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                              平成9年12月9日
                             日本電信電話株式会社


       1個の電子で動作するシリコン機能素子の試作に成功
        ─究極の超低消費電力集積回路実現に大きな前進─

 NTTでは、電子1個の力で電流を2方向に切り替えることができる、「シリコン単電
子機能素子」の試作および動作実験に成功しました。
 試作した素子は、NTTが独自に開発したシリコン単電子トランジスタ3個分を同じ基
板上に作り込み、それぞれが持つ電子1個で電流を流す/止めるという機能を発展させ
て、電流の方向切り替えを可能としたものです(図1)。動作に必要な電子数が現在の
トランジスタの数万分の1で済む単電子素子でLSIを構成することができれば、LSIの消
費電力を現在の数万分の一に低減することが可能になります。
 今回の成果は、複数の単電子素子を1つの基板上に制御して作り込めることを確認で
きた点で、将来の超低消費電力LSIの実現に向けた大きな前進であるといえます。
 今後NTTでは、単電子トランジスタを始めとする単電子素子の性能向上と新機能開発
、およびその集積化に照準をあて、究極の超低消費電力LSI実現のための研究開発を進
めていく予定です。

<開発の背景>
 現在、パソコンなどの情報処理機器の性能は向上の一途にあります。これは主にマイ
クロプロセッサの性能向上によるものですが、一方でマイクロプロセッサの消費電力の
増大につながっています(消費電力量は、現在10Wを超え、2005年には100W
を超えると予想されている)。
 この消費電力の増加はさまざまな点で問題を引き起こします。まず、LSIのレベルで
は温度上昇により誤動作が起きたり、集積度の向上を妨げます(集積度があがると発熱
量は増える)。また、装置レベルでは消費電力が増えるとバッテリの使用時間が短くな
るため、端末の携帯性に制限を加える原因となります。さらに、電子機器が今後も増え
続けることは確実ですから、その低消費電力化は地球環境の保全に大きな影響を与える
技術的課題であるといえます。そのため、世界中で超低消費電力集積回路の研究開発が
急がれています。
 NTTでは1994年に1個づつ順番に流れる電子による電流を、電子1個分の力で制
御できるシリコン単電子トランジスタを開発し、動作確認に成功しました。
 現在のトランジスタは数万個の電子を使って動作していますが、電子素子の消費電力
はその動作に必要な電子の数にほぼ比例しますので、このシリコン単電子トランジスタ
を用いることにより、電子機器の消費電力を桁違いに削減することができます。また、
素材に安定したシリコンを用いているため、室温に近い温度環境下でも動作する点など
、将来の超低消費電力集積回路の実現に向けて、これまでになかった高い可能性を示し
た成果といえます。
 その後、NTTではこのシリコン単電子トランジスタを基本素子とした集積回路の研
究開発を進め、今回、それを3個分集積化した単電子素子の試作・動作実験に成功しま
した。

<技術のポイント>
 シリコン単電子トランジスタは、数ナノメートル(nm:10億分の1m)台の微小
なシリコンの島状の導体(シリコン島)が、トンネル障壁という特殊な構造を間にして
両側の電極で挟まれた構成を基本としています(図2)。この微小シリコン島とトンネ
ル障壁の形成には、まず、NTT独自のSIMOX*技術を用いてシリコンの薄膜を作ってお
き、そこからLSI微細加工技術により細いシリコンの線を切り出します。その後、やは
りNTT独自技術である「シリコンのパターン依存酸化技術」を駆使してシリコン細線に
トンネル障壁と同じ働きをする「くびれ」を付ける工程で行ないます。パターン依存酸
化技術は、シリコン細線を高温の酸素によって酸化したときに、細線の両端では酸化が
促進され、中央部では酸化が抑制されるという現象を利用したものです(図3)。
 今回の集積化にもこの技術を活用し、交差点部分の酸化を促進することにより、トン
ネル障壁を介して相互に電気的に結合された3個のシリコン島を同時に形成することに
成功しました。また、形成された個々のシリコン島は、これまで報告された例より一桁
以上高い温度環境下(絶対温度30度)での動作を可能にするほどの微細化が達成され
ています。

<今後の展開>
 単電子素子のLSIは、消費電力を現在のLSIなみに設定すると1〜10万倍の集積が可
能となるため、現行コンピュータでは不可能だった高度な処理を行なうコンピュータが
実現します。また、電子1個ごとの挙動を制御できるようになると、生物の神経網を模
した情報処理回路が構成できるようになるとも考えられています。
 NTTでは今後、流れている電子1個単位の電流も電子1個単位で制御可能な回路、さ
らに多くの単電子素子の組み合わせによる多様な機能をもつ回路などの研究開発を進め
、これを足掛かりにして、超低消費電力・超高機能シリコン単電子素子LSIの実現を目
指します。

<用語解説>
*) SIMOX(SeparationbyIMplantedOXygen)
 高電圧で加速した酸素イオンをシリコン基板に打ち込んで、基板内部に二酸化シリコ
ン層を埋め込み形成することで、その上の層に作り込まれる各素子を基板本体から絶縁
・分離するNTT独自の技術です。






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