News Release


平成11年10月1日

日本電信電話株式会社



量子限界を打ち破る超低雑音光増幅器を世界で初めて実証

−コヒーレント光増幅による超低雑音増幅実験に成功−


 NTTは、新しい原理の光増幅技術によって、従来の光増幅器の量子限界を打ち破る超低雑音の高利得光増幅実験に世界で初めて成功しました。

 従来の光増幅器では、量子力学の基本法則である不確定性原理で決まる量子限界によって、雑音の低減に限界がありました。新開発のコヒーレント(注1)光増幅技術では、従来の光増幅器では同時に増幅していた光信号の2つの光位相成分のうち、一方だけを選択的に増幅します。この動作により、これまでの光増幅の量子限界による信号劣化量(雑音成分の量)50%を下回る34%という超低雑音の増幅を、40倍の高利得(増幅の大きさ)で実現しました。

 低雑音コヒーレント増幅器の実現は従来不可能とされていた信号劣化量50%の限界の打破という学術的意義に加えて、従来の増幅器を使用した中継伝送距離と比較して伝送可能距離や伝送容量が大幅に増加できる可能性を示しています。現段階での雑音低減量では伝送可能距離において従来と比べて1.5倍程度の向上ですが、一層の低雑音化と共にコヒーレント増幅による波形整形効果(「今後の展開」参照)も勘案すると10Gb/sシステムの伝送可能距離を10倍以上延長する、すなわち中継器の設置数を10分の1以下にすることが可能なことがNTTの理論計算によって明らかとなっています。


○開発の背景
 
 光ファイバ通信システムでは、ファイバの中を進む光信号は40〜80kmで1/10〜1/100程度にまで弱まってしまいます。この弱まった光信号を増幅する光増幅には、レーザ増幅器が使われるのが一般的です。レーザ増幅器はレーザ材料に信号光を導き、高エネルギー状態にある原子のエネルギーを信号光と同じ光として取り出すしくみです。しかし、それとは無関係に光源内の他の原子も常にエネルギーを光として放出しているため、これが雑音となって増幅された信号光に混入してしまいます。この雑音量は、量子限界によって低減に50%という限界があるため、光ファイバ通信システム性能向上を妨げる原因となっていました。

○技術のポイント
 
 平面上の一つの点がx座標とy座標で規定できるように、一つの光は主位相成分と直行位相成分で規定できます。量子力学の不確定性原理では、この両位相成分の雑音量の積は一定の値より小さくはならないとされています。これまでのレーザ光増幅器では、両位相成分を同時に増幅していたため量子限界を下回る雑音量の低減は不可能でした。  しかし、不確定性原理は、主位相成分と直行位相成分の一方だけを増幅することができれば、雑音による劣化量は0%にできるという解釈もできます(図1)。今回NTTでは、光信号の主位相成分のみを増幅するコヒーレント光増幅技術(図2)を、独自に開発した(1)光位相感応パラメトリック増幅技術と、(2)光位相同期技術を融合させて実現し、これによって実用的な利得において量子限界(50%の信号劣化)を下回る光信号の超低雑音増幅実験に成功しました。

(1)

光位相感応パラメトリック増幅技術は、信号光に位相の同期した励起光を光非線形(注2)材料に照射して信号光の主位相成分だけを増幅する技術です。NTTでは非線形材料に通常の7倍という強い非線形性を持つ特殊な光ファイバを用意し、100〜400mWで励起することにより40倍以上の高い利得を実現しました。

(2)

光位相同期技術は、光位相感応パラメトリック増幅技術の特殊光ファイバが高い利得で増幅できるよう、信号光と位相の同期した励起光を安定して供給するための技術です。ここで使用した位相同期技術は励起光源として使用した半導体レーザに直接信号光の一部を注入し、同時に信号光と励起光の位相差を検出し、励起光源の光波を制御する方法でNTTが独自に開発したものです。

○今後の展開
 
 今回の増幅実験の成功は、超低雑音の高利得光増幅器実現の可能性を示したものですが、この技術がさらに成熟すれば光ファイバ内で歪んだ信号光の波形を整形したり、増大した雑音を押さえ込むといった機能の実現も可能となります。さらに、位相をコントロールするという点で、光の波としての性質を利用して現在の光パルス通信よりもさらに大容量伝送を実現するコヒーレント光通信技術の基盤技術として大きな可能性をもった成果であると言えます。NTT未来ねっと研究所では、将来のマルチメディアサービスをより経済的かつフレキシブルに提供できるよう、今後もこの革新的光技術の開発を進めていく予定です。

○用語解説
 
注1:コヒーレント
 太陽光など普通の光の中には何種類もの波長や位相の光が混じっています。
それとは違って、位相がそろっている光をコヒーレンスがよいと言います。
開発した増幅技術は、信号光と励起光の位相を合わせて高利得を実現するためコヒーレント増幅技術と呼んでいます。
 
注2:非線形
 信号光を光ファイバに入射する際、光が強すぎると光ファイバへの入力が飽和したり入射光の波形が劣化してしまいます。その結果、信号光の減少や光スペクトルの変化が起きます。このように、入力光の強さと、光が入ることによって生じる変化が比例しなくなる現象を非線形と言います。開発した光位相感応パラメトリック増幅技術では、この非線形性を積極的に活用して、信号光の主位相成分を増幅します。



別紙
図1 増幅時の信号光品質劣化
図2 位相感応型光増幅の動作




<本件に関するお問い合わせ先>
NTT先端技術総合研究所
企画部 真鍋、活田、佐々木
Tel: (046) 240 5152, Fax (046) 270 2365
E-mail: st-josen@tamail.rdc.ntt.co.jp



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