたれ、木綿の糸を伝わっ て落ちながら結晶成長を続けていく。水が蒸発するとともに成分による独特な色とかた ちの結晶が植物のように育っていく。結晶は展覧会会期中も豊かな花畑を形成していく。 12)太陽の焦げ跡(Solar Burns, July, 1996)」July l-July 31, 1996 太陽の焦げ跡が生みだしたスパイラル (Solar Burn Spiral, 1992)1992 (チャールズ・ロス Charles ROSS) 南面する空に向けて置かれたフレネルレンズの下に木の板を置き、太陽が東から西に 移動しながら板の上につけていく焦げ跡の記録。これを毎日板を換えて1年間記録して いった作品の一部。天候によって焦げ目の形が変化すると同時に、季節によってこのカー ヴが微妙に変化していく。1年間のカーヴの記録をつなぐと8の字型の独特な形が生ま れてくる。太陽と地球の相対的な位置関係から生まれる宇宙的なパターン。1971年には じめて試みている。 13) ペンデュラム・ペインティング「青い鳥」Pendulum Painting "Bluebird in the Fields" ペンデュラム・ペインティング「ありのままに・・・」 Pendulum Painting "Nothing, Magnified" (トーマス・シャノン Thomas SHANNON) 絵の具を入れたタンクを振り子の先に付け、振り子運動をさせながらタンク口の開閉 と振動をコントローラーで制御しながら描いていった作品。絵の具の流体と重力、それ に振動の方向や絵の具の出方の制御によって、いわば重力と人間の意識の合作で生み出 した宇宙的作品。 同時開催 1 ポール・デマリーニス展 ──メディアの考古学── ワークショップ・ルーム(ギャラリーD) ポール・デマリーニスの作品は、現象のふしぎに触発された人間の好奇心から、新し い光と音のゲームが生まれ、そこから現代の電子的発明にまで発展させてきた人類の歴 史を垣間見せてくれる。いわばメディア史への考古学的視点を提供する作品群で、その 一つ一つに並々ならぬ諧謔の精神も溢れている。ここに展開する不思議な現象のいくつ かは、どこかで私たちの懐かしい記憶と解け合い、「センシティヴ・カオス」展の自然 との対話のテーマとも微妙に結びついていく。作品のタイトルには、無数の映画史や音 楽史からの引用も秘められいる。 <作品紹介> 1) エジソン効果シリーズ("The Edison Effect")から 「アルとメリーのダンス(Al & Mary do the Waltz)」 「またベルリンに戻って・・・(Ich auch Berlin(er))」 「ジェリコの断章から(Fragments from Jericho)」 「ガーシュインのもじり(Rhondo in Blew a la Cold Turkey)」 蓄音器時代のレコードや蝋管、ホログラムをレーザー光によって読み取り、かすかな 音楽を奏でる一連のサウンド・スカルプチャー。それは頭の片すみに残るかすかな記憶 を呼び覚まし、遠い日の現象との出会いや、音楽が優しく思い出されてくる。失われた ときの流れについて、ふと瞑想的にさせる作品。 2) 脳の力シリーズ("Gray Matter")から 「脳の力(Gray Matter)」 「二人で独奏(Solo for Two)」 「音の出る静止画(Still Life with Lyre)」 手で触れることによって音と触覚を楽しめるインタラクティヴな電気的オブジェ。エ イシャ・グレイが1874年に発見した、人の皮膚と電場とのインタラクションに関する現 象を利用したもの。スピーカーを使わず、人体生理学上の電気的特性によって触れた手 から音が伝わる。 3) 「アーニーでの夕食(Dinner at Ernie's)」 映画のサウンド・トラックが螺旋状に書き込まれた4枚のホログラフィが回転し、レー ザー光によって読み取られる。それぞれはヒッチコックの「めまい」の音楽のテーマで あり、アーニーは、この映画の主人公が出会うレストランの名前。 *その他出展予定 「みっともないインテリア(A Flaw in the Decor)」、 「ミュージック・レッスン(A Music Lesson)」 同時開催 2 アート&サイエンスの歴史的映像 (シアター) 会期中に、1960年代からアート&サイエンスの境界領域で生まれてきたアーティスト の作品や記録的映像をシアターで紹介する。 <アーティスト紹介> *マイケル・ブラウン(Michael BROWN) 1961年生まれ。フンボルト州立大学卒業。エクスプロラトリアム等でアーティスト・イ ン・レジデンスとして作品制作に従事。水をテーマとしたインタラクティヴな作品が多い。 *ポール・デマリーニス(Paul DeMARINIS) 1971年からメディア・アーティストとして活躍。音響周波数を利用した多数のパフォー マンス作品、音とコンピュータによるインスタレーションやインタラクティヴ作品を発 表。展覧会も多く、いくつかの大学でコンピュータ、ビデオ、オーディオ・アートを教 え、アタリミなどのビデオゲーム・デザイナーの経験を持つ。現在はカリフォルニア、 パロアルトのゼロックスPARCの客員芸術家。 *ネッド・カーン(Ned KAHN) コネティカット大学卒業後、エクスプロラトリウムの創設者で物理学者のフランク・オッ ペンハイマーの助手を務め、その後スタッフ作家として自然現象をテーマとする作品を 多数制作。 *イェルク・レンツリンガー 1964年生まれ。さまざまな素材による制作を試みた後、多彩な色と形を持つ科学的組成 の塩の結晶成長による作品を始める。他のアーティストとのコラボレーションによるパ フォーマンスも行なう。 *ポール・マチス(Paul MATISSE) 1933年生まれ。ハーバード大学卒業後、建築を学ぶ。1963年、流体現象利用の作品カリ ロスコープを発明。多数のキネティック彫刻、サウンド彫刻を発表。デュシャン研究で も知られている。 *ジェームズ・オッシ(James OSSI) 1947年生まれ。パーソンズ・スクール・オヴ・デザインで工業デザインを学ぶ。液体を 使った小規模な彫刻作品の後、しゃぼん膜による彫刻に専念。建築や農学関係の活動も 行なう。 *ビル・パーカー(Bill PARKER) 1952年生まれ。MIT のCAVSに学ぶ。1976年より電気と光を使ったインタラクティヴな サイエンス・アート作品を制作。ホログラフィを使った電子的デバイスの開発なども行う。 *チャールズ・ロス(Charles ROSS) カリフォルニア大学で数学と彫刻を学ぶ。1965年大きなプリズムを使って建物内に太陽 光のスペクトルを投影する作品制作を開始。他にニューメキシコの砂漠で宇宙スケール の作品制作を続けている。 *トーマス・シャノン(Thomas SHANNON) 1947年生まれ。自然とその力、時間や空間をテーマにした作品を制作している。磁力を 用いた浮かぶ彫刻や最近では「オービット」と呼ばれる振り子運動を使った絵画作品な どを制作。 *高橋 洋子(Yoko TAKAHASHI) 1978年多摩美術大学彫刻科卒業。水と光と波動をモチーフとして、生命体とそこに存在 する心(潜在意識)をテーマに作品を制作し続けている。 *サリー・ウィーバー(Sally WEBER) MITの高等視覚研究センターCAVSで学ぶ。1980年代初めから、ホログラフィと太陽光 や建築的環境とを結び付けた作品を制作。大規模な作品を含むパブリックアートの委嘱 も多い。 <監修者紹介> 坂根厳夫(さかね いつお) 1930年青島生まれ。東京大学建築学科卒、同修士。1956年朝日新聞社入社。佐賀支局、 家庭部、科学部、学芸部記者、同編集委員を経て、1990年から慶応義塾大学環境情報学 部教授。1996年4月から岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー学長として現在に至る。 1970-71年ハーバード大学ニューマンフェロー。新聞記者時代に科学・技術・芸術の境 界領域を取材・執筆、評論活動を行ない、慶応義塾大学ではサイエンス・アート概論、 環境芸術論、マルチメディア・ゼミなどを担当。 著書:「美の座標」(1973)、「遊びの博物誌」(1977)、「新・遊びの博物誌」(1982)、 「境界線の旅」(1985)、「科学と芸術の間」(1986)、「イメージの回廊」(1986)他。訳書: 「仮面舞踏会 」(1981)、「少女ラブキンズとマファロー老人の冒険」(1987)、「エッシャー 自己を語る−無限を求めて」(1994)、「M.C.エッシャーその生涯と全作品集」(1996)他。 展覧会企画構成:「遊びの博物館展」(1979)、「サイバネティック・アート−振動芸術 の世界展」(1981)、「光とイリュージョンの芸術展」(1982)、「遊びの博物館−パート 展」(1984)、「フェノメナート展」(1989)、「インタラクティヴ・アートへの招待展」 (1989)、「セビリア万博日本館サイエンス・アート展」(1992)、「インタラクション'95 展」(1995)、「インタラクション'97展」(1997)他。受賞:日本文化デザイン賞(1982)。 国際科学・技術・芸術協会(ISAST)機関誌「LEONARDO」共同編集者(1985-1996)同名誉 編集委員(1996-1998)。
