News Release


平成11年6月24日

日本電信電話株式会社

熱毛管現象を利用した全く新しい動作原理の光スイッチを開発
―集積性・光学特性ともに優れ、切替動作時以外は電力不要―


 NTTは、熱毛管現象(*1)を利用した全く新しい動作原理の超小型光スイッチを開発しました。

 今回開発した光スイッチは、独創的な動作原理を採用することで、従来の光スイッチとは異なり、良好な光学特性、高信頼性に加え、高集積性、自己保持性(*2)をも合わせ持っている点が最大の特徴です。


   光の通り道を自在に切り替える光スイッチは、異なる波長の光を合分波するWDM(*3)や、故障時の切替など、ネットワークの光化を進める上で必要不可欠な光部品です。光スイッチに求められる機能や特性は多岐に渡ります。

 光スイッチには、光の損失が小さく広範囲の波長の光で使用できるなどの良好な光学特性が求められることはもとより、小型・集積性、経済性、かつ高い信頼性が求められます。しかし、これまで代表的光スイッチとされてきた熱光学スイッチ(*4)やファイバスイッチ(*5)は、それぞれ一長一短があり、これらの要求を全て満たすものではありませんでした。


 今回開発した熱毛管型光スイッチは、液体の表面張力を駆動力とする全く新しい発想の光スイッチです。平面光導波路(PLC *6)基板上にマイクロマシン技術で形成するため従来のスイッチの10分の1の面積となり集積性に優れています。また、光の反射を利用して切り替えるため、1.3ミクロンから1.6ミクロンまでの幅広い範囲の波長で使用できるうえ、切替動作時以外は電力を使わない自己保持性があることも特長です。(光スイッチ性能比較表参照

 本スイッチの用途としては、光デバイス開発における光学測定用や光通信設備の予備系切替スイッチ、あるいは光クロスコネクトスイッチなど幅広い応用が考えられます。


 本スイッチは7月に開催されるInterOpto'99(*7)に出展されるとともに、8チャンネルの光セレクタスイッチとして今夏からサンプル出荷する見込みです。

 NTT通信エネルギー研究所では、光通信システムの本格的な普及に向け、本スイッチの適用領域拡大を目指し、高速化、高機能化等についての研究開発を推進していく予定です。


<動作原理>

 熱毛管型光スイッチは、マイクロマシン技術により光導波路上に形成した微細な光スイッチで、溝付き交差導波路と一対のヒータから構成されています。(図1
 溝に封入されたシリコンオイル(導波路コアと同じ屈折率)は、ヒータで加熱されると表面張力が低下し低温側へと移動します(熱毛管現象)。また、移動したオイルは、毛管現象によって保持されます。導波路と交差する溝にオイルがあるかないかで光の直進/反射が切り替わる仕組みです。切り替えに要する時間は約100msです。(図2


<主な特徴>

1) 熱毛管現象を利用したユニークなマイクロマシン
 マイクロマシンを光スイッチに応用した例としては、静電気の力でミラーを動かす光スイッチの研究も進められていますが、製作・実装が困難なばかりかミラーの信頼性にも問題があり実用化には至っていません。
 本スイッチは、ミクロンの世界では表面張力が非常に大きな力として働くことに着目したマイクロマシンです。このような表面張力を用いたマイクロマシンは他に例がなく、マイクロマシンの実用化成功例としても数少ない事例といえます。
2) 良好な光学特性
 溝の壁面で光信号を反射させ光路を切り替える構造としているため、光信号の損失が小さく(<3dB)、消光比(*8)が高い(>50dB)、広範囲の波長の光で使用できる、といった優れた光学特性を有しています(表1)。
3) 集積性に優れ、量産も可能
 構造が比較的単純でコンパクトに多数の素子を集積できるため、マトリックス化や量産によるコストダウンが可能です(表1)。そのため、WDMネットワークに必須のクロスコネクト用光スイッチにも応用できます。



<技術のポイント>

1) 超高精度深溝加工技術
 溝の壁面で光信号を反射させ光路を切り替える構造のため、溝壁面の加工精度が光学特性を大きく左右します。本スイッチでは、超高精度深溝加工技術など高度な加工技術を駆使して、幅10ミクロン、深さ40ミクロンの溝を壁面傾き0.5度以下、平均面荒さ10nmで形成することに成功しました。これにより、溝部分の透過損失0.05dB以下、溝壁面での反射損失0.6dB以下という良好な光学特性が得られました。実現された反射面は、使用する光の波長の1/100以下であり、光学的には極めて平坦な反射面と言えます。
2) 超微量液の一括封入技術
 溝に封入されているシリコンオイルの量はわずか数十ピコリットルです。この僅かの液量を、圧力を制御することで正確に注入することに成功しました。また、長期の使用に耐えうるように、化学的に安定なシリコンオイルを用いると同時に導波路基板内に完全密封しています。



<用語解説>

*1 熱毛管現象 細いガラス管などの毛細管内に形成された液柱は、両端に温度差を与えると、それによって生じる液柱両端の表面張力の差によって、毛細管内を高温側から低温側へと移動する。この現象を熱による毛管現象、熱毛管現象と呼ぶ。

*2 自己保持性 機械式スイッチのように、接続状態を自ら保持する性質を自己保持性という。このような機能を持つスイッチでは、外界からエネルギーを供給しない限りスイッチの接続状態が変わらないため、信頼性が高く経済的である。

*3 WDM(Wavelength Division Multiplexing) 光信号の伝送容量やチャネル数を増加させるため、波長の異なる複数の光信号系列を光合分波器を用いて1本のファイバに多重して伝送する波長多重伝送技術。波長ごとに光路を切り替える波長ルーティングや、目的の波長を取り出したり加えたりするアド・ドロップなどは、ともに光スイッチを必要とする。

*4 熱光学スイッチ 温度によって屈折率が変化する熱光学効果と光の干渉を組み合わせた導波路型光スイッチ。現在、比較的多く使われているが、一般に、使用できる光の波長が限られる(波長依存性)ことや、高い消光比を得ることが難しく、また、自己保持性もない。

*5 ファイバスイッチ 向かい合ったファイバの一方を電磁石の力で移動させ、機械的にファイバの連結を切り替える光スイッチ。光学特性は良好だが、小型化・集積化・低価格化に難点がある。

*6 PLC(Planar Lightwave Circuit) シリコン平面基板上に光の通路(光導波路)を張り巡らせて光回路を形成する技術。光部品の基礎技術。

*7 InterOpto'99 わが国最大の、光産業に関する総合展示会。主催:光産業技術振興協会 http://www.oitda.or.jp/io99home-j.html

*8 消光比 光の切替に伴う、信号の変化の大きさ。スイッチがONの状態とOFFの状態での光強度の比で表す。この値が小さいと、OFFの状態でも光信号を完全には遮断できないことを意味する。


熱毛管現象を利用した光スイッチ熱毛管現象を利用した光スイッチ
熱毛管現象を利用した光スイッチ



別紙
表1:代表的な光スイッチとの比較
図1:熱毛管スイッチの構造
図2:熱毛管スイッチの動作原理




<本件に関するお問い合せ先>

NTT先端技術総合研究所
企画部 真鍋、活田、佐々木
Tel (0462) 40 5152, Fax (0462) 70 2365



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