News Release


平成11年5月20日

日本電信電話株式会社



超臨界流体による
デバイス加工の超高密度パターン形成法(SRD法)を開発

─ナノメートル級の超微細加工が切り拓く次世代LSIへの道─



 NTTは、超臨界流体(*1)を用い、単電子トランジスタなどの革新的デバイス加工に応用可能な、超高密度・超微細パターン形成法(SRD法:Supercritical Resist Drying)を開発しました。この形成法は、これまで不可能とされてきたナノメートル(nm:10億分の1メートル)領域の超高密度パターン形成を可能にし、次世代の情報化社会に必要不可欠なナノメートル級の高性能デバイス開発・製造技術を大きく飛躍させることが期待されます。

 携帯電話、モバイルコンピュータなど携帯情報端末の普及にはめざましいものがあり、今後、これらの機器にはさらなる小型化・高機能化が求められます。そのためには、シリコン基板への超微細加工を行ってLSIの集積度を一層高める必要があります。ところが超微細かつ超高密度の回路パターンをつくるには、パターン倒れという問題がありました。

 パターン倒れは、パターン形成プロセスでの洗浄・乾燥工程で発生します。従来のように、洗浄・乾燥工程で洗浄液として水やアルコールを使用すると、パターン間において互いに引き合う力(表面張力)がはたらくために、パターン倒れが起きてしまいます(図)。NTTでは二酸化炭素の超臨界流体を用いることで、ナノメートル幅という超微細パターンを、パターン倒れなく形成することに世界で初めて成功しました。現在のLSIのパターンの幅は最小のものでも0.1ミクロン(100ナノメートル)ですが、この技術を使うと20ナノメートル程度に減少でき、同じ回路を25分の1の大きさで実現することが可能となります。

 さらに、反応室内部の水分を抑制する「水分制御超臨界乾燥法」の開発により、パターン膨れなどの変形を防いでいます。なお、4インチまたは6インチの大口径シリコンウェハを処理できる自動超臨界乾燥装置も併せて開発しました。

 SRD法は、超低消費電力デバイスとして期待が高まる単電子トランジスタをはじめ、マイクロマシン、各種センサなど、超小型・高機能デバイスを必要とする分野への応用が考えられます。

 今後NTTでは、画期的な超高密度・超微細パターン形成技術であるSRD法の成果を活かしながら、究極ともいえるナノメートル級のLSI開発を目指していく予定です。

 なお、今回の技術成果は、本年6月にアメリカ・フロリダで開かれるEIPBN(*2)にてNTT物性科学基礎研究所生津英夫主幹研究員が発表の予定です。



●主な特長

1.超臨界流体の物理的・化学的性質を半導体デバイス製作に応用

 これまでの洗浄液では、表面張力による毛細管力がもたらすパターン倒れが避けられませんでした。ところが超臨界流体は「表面張力ゼロ」という特性があるために毛細管力がはたらかず、微細なパターンでも倒れることはありません。


2.高アスペクト比を実現

 回路の集積度を高めるにはパターン幅を狭くする必要がありますが、パターンの高さはそれほどは変えられないために、例えると超高層ビルのようなパターンが形成されていくことになります。ところが、この状態ではパターンが倒れやすいのが難点でした。パターンの高さと幅の比率をアスペクト比といいますが、従来ではアスペクト比が5以上になるとパターン倒れが起きていました。今回のSRD法では、10を超えるアスペクト比を実現しています。


3.次世代LSIのさらなる集積化が可能

 LSIからVLSI、そしてウルトラLSIへと回路の集積度が高まってきましたが、今までの限界を超えたナノメートル単位での超微細パターン形成(写真参照、パターンの幅20nm)により、飛躍的に集積度を高めた高性能・高機能デバイスの製造が可能になります。



●技術的ポイント

1.超臨界流体に二酸化炭素を使用

 超臨界流体としては、猛毒のダイオキシンを分解する超臨界水が有名です。今回NTTでは、回路パターン形成における洗浄・乾燥工程に二酸化炭素の超臨界流体を使用しました。二酸化炭素は安全なうえに水よりも臨界点(*3)がかなり低いので扱いやすく、さらに火力発電所の排ガスを集めて再利用するのでリサイクルにもなります。


2.水分制御超臨界乾燥法

 表面張力をもたない超臨界流体は、生物の電子顕微鏡写真用試料をつくる際に、観察試料をダメージなく乾燥させる目的で使われています。このときは、液体の二酸化炭素を反応室に送り込んだのちに、温度を臨界点以上に上げて超臨界状態をつくる超臨界乾燥法が用いられます。

 NTTでは、この超臨界乾燥法を回路パターンの洗浄・乾燥工程で試してみましたが、空気中に含まれる水分に二酸化炭素が溶け込み、パターン中に拡散して倒れや膨れの原因となっていました。これを解決するために、液体ではなく超臨界状態のまま二酸化炭素をポンプで圧送し、気化熱により生じた反応室壁の水分を抑制する「水分制御超臨界乾燥法」を開発しました。その結果、パターン倒れだけでなく、パターン膨れも見られません(写真参照)



●用語解説

*1.超臨界流体(supercritical fluid)

 あらゆる物質は気体、液体、固体のいずれかの状態にありますが、これには温度と圧力(気圧)が深く関わっています。ある物質に対して温度と圧力を変えると、その物質の状態を変化させることができます。

 通常の温度・圧力で気体または液体である物質の温度と圧力を共に上げていくと、ある温度・圧力のもとで気体と液体の密度が同じになり、互いの区別ができなくなってしまいます。これを超臨界状態と呼び、気体と液体の界面はなくなるため、表面張力はゼロになります。なお、このときの温度・圧力をそれぞれ臨界温度・臨界圧といいます。この超臨界状態を超えた温度と圧力のもとで生じる流体が超臨界流体です。超臨界流体は気体のように広がりやすい(拡散性)だけでなく、液体のように成分を溶かしだす性質(溶解性)も併せ持っています。


*2.EIPBN(Electron, Ion and Photon Beam Technology and Nanofabrication)

 電子・イオン・フォトンビーム・ナノテクノロジー国際会議。集積回路を作るリゾグラフィー技術の向上を目的としています。今年で43回目をむかえました。


*3.臨界点(supercritical point)

 物質が超臨界流体となる温度(臨界温度)と圧力(臨界圧)の値であり、物質ごとに異なります。水の臨界点は温度が374℃、圧力が218気圧で、これを超えると超臨界水になります。これと比べて二酸化炭素の臨界点は温度が31.1℃、圧力が72.9気圧であり、水よりもかなり低い値になっています。



これまでのパターン
これまでのパターン

超臨界流体を用いて形成されたパターン
超臨界流体を用いて形成されたパターン






別紙
洗浄工程でのパターン倒れの原理図




<本件に関するお問い合わせ先>
NTT先端技術総合研究所
真鍋義文
Tel:0462-40-5152, Fax:0462-70-2365



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