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NTT持株会社ニュースリリース

(ニュースリリース)

2011年5月30日

日本電信電話株式会社
国立大学法人東北大学

半導体中の電子スピンの向きを超音波により制御することに成功
〜半導体スピントロニクス素子の実現に一歩前進〜

 日本電信電話株式会社(以下 NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺)と国立大学法人東北大学(以下 東北大学、宮城県仙台市、総長:井上 明久)は、半導体中の電子スピン※1の複雑な運動を計測する方法を開発し、電子スピンの向きを超音波によって制御する実験に世界で初めて成功しました。
 本研究成果は、半導体中のスピンを情報処理に利用する上で課題とされていた、スピンの向きが揃った状態を保持したまま動きを制御する技術を提供することにより、半導体スピントロニクス※2の研究を加速し、超低消費電力化が期待されるスピントランジスタ※3や、超高速な情報処理を可能にする量子コンピュータ※4などへの応用につながると期待されます。
 なお、本研究成果は、ドイツのポール・ドルーデ固体エレクトロニクス研究所と連携して得られたもので、米国の物理学誌「Physical Review Letters」※5の2011年5月26日(日本時間27日)発行の電子版に掲載されました。
 本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会(東京都千代田区、理事長:小野元之)科学研究費補助金の助成を受けて行われました。

研究の背景と経緯

 半導体中の電子は、「電荷」と「スピン」の2つの性質を持っていますが(図1)、従来の半導体デバイスでは電気的に制御しやすい電荷の性質のみしか利用されていませんでした。しかし近年、電荷とスピンの両方の性質を活用しようとする、半導体スピントロニクスの研究が世界中で進められています。
 半導体中のスピンを情報処理に利用するためには、スピンの向きが揃った状態で電子を移動させるとともに、スピンの向きを自由に操作する必要があります。しかし、一般的に半導体中のスピンの向きはランダムになりやすいことが知られており、スピンが揃った状態を乱す要因を排除し、かつスピンの向きを制御できる技術の確立が課題とされていました。これまでNTTでは、移動している電子が自身のスピンと互いに影響しあうことで生じる「スピン軌道相互作用」(図2)と呼ばれる物理効果を利用した、新しいスピン制御手法について研究してきました。

研究の成果

 スピン軌道相互作用は、移動している電子に対してあたかも磁場が存在するように影響し、スピンはその見かけ上の磁場(有効磁場)の回りを回転します。その際、回転速度はスピン軌道相互作用の大きさに比例します。したがって、スピン軌道相互作用の大きさを自由に変えられれば、外部磁場を用いずに電子スピンの向きを操作できることになります。
 今回NTTでは、このスピン軌道相互作用のメカニズムを解明するために、超音波を用いて移動させた際に回転運動するスピンの分布を図示化する新しい測定手法を開発しました。さらに、スピンをいくつかの異なる方向に移動させた場合や超音波強度を変えた場合のスピンの回転速度の違いを分析することで、超音波によって生じる歪みや電場が、スピン軌道相互作用の大きさを決める一因となっていることを実証しました(図3)。これまでのスピン軌道相互作用は、母体材料及び外部から加えた電場で作用していたものが主でしたが、今回明らかにした超音波がもたらす新しいタイプのスピン軌道相互作用を用いれば、超音波の強度を調節することにより、スピンの向きを自在に操作することが可能となります。

技術のポイント

(1)超音波(表面弾性波※6)を用いた電子スピンの輸送(図4)
半導体量子井戸※7構造に超音波を伝播させると、超音波に乗せて電子を移動させることができます。この方法を用いると、スピンが揃った状態を極めて長い時間保つことができます。
(2)走査型カー効果※8測定法を用いたスピン計測(図5)
超音波によって2次元平面内を移動するスピンを高感度で計測するために、走査型カー効果測定法という方法を開発しました。この方法を用いると、スピンが移動しながら回転する様子を明瞭に観測することができます。

今後の展開

 今後、スピン軌道相互作用をより効率的に変化させることのできる材料や構造の探索や、超音波の波長の微細化に取り組むとともに、量子的振舞いが顕著となる「単一スピン」を制御する技術の確立に向けた研究も進め、将来的に量子コンピュータの要素技術に応用することを目指します。

論文名

Acoustically induced spin-orbit interactions revealed by two-dimensional imaging of spin transport in GaAs

GaAsにおけるスピン輸送の2次元イメージングによって明らかにされる音響誘起スピン軌道相互作用

用語解説

※1電子スピン
 電子は負の電荷を帯びた粒子であると共に、小さな磁石としての性質をもつ。この磁石としての性質を、古典的な球の自転になぞらえて「スピン」と呼ぶ。スピンは量子力学的な状態であり、3次元空間内のベクトルで表現される。
※2半導体スピントロニクス
 電子が持つ「電荷」と「スピン」の2つの性質を利用することにより、従来に無い全く新しい機能を持つ素材や素子の開発を目指す研究分野。
※3スピントランジスタ
 1990年に、S.DattaとB.A.Dasによって提案されたスピンを利用したトランジスタ素子。ソースとドレインに強磁性体を使うことで、通常のトランジスタ動作に磁気抵抗素子の機能が付加される。スイッチング機能と情報記憶機能とを併せ持つため、従来のトランジスタより高機能になると期待されている。
※4量子コンピュータ
 量子力学によって支配される物理量を利用した「量子ビット」に様々な演算をさせることにより情報処理を行うコンピュータのこと。演算途中の状態で「重ね合わせ」という量子特有の状態を扱えるため、素因数分解やデータベース検索などにおいては、現状のコンピュータとは桁違いの速さで処理が可能になる。
※5Physical Review Letters
 アメリカ物理学会が発行する物理学の専門誌であり、物理学の全領域において重要となる最新の研究結果が掲載される。
※6表面弾性波
 超音波の一種であり、弾性体の表面近傍に集中して伝播する振動。
※7量子井戸
 電子に対するポテンシャルエネルギーが小さな半導体薄膜(量子井戸層)がポテンシャルエネルギーが高い半導体層(障壁層)によって挟まれた半導体構造。量子井戸層の中には電子を効率的に閉じ込めることができる。
※8カー効果
 ここでは磁気光学カー効果のこと。直線偏光を磁化した(スピンの偏った)材料の表面に入射した際に、反射光の偏光軸が、もとの偏光軸に比べて回転する効果。ここでは、カー回転角は電子スピンの面直成分の大きさに比例する。
別紙・参考資料
図1 半導体中の電子の性質 
図2 スピン軌道相互作用とは 
図3 超音波によるスピン制御実験の結果 
図4 超音波(表面弾性波)を用いた電子スピンの輸送 
図5 走査型カー効果測定法を用いたスピン計測 

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
TEL 046-240-5157

国立大学法人東北大学

工学研究科情報広報室
TEL 022-795-5898(直通)

ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。

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