News Release

2010年7月30日


フォトニック結晶技術を利用した半導体レーザで
消費エネルギーの世界最小化を実現
〜マイクロプロセッサチップへの光ネットワーク技術導入に一歩前進〜


 日本電信電話株式会社(以下NTT、東京都千代田区、代表取締役社長:三浦惺)は、埋込ヘテロ構造※1を持つフォトニック結晶※2を用いることにより、世界最小エネルギー(1 bitあたり13フェムトジュール※3:フェムトは1000兆分の1)で情報伝送可能な半導体レーザ※4を開発しました。
 これは、光とキャリア※5を活性層と呼ばれるフォトニック結晶中の微小領域(0.18立方ミクロン)に強く閉じ込めることで、高速かつ極低消費電力での動作を実現したものです。
 このような極低消費エネルギーで動作する半導体レーザを多数用いた光ネットワーク回路を、サーバやルータなど多数の情報処理機器に用いられるマイクロプロセッサ※6の内部に用いることにより情報処理機器の大幅な低消費エネルギー化が期待されます。
 本成果は、2010年8月1日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン速報版で公開されます。
 また、本成果の一部は、NICTの委託研究「全光パケットルータ実現のための光RAMサブシステムの研究開発」によるものです。


【研究の背景と経緯】
 近年インターネットが爆発的に普及し、情報処理容量が増大するとともに、データセンタなどで情報処理を担うサーバ、ルータなどの機器の電力消費量や発熱量は、飛躍的に増大しています。NTTの研究所では、これらの機器の消費電力と発熱の問題を抜本的に解決できるマイクロプロセッサチップ内の光ネットワーク回路化(図1)の実現を目指してフォトニック結晶を用いた光信号の伝送技術の研究に取組んでいます。これまでは、フォトニック結晶構造を用いた光共振器※7内の微小領域にキャリアを高効率で閉じ込めることは難しく、高速で低消費エネルギーな情報伝送を行えるレーザの実現において大きな課題となっていました。


【今回の成果】
 NTTの研究所は、In Ga As P(インジウム、ガリウム、ヒ素、リン)を素材とした体積(4×0.3×0.15 μm3)の活性層を持つ埋込ヘテロ構造フォトニック結晶共振器(図2)を作製し、活性層に光を照射して活性層内部にキャリアを生成し、レーザを発振させることで信号を伝達するという情報伝達のプロセスを世界で初めて1 bitあたり13フェムトジュールという極低消費エネルギーで実現しました(図3)。本技術は、これまで最も消費エネルギーの低かった面発光レーザ※8と比較して約20分の1のエネルギーでの情報伝達を可能にし、光を閉じ込めるための活性層の体積を約10分の1まで微小化(図4)したことにより、従来よりも強く光を閉じ込めることができ、高速動作を保ったまま小型化と低消費エネルギー化を実現しました。これは今後のマイクロプロセッサ内光ネットワーク回路化の実現に有望な技術として期待されるものです。


【今後の展開】
 今回開発した半導体レーザでは、活性層への光の照射により情報伝達を極低消費エネルギーでおこなうことが可能になりましたが、現在、情報処理機器に用いられているマイクロプロセッサチップにフォトニックネットワークチップを導入するにはCMOS※9を用いたマイクロプロセッサから送られる電流でフォトニック結晶レーザを駆動し情報伝達させることが必要となります。このため今後は、電気信号から光を作り出す電流注入型レーザの開発を目指します。また、光共振器をさらに小型化し、光閉じ込め性能を高くすることにより、消費エネルギーを一層低減するとともに、小さなマイクロプロセッサチップの中に様々な機能を持った高速光素子を多数個連結して集積する技術を開発することで、現在用いられている情報処理チップと比較して消費電力が10分の1程度に削減可能な大容量情報処理チップの実現を目指します。


<論文名>
  “High-speed ultracompact buried heterostructure photonic-crystal laser with 13 fJ of energy consumed per bit transmitted”
 (日本語タイトル「13フェムトジュールで1ビット伝送できる高速変調埋込ヘテロ構造フォトニック結晶レーザ」)


<用語解説>

※1 埋込ヘテロ構造
基板と水平方向に光とキャリアを閉じ込めるヘテロ構造(バンドギャップの異なる層が接した構造)を作製するために成長したレーザ活性層のうち不要な部分をエッチングにより除去し、その後、埋込再成長により活性層の側面に活性層よりバンドギャップの大きな異なる層(ヘテロ構造)を成長させた構造のこと。

※2 フォトニック結晶
屈折率が光の波長と同程度の長さで周期的に変調された構造のことを指し、通常ナノ加工技術でシリコンなどの誘電体を微細加工することによって作製される。フォトニック結晶は光絶縁体として機能するため、通常の物質では不可能な強い光閉じ込めが可能となる。

※3 ジュール
エネルギーの単位。1ワットの電力を1秒間使用すると1ジュールのエネルギーを消費したことになる。ある動作で1フェムトジュールのエネルギーを消費する場合、1ワットの電力で同じ動作を1秒間に10の15乗回行うことができることを意味する。

※4 半導体レーザ
世界初のレーザは50年前にメイマンがルビーを用いて実現している。半導体レーザはルビーの代わりに半導体の再結合発光を利用したレーザで、電流注入量の変化により出力光強度が変化するため、電気信号を光信号に変換する事ができる。

※5 キャリア(トレードオフ)
光励起や電流注入により生成された電子や正孔のこと。電子と正孔が再結合する際に光が放出される。

※6 マイクロプロセッサ
コンピュータなどに搭載される、プロセッサを集積回路で実装したものである。コンピュータのCPUの他、ビデオカード上のGPUなどに使われている。

※7 光共振器・光ナノ共振器
光共振器とは、光を空間的に閉じ込める機能を持つ素子。通常は反射鏡で囲んで構成する。共振器を小型化しようとすると通常の反射鏡は使えなくなるため小型化は一般に困難を伴う。従来、波長の10倍から100倍程度の小型の光共振器は光マイクロ共振器と呼ばれていたが、閉じ込め体積が光の波長と同程度になると光ナノ共振器と呼ばれている。

※8 面発光レーザ
基板面に対し、垂直に光を放出する半導体レーザで、光が基板の水平方向に出る通常の半導体レーザー(端面型)に比べ、小型で低消費電力、量産性に優れている。

※9 CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)
低消費電力性に優れた、大規模集積回路を構成する最も基本的なトランジスタ構造のこと。


<参考資料>技術の詳細



図1:マイクロプロセッサ上光ネットワークチップの概念図
図2:開発した埋込ヘテロ構造フォトニック結晶レーザの電子顕微鏡像
図3:レーザの静特性と動特性
図4:様々な半導体レーザの活性層サイズと消費エネルギーの関係



<本件の問い合わせ先>
日本電信電話株式会社
NTT先端技術総合研究所
企画部 広報担当
Tel: 046-240-5157


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