2010年4月28日

日本電信電話株式会社
科学技術振興機構(JST)


光スイッチの消費エネルギーを世界最小化、
初めてアトジュール領域に突入
〜 マイクロプロセッサチップへの光ネットワーク技術導入に一歩前進 〜


 日本電信電話株式会社(以下、NTT、東京都千代田区、代表取締役社長:三浦惺)と独立行政法人科学技術振興機構(以下、JST、埼玉県川口市、理事長 北澤宏一)は、光を極小領域に強く閉じ込めることが可能な性質を持つフォトニック結晶※1と呼ばれる人工周期構造を用いて、超小型の光スイッチ※2を作製し、アトジュール※3領域(アトは1兆分の1のさらに百万分の1)の極小エネルギーでのスイッチ動作に初めて成功しました。この消費エネルギーはこれまでに報告されている光スイッチと比べて200分の1以下の値です。従来の光スイッチは、スイッチ速度の高速化と低消費エネルギー化がトレードオフ※4の関係にあるため、高速でかつ低エネルギーで動作させることが困難でした。今回開発した光スイッチは超小型のフォトニック結晶光ナノ共振器※5を利用して素子のサイズを大幅に小型化し、高速でかつ極低エネルギーで動作するスイッチングを実現しています。
 本成果は、2010年5月2日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン速報版で公開されます。
 本研究は、NTTチーム(代表研究者:納富雅也 NTT物性科学基礎研究所 主幹研究員)がJST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」(研究総括:伊澤達夫 東京工業大学 理事・副学長)における研究課題「フォトニックナノ構造アクティブ光機能デバイスと集積技術」(研究代表者:馬場俊彦 横浜国立大学 大学院工学研究院 教授)の一環として行いました。


【研究の背景と経緯】
 近年インターネットが爆発的に普及し、データセンタ、ルータなど情報処理の様々なレベルにおいて、そこで用いられている電子回路の消費電力と発熱が飛躍的に増大し、さらなる処理能力の増強が難しくなりつつあります。この問題を解決する1つの方法として、高ビットレート※6においてエネルギー消費のより少ない光情報処理ネットワーク技術をマイクロプロセッサチップの中に導入する手段(Photonic Network On Chip)が検討されています。光技術は、電気技術に比べて情報伝送のエネルギーコストが低く、超高速動作が可能、という特徴があり、既にFTTH※7のようなサービスに利用されていますが、この特徴は、チップの中の情報処理回路においても有効に働くと考えられているからです。
 光技術をチップ内に導入するためには、小型、集積化可能で高速かつ低消費エネルギーの様々な光素子(光スイッチはその1つ)が必要となりますが、一般に光素子は電子素子に比べてサイズが大きく集積化に不向きである、という問題がありました。
 NTTの物性科学基礎研究所とフォトニクス研究所(以下、NTTの研究所)では、強い光閉じ込め作用を持つフォトニック結晶を利用して、従来技術では不可能な超小型でかつ集積化可能な光共振器※5を用いて光スイッチを作製し、アトジュール領域の極低エネルギーでのスイッチ動作を達成しました。


【技術のポイント】
 これまでもフォトニック結晶を用いた光スイッチの初期的な研究は行われていましたが、今回の素子では、(1)スイッチングのエネルギー効率が高いInGaAsP(インジウム、ガリウム、ヒ素、リン)を採用し、(2)光共振器構造として共振器有効体積が1立方ミクロンの40分の1の大きさの超小型フォトニック結晶ナノ共振器を用いて光スイッチを作製したために、素子の超小型化及び大幅なスイッチングエネルギー低減が可能となりました(図1)。
 本素子は、420アトジュールのエネルギーの光制御パルスよって、信号光の透過強度を20〜40ピコ秒(ピコは1兆分の1)の時間内2分の1に遮断するスイッチする動作(660アトジュールでは10分の1に遮断)を達成しました(図2)。また、同様の素子により毎秒40ギガビットの連続パルス列から、特定ビットを選択するスイッチ動作にも成功しました。
 これまでの通常の光スイッチは1ピコジュール(1アトジュールの百万倍)以上のエネルギーを必要としており、フォトニック結晶を用いた光スイッチでも0.1ピコジュール程度のエネルギーが必要とされていましたが、今回NTTの研究所が開発した素子は、消費エネルギーを通常素子と比べて1000分の1以下、これまでのフォトニック結晶型素子と比べても200分の1以下に低減し、アトジュール領域でのスイッチ動作を達成しています。
 毎秒10ギガビット(100億回)で動作するスイッチを1チップ上に1万個集積することを考えると、消費エネルギーが1ピコジュールであれば、1万個集積した場合消費パワーが100ワットにもなってしまいますが、本素子の場合では、1万個集積しても100ミリワット以下で済みます。サイズだけでなく消費エネルギーの観点からも大規模集積化に向いていることがわかります(図34)。
 マイクロプロセッサチップの中に光情報処理ネットワークを導入するためには、高速動作する光素子を1チップの中に多数個集積することが必要となりますが、その目的のためには単体素子のサイズと動作エネルギーが鍵となります。今回開発した光スイッチは、高速動作を保ったまま小型化と低エネルギー化を同時に達成しており、本格的なチップ内光集積の可能性を切り開くものです。


【今後の展開】
 今後光共振器をさらに小型化し、光閉じ込め性能を高くすることにより、光スイッチの消費エネルギーをさらに下げることを目指すとともに、光スイッチだけでなく光メモリ、レーザ、受光器といった他の光デバイスの超小型化、低消費エネルギー化を、フォトニック結晶をベースにして進める予定です。それらの技術をもとに、小さなマイクロプロセッサチップの中に様々な機能を持った高速光素子を多数個連結して集積する技術を開発し、消費エネルギーが小さな大容量情報処理チップの実現を目指します。


<論文名>
“Sub-femotojoule all-optical switching using a photonic crystal nanocavity”
(日本語タイトル「フォトニック結晶ナノ共振器によるフェムトジュール以下の全光スイッチング」)


<参考資料>
成果の詳細:実験の概要と補足
図1: フォトニック結晶ナノ共振器による光スイッチの模式図
図2: 開発した素子のスイッチ動作の測定結果
図3: 様々な光スイッチの動作エネルギーとスイッチング時間の関係
図4: 様々な光スイッチの動作エネルギーとサイズの関係


<用語解説>
※1 フォトニック結晶
 屈折率が光の波長と同程度の長さで周期的に変調された構造のことを指し、通常ナノ加工技術でシリコンなどの誘電体を微細加工することによって作製される。フォトニック結晶は光絶縁体として機能するため、通常の物質では不可能な強い光閉じ込めが可能となる。
※2 光スイッチ
 光信号の強度を他の光信号を用いて高速に変調する素子。光を用いた情報処理においてデジタル信号を生成したり、信号を変換したり、遮断、選択する場合に用いられる基本素子。
※3 ジュール
 エネルギーの単位。1ワットの電力を1秒間使用すると1ジュールのエネルギーを消費したことになる。ある動作で1アトジュールのエネルギーを消費する場合、1ワットの電力で同じ動作を1秒間に10の18乗回(1兆の100万倍回)行うことができることを意味する。また、光子1個のエネルギーは0.1アトジュール(1.5ミクロン帯波長の光の場合)であり、光はこれ以上小さなエネルギーには分割できない。
※4 トレードオフ
 複数の条件を同時に満たして、望ましい状態を作りだすことができないような関係
※5 光共振器・光ナノ共振器
 光共振器とは、光を空間的に閉じ込める機能を持つ素子。通常は反射鏡で囲んで構成する。共振器を小型化しようとすると通常の反射鏡は使えなくなるため小型化は一般に困難を伴う。従来、波長の10倍から100倍程度の小型の光共振器は光マイクロ共振器と呼ばれていたが、閉じ込め体積が光の波長と同程度になると光ナノ共振器と呼ばれている。
※6 ビットレート
 1秒間に送受信できるデータ量(ビット数)を表す表現。
※7 FTTH
 “Fiber To The Home”の略。個人宅まで光ファイバを引き込む情報通信網技術。
※8 Q値
 共振器の閉じ込めの強さを表す指標。中心周波数を共振幅で割った量、または閉じ込め時間と中心周波数を掛けた量で求めることができる。



<お問い合わせ先>
日本電信電話株式会社 NTT先端技術総合研究所
企画部 広報担当 飯塚 公徳(イイヅカ キミノリ)
Tel:046-240-5157
http://www.ntt.co.jp/sclab/contact.html

<JSTの事業に関すること>
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長田 直樹(ナガタ ナオキ)
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E-mail:crest@jst.go.jp

<JST報道担当>
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