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NTT持株会社ニュースリリース

(報道発表資料)

2011年10月12日
日本電信電話株式会社
国立大学法人大阪大学
大学共同利用法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所

量子メモリーの原理実験に成功
− ダイヤモンドと超伝導量子ビット※1を直接組み合わせた
ハイブリッド系の量子状態制御に世界で初めて成功 −

 日本電信電話株式会社(以下、NTT、東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺)と国立大学法人大阪大学(以下、大阪大学、大阪府吹田市、総長:平野 俊夫)、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(以下、NII、東京都千代田区、所長:坂内 正夫)は、超伝導人工原子(以下、超伝導量子ビット)とダイヤモンド結晶中のスピン集団(窒素不純物と空孔とから成るNV中心※2数千万個)を組み合わせたハイブリッド系を作り、エネルギー量子1個を交換する量子もつれ※3振動をコヒーレント※4に制御することに世界で初めて成功しました。
 これは、超伝導量子ビットの重ね合わせ状態※5をダイヤモンド結晶中のNVスピン集団へ保存した後に再び読み出せることを意味しており、量子通信や量子情報処理に欠く事のできない、任意の量子状態を保存可能な量子メモリー※6の実現にとって、ダイヤモンドが極めて有望な候補であることを実証したものです。
 本研究成果は、英国科学誌 Nature(ネイチャー)に10月13日号に掲載されます。

 本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)「超伝導人工原子を用いた量子メモリーの研究」、文科省新学術研究領域 量子サイバネティクス「単一NV中心における多量子ビット化へ向けた研究」、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「ワイドギャップ半導体中の単一常磁性発光中心による量子情報素子」、内閣府最先端研究開発支援プログラムFIRST「量子情報処理プロジェクト」の支援を受けて行われました。

研究の背景及び役割分担

 量子コンピュータ※7の構成要素である量子ビットの候補として、人工原子の一種である超伝導量子ビットや、原子や電子スピンといった天然原子の量子ビットの研究が盛んに進められています。
 超伝導量子ビットではマイクロ波光子あるいは素子間での強い結合を比較的容易に実現でき、高速な量子演算が可能なものの、コヒーレンス時間※8と呼ばれる量子性を保てる寿命が短いという問題がありました。一方、天然原子の量子ビットは、コヒーレンス時間は長いものの、それ自体が非常に小さいため、個々の原子や電子スピンへ情報を書き込んだり、取り出す操作が難しいという欠点がありました。
 NTT、大阪大学、NIIでは、超伝導量子ビットと天然原子の量子ビットを組み合わせたハイブリッド系の量子状態を使えば、互いの長所を活かした制御が簡易であり長寿命な量子プロセッサ※9が得られる可能性があると考え、研究を進めてきました。
 NTTは超伝導量子ビット状態を高精度に制御・観測する最先端の実験技術、大阪大学はダイヤモンド結晶中のNV中心を生成・観測する優れた技術、また、NIIは優れた理論解析を行う技術と能力を持っています。理論を担当したNII根本香絵教授は、従来よりNTTとの共同研究者であり、これら3つの研究グループ間で相補的な共同研究を行い、本成果を得ることができました。

  1. <1>ダイヤモンドNV中心の生成・光学測定:大阪大学・NTT
  2. <2>ダイヤモンドと超伝導量子ビットを組み合わせたハイブリッド系の量子状態制御:NTT
  3. <3>実験結果に対する理論解析:NII・NTT

 なお、今回の共同研究は、NTTの研究所の仙場浩一主幹研究員のグループと大阪大学の水落憲和准教授が、FIRST「量子情報処理プロジェクト」の研究会※10でダイヤモンド量子メモリーについて議論をしたことがきっかけで急展開しました。

研究の成果

 ダイヤモンド結晶中の窒素不純物と空孔が作るNV中心(図1-左)の約3千万個のスピン集団と超伝導量子ビット(図2)を組み合わせてハイブリッド系の量子状態(図3)を作り、2つの異なる巨視的な物質間に量子もつれ状態を生成することに世界で初めて成功しました。
 今回の研究成果を応用することにより、操作性に優れる反面非常に壊れやすい超伝導量子ビットの量子状態を、NV中心ダイヤモンドのスピン状態に保存することが可能になります。長時間安定した量子メモリーは、超伝導量子ビットで高速「量子プロセッサ」を作る要の技術の一つであるため、今回の結果は量子情報処理の実現へ向けた道を拓くものです。
 また、超伝導量子ビットとスピン集団のハイブリッド系を用いた量子もつれ生成の成功(図5)により、これまでマイクロ波長帯と光学通信波長帯間での量子的な情報のやり取りは不可能でしたが、波長の大きく離れた光(図1-右)信号間で量子的な情報のやり取りの橋渡しを行う量子ネットワークの基本素子開発へ大きな一歩を踏み出した重要な成果であると考えられます。

今後の展開

 今回の研究成果を発展させることにより、ダイヤモンド中のスピンを量子メモリーとし、超伝導量子ビットを量子演算用素子としたハイブリッド型の量子プロセッサへの応用や、波長の大きく離れた光信号間で量子的な情報のやり取りの橋渡しを行う量子周波数変換素子の研究開発を進めます。
 これらの素子は、より遠距離まで到達可能な量子ネットワーク実現の要となる素子であり、その実現に向けた研究開発に取り組みます。

論文名

Coherent coupling of a superconducting flux-qubit to an electron spin ensemble in diamond
超伝導磁束量子ビットとダイヤモンド中の電子スピン集団とのコヒーレントな結合

技術のポイント

(1)ダイヤモンドのNV中心は、零磁場で基底状態が周波数で数GHz分裂している
(マイクロ波帯と光学波長帯の二種類のエネルギー準位が共存する系:量子周波数変換機の候補)
 図1 左図 に示す ダイヤモンド結晶中の複合欠陥の一種であるNV中心に捕捉された電子は、付近のダイヤモンド格子が歪んでおり、図1 右図に示すエネルギー準位模式図のように、零磁場でも基底状態が約2.88GHz分裂していて、超伝導量子ビットのエネルギー分裂に近いため両者を共鳴させるには非常に好都合です。また、希薄なNV中心電子スピン試料を用いた実験では、室温でミリ秒以上のコヒーレンス時間をもつという特筆すべき特性を有しています。ダイヤモンドNV中心は、マイクロ波帯(数GHz)、光学波長帯(サブPHz)二種類の大きく異なるエネルギー準位を兼ね備えており、超伝導量子ビットが扱うマイクロ波帯の量子コヒーレンスと光学通信波長帯の量子コヒーレンス間を自在に周波数変換する素子を実現できる可能性があり、注目されています。
(2)新規に開発した、可変周波数超伝導量子ビットの利用
 ダイヤモンドと組み合わせる量子ビットとしては、サファイア基板上に作成した可変周波数超伝導磁束量子ビット(トンネルエネルギー可変型磁束量子ビット)を用いました。この素子の特徴と特性を 図2 に示します。この素子は、コヒーレンス時間の観点から最も有利でノイズに強い最適動作点付近に量子ビットを留めたまま、量子ビットの寿命に比べて極めて短かいナノ秒(10億分の1秒)未満の時間で素早く量子ビットのエネルギー準位間隔(共鳴周波数)を変えることができます。
(3)超伝導量子ビットとダイヤモンドのNV中心の集団を強く結合させることに成功
 伝送線路共振器と比較すると、ダイヤモンドのNV中心の個々のスピンと約3桁強く結合すると期待される微小ループ構造の超伝導磁束量子ビットを用いたことにより、大凡 1000 倍の結合エネルギーを実現しました。図4に示すように、超伝導磁束量子ビットの直上約1マイクロメートルにNVスピン集団を含むダイヤモンド結晶を固定したハイブリッド系のスペクトル測定からは、両者の結合を示す明瞭な反交差が観測され、NVスピン集団との結合の強さは 周波数にして約 70 MHzでした(図5)。図6に示すように、マイクロ波領域のエネルギー量子1個を超伝導磁束量子ビットと約3千万個という巨視的数のNVスピン集団とでコヒーレントに交換する真空ラビ振動の観測にも成功しました。その周期の観測からも、二者間の強結合を裏付けるデータが得られています。超伝導系とダイヤモンドNVスピン間でのもつれ振動の観測は従来報告がなく、1個の人工量子系と3千万個の巨視的数のスピン集団間での量子もつれ振動の観測に成功したのも世界初の成果です。

用語解説

※1超伝導量子ビット:
 超伝導体を用いて作製された量子二準位系。ここでは、図2右図中央に示す超伝導磁束量子ビットを指す。実際には、ナノメートルオーダの極薄絶縁体をサンドイッチした構造のジョセフソン接合と呼ばれる素子を複数個含んだ超伝導電気回路。ループを貫く磁束を変化させることで、大凡、数GHz程度の範囲で量子二準位のエネルギー分裂の大きさを制御できる。エネルギー分裂が数GHz程度の超伝導量子ビットの場合には、動作温度として、大凡0.1Kより低温が必要となる。
※2NV中心(NVセンター):
 図1 左図 に示す ダイヤモンド結晶中の複合欠陥の一種。不純物原子である 窒素(N:nitrogen)と空孔(V:vacancy)が隣り合った格子点に存在する場合、この複合欠陥のカラーセンターをNV中心またはNVセンターと呼ぶ。NVセンターに捉えられた電子のエネルギー準位は、付近のダイヤモンド格子の歪みから、図1右図のように零磁場でも基底状態が約2.88GHz分裂しており、超伝導量子ビットのエネルギー分裂に近いため、NVセンターと超伝導量子ビットを共鳴させるには非常に好都合である。
 また、室温でミリ秒以上のコヒーレンス時間をもつという特筆すべき特性を有しており、希薄なNV中心における実験では、核スピン及び電子スピンを用いて、2〜3量子ビットでの量子もつれ状態の生成が、室温で実現されている。
※3量子もつれ(entanglement:エンタングルメント):
 複数の粒子間に量子力学的な相関がある状態。量子もつれ状態にある2つの光子(電子、量子ビットなど)では、片方の状態が決まるともう一方の状態もそれに応じて決まり、その関係は粒子間の距離に依存しないといった特異的な性質である。量子暗号、量子計算の実現に欠かせない量子状態間の存在様式であり、現在では積極的に活用可能なリソースである。
※4コヒーレント(コヒーレンス):
 コヒーレンスは互いに干渉することができる波動の性質(可干渉性)を示す用語で、ここでの「コヒーレント」は、状態の重ね合わせや、もつれ(エンタングルメント)など「量子力学的な可干渉性を有する」という意味で使われています。
※5重ね合わせ状態:
 素粒子や原子など量子力学で記述される対象は、異なる2つ以上の様々な「重なり合った状態」で存在しえる。例えば、有名なヤングの二重スリットの実験では、たった1個の光子でも、どちらのスリットを通過したかを判別する測定をしなければ、同時に2つのスリットを通過したと解釈せざるを得ない振る舞いをする(同一初期状態からの多数回の測定の結果としての干渉縞の観測など)。
 超伝導人工原子は、数マイクロメートルの大きさをもつ超伝導体で作られた環状の電気回路であるが、この回路を流れる電流の状態は、マクロな数の電子(クーパー対)の集団であるにも係わらず、全電流が時計廻りに流れる状態と、全電流が反時計廻りに流れる状態とが任意の割合で「重なり合った状態」が存在可能なことが実験的に確かめられている。2003年に発見されたこの驚くべき性質は、巨視的量子コヒーレンスと呼ばれ、超伝導人工原子が量子ビット候補(超伝導量子ビット)となりえる根拠となっている。
※6量子メモリー:
 任意の量子状態を一定時間「保存」する素子。現在のコンピュータで用いられているメモリーは、0あるいは1いずれか一方のみの状態を保存・記憶する素子であるが、量子メモリーには、0と1異なる2つの状態の任意の重ね合わせ状態をそのまま保存する能力が求められる。
※7量子コンピュータ:
 量子力学的なリソースである「量子ビット」にさまざまな演算操作を行なうことにより、量子情報処理を行うコンピュータのこと。演算途中の状態で「重ね合わせ」や「量子もつれ」という量子力学特有の状態を使うことが可能なため、現状のコンピュータが苦手とする素因数分解やデータ検索などを桁違いの速さで実行できると考えられている。
※8コヒーレンス時間:
 量子状態が可干渉性を保持できる時間を表わす1つの指標。一般にコヒーレンスは外部由来のノイズによって時間と共に指数関数的に減少することが知られていますが、「コヒーレンス時間」は、量子系の状態の重ね合わせや、もつれ(エンタングルメント)など量子力学的な特徴が可干渉性を保持できる時間の目安として使われます。
※9量子プロセッサ(量子演算素子):
 量子2準位系(量子ビット)の組合せから成る量子演算可能素子。量子コンピュータの基本要素。現在、量子ビットとして研究されているものには、超伝導微小接合回路のほか、イオン・原子、核スピン、光子、半導体ナノ構造などがある。
※10FIRST「量子情報処理プロジェクト」の研究会:
 最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)は、世界のトップを目指した先端的研究を推進することにより、産業、安全保障等の分野における我が国の中長期的な国際的競争力、底力の強化を図るとともに、研究開発成果の国民及び社会への確かな還元を図ることを目的として、平成21年度補正予算において国が創設した「研究者最優先」の研究支援制度です。全国から565件(うち大学関係は428件)の応募があり30件が採択されました。その1件である「量子情報処理プロジェクト」は、山本喜久教授(スタンフォード大学、NII)を中心研究者とする研究プロジェクトで、量子力学の中心的概念である量子もつれを用いて、計測、標準、通信、情報処理技術の4つの分野で欧米を中心としたこの分野の従来の手法に対し、我が国の独創的なアプローチに基づいて研究開発を行い、5年後にこの分野で世界をリードする潮流を形成することを目指しています。ここでの研究会は、昨年12月に開催された FIRST「量子情報処理プロジェクト」全体会議 2010 を指します。
 FIRST「量子情報処理プロジェクト」ホームページ http://first-quantum.net/index.html 
別紙・参考資料
参考図

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
a-info@lab.ntt.co.jp
Tel:046-240-5157

国立大学法人大阪大学

大学院基礎工学研究科 庶務係
ki-syomu@office.osaka-u.ac.jp
Tel:06-6850-6131

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構

国立情報学研究所
企画推進本部 広報普及チーム
kouhou@nii.ac.jp
Tel:03-4212-2131

ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。

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