News Release

2010年5月7日


世界初、1 Gbit/s超のマルチユーザMIMO伝送に成功
〜次世代無線LAN(IEEE 802.11ac)を用いたホームネットワークの実現に向けて〜


 日本電信電話株式会社(以下、NTT 東京都千代田区 代表取締役社長:三浦惺)は、将来のホームネットワークの実現に向けて、高精細映像伝送などの高速な処理を必要とする端末から小型携帯端末まで、端末の能力に合わせた高速・大容量通信が可能な無線LANをめざし、同じ無線周波数(以下、チャネル)で複数の端末のアンテナに同時に通信を行える空間分割多元接続通信技術であるマルチユーザMIMO※1(MU-MIMO)を用いた無線伝送装置の開発に取り組んでおり、このたび毎秒1ギガビット(Gbit/s)を超えるデータをリアルタイムに信号処理して伝送することに世界で初めて成功しました。本成果は、IPTVやTV電話などの普及により今後ますます増大するトラヒックの無線伝送を可能にするギガビット無線LANを実現するために、MU-MIMOが有望な技術であることを示すものです。
 今回開発した装置は、2010年5月13日、14日に横浜で開催される「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2010 “WTP2010”」に出展する予定です。


【研究の背景】
 家庭、オフィス、公衆エリアなどで普及が進む無線LANは、高速化と高機能化による進化を遂げ、100 Mbit/sのスループットまで高速化されましたが、有線LANはさらに高速化を遂げ、伝送速度1 Gbit/sのギガビットイーサネットが普及しつつあります。これにともない、同等の伝送速度をもつ無線LANに対するニーズも高まっています。最新の無線LAN(IEEE 802.11.n※2)では、シングルユーザMIMO※3が採用されていますが、シングルユーザMIMOでは小型の携帯端末などアンテナ数の少ない端末とアンテナ数の多い高機能な通信が可能な端末が混在した状態で通信をする場合、親機は受信側の端末のアンテナ数に合わせて伝送速度を決め、それぞれの端末と1端末ずつ通信を行うため、無線LANの親機の能力を十分に活用できず、システムスループット※4が低下してしまうという課題がありました。そのため、アンテナ数の少ないスマートフォンなどのIT端末からアンテナ数の多い高精細TVなどの家電製品まで多種多様な端末を無線によりネットワーク化し、それぞれの端末と同時に通信可能にすることで親機の能力を最大限に活用できる技術の開発が求められていました。NTTの未来ねっと研究所(以下、NTTの研究所)では、2008年から1 Gbit/s以上のシステムスループットを目標にIEEE 802.11ac※5の標準化活動に参加し、空間分割多元接続通信が行えるMU-MIMO技術の研究開発に取組んでいます(図1)。


【技術のポイント】
 MU-MIMO技術では、各端末のアンテナに自端末宛てのデータのみが到来するように親機が電波の方向性を制御する技術であるビームフォーミング制御※6を高精度に行う必要があります。これまでは、多くの信号処理を高精度にリアルタイムでビームフォーミング制御することが困難でしたが、NTTの研究所では、ビームフォーミング制御の方法としてゼロフォーシング※7型アルゴリズムを採用し本アルゴリズムの動作を同一処理の繰り返しにより行う逐次更新型演算技術を考案することで、ビームフォーミング制御を効率的に行うことが可能になり、FPGA※8による実装を可能としました。また、ビームフォーミング制御を行うために必要となる端末の通信状態の情報(以下、チャネル推定情報)を端末から親機へ送る際、基準値と端末の通信状態の差分情報のみを送る情報圧縮技術を考案することで、オーバヘッド時間※9の短縮も実現しました。これらの結果、最大6台の端末をそれぞれのアンテナ数に応じた最適な状態で同時に通信させることができ、合計で最大伝送速度1.62 Gbit/sのリアルタイム無線伝送を実現しました。(図2


【今後の展開】
 多種多様な端末を家庭内のどこからでも配線に制約されずにネットワーク化する、システムスループット1 Gbit/s以上の次世代無線LANの実用化に向けて、IEEE 802.11acの標準化活動(2012年12月完了予定)を推進するとともに、標準化の検討項目のひとつである、マンションなど無線LAN親機が高密度に設置される環境で必要とされる干渉制御技術などの研究開発を進めていきます。


【用語解説】
※1  マルチユーザMIMO:
複数の端末宛てのデータを、ビームフォーミング技術により電波の指向性を制御し、同一時刻に同一チャネル上で互いに干渉することなく送信し、高い周波数利用効率を実現するワイヤレスブロードバンドのための注目技術です。
親機送信側のビームフォーミング制御により、各端末の受信機に他端末宛の無線信号が漏れ込まず、受信側での信号分離処理が不要であることが特徴です。

※2

IEEE 802.11n:
IEEE 802委員会において無線LANの標準化を行うIEEE 802.11ワーキンググループのタスクグループ n(TGn)にて、100 Mbit/s以上のスループットを目標に標準化作業が行われ、2009年9月に制定された無線LAN規格です。周波数は2.4 GHz帯または5 GHz帯を用います。

※3

シングルユーザMIMO:
1台の端末宛てのデータを複数のアンテナから同一時刻に同一チャネル上で並行して送信し、受信側で各アンテナからの信号を分離する技術です。

※4

システムスループット:
無線LAN親機あたりのスループットのことで、親機が複数の端末と通信する場合は、各端末あたりのスループットの合計になります。なお、スループットとはデータリンク層の媒体アクセス制御(MAC)副層における通信速度のことであり、一方、伝送速度とは物理層における通信速度のことです。スループットは伝送速度に比べてユーザの体感速度に近い値になります。

※5

IEEE 802.11ac:
IEEE802委員会において無線LANの標準化を行うIEEE 802.11ワーキンググループのタスクグループ ac(TGac)にて標準化作業中の次世代無線LAN規格です。1 Gbit/s以上のシステムスループット、端末あたり500 Mbit/s以上のスループットを目標としています。周波数は5 GHz帯を用います。

※6

ビームフォーミング制御:
複数のアンテナをもつ送信局が、各アンテナから送信する無線信号の振幅や位相を調整し、受信局での無線信号の品質を最大化する技術です。送信局は、事前に、送受信局間の無線伝送路の情報をチャネル推定情報として知る必要があります。

※7

ゼロフォーシング:
ビームフォーミングの方式の一つです。送受信局間のチャネル推定情報から伝達関数行列を求め、その逆行列を送信信号に乗算して送信することにより、空間多重されている複数端末の受信信号間で互いに干渉を発生させない方式です。

※8

FPGA(Field Programmable Gate Array):
プログラム可能な集積回路のことです。マイクロプロセッサや集積回路の設計図を読み込ませて動作をシミュレーションすることができます。

※9

オーバヘッド時間:
データを送信する前に行う制御に要する時間です。



図1 マルチユーザMIMO技術
図2 マルチユーザMIMO無線伝送装置



<本件に関する問い合わせ先>
NTT先端技術総合研究所
企画部 広報担当
TEL:046-240-5157
http://www.ntt.co.jp/sclab/contact


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