(ニュースリリース)
2012年1月26日
日本電信電話株式会社
独立行政法人科学技術振興機構
日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺、以下 NTT)と独立行政法人科学技術振興機構(埼玉県川口市、理事長:中村 道治、以下 JST)は、自然界の基本粒子※1(フェルミ粒子、ボーズ粒子)とは異なる非アーベリアン準粒子※2の存在が期待される電子状態を世界で初めて解明しました。
本成果は、5/2分数量子ホール状態※3(以下 5/2状態)という非常に純度の高い半導体結晶中においてのみ実現される特殊な電子状態を、NTTとJSTが独自に開発した高感度核磁気共鳴(NMR)法※4により測定することで得られました。
今後、準粒子の実証実験を行い、エラー発生率が非常に低い新しい手法の量子計算(トポロジカル量子計算※5)の応用を検討します。
なお、本成果は米国時間2012年1月26日(日本時間1月27日未明)に米国科学雑誌「Science」のオンライン速報版(Science Express)で公開されます。
量子コンピュータは従来のコンピュータをはるかにしのぐ計算能力を有すると期待されていますが、計算の規模が大きくなると外部擾乱や論理ゲートの精度不足によるエラー発生や、そのためのエラー補正が重要な課題となります。そのような問題を根本的に解決する方策として、エラー発生率が非常に低くなると期待されるトポロジカル量子計算(図1)という新しいアイデアが提案され、興味を集めていますが、それが現実のものとなるためには、自然界の基本粒子とは異なる特異な性質をもった粒子(非アーベリアン準粒子)(図2)が必要です。
5/2状態(図3)という非常に純度の高い半導体結晶中で見られる特殊な電子状態において、非アーベリアン準粒子が存在すると期待されていますが、この状態は従来の理論では説明できないため、そのメカニズムを明らかにすることが課題となっていました。
今回、NTTとJSTの共同研究チームは、独自に開発した高感度抵抗検出NMR法(図4)を用いることで、非常に壊れやすい5/2状態において、電子のスピン状態※6を正確かつ直接的に測定することに成功し、すべてのスピンが同じ向きに揃っていることを明らかにしました。(図5)
5/2状態を説明するために提案されている理論の中で、非アーベリアン準粒子の存在を否定する理論では、上向きと下向きのスピンが同数になるとされていたため、その理論は排除され、実験と一致するのは非アーベリアン準粒子の存在を肯定する理論に絞られました。そのため、5/2状態において非アーベリアン準粒子が存在する可能性が非常に高くなりました。
本成果は、フェルミ粒子でもボーズ粒子でもない非アーベリアン準粒子が現実に存在する可能性を大きく高め、さらにそれを用いた新しい量子計算手法の研究に期待を持たせるものです。
5/2状態を壊さずにそのスピン状態を測定するためには、高純度の半導体結晶と、高感度の測定技術が必要です。今回の成果は、NTTが有する高純度半導体の結晶成長技術と抵抗検出核磁気共鳴(NMR)技術に、さらに改良を加えることで可能となりました。
測定に用いた試料は、砒化ガリウム(GaAs)のヘテロ構造で、NTTの高純度結晶成長技術により、107 cm2/Vs以上の電子移動度を得ています。さらにバックゲートを用いて電子を誘起することで、チャネル下側のドーピングをなくし、不純物ポテンシャルを低減するとともに、広い電子密度範囲にわたって安定したゲート動作を実現しました。これにより、抵抗検出NMR法の高感度化が可能となりました。
GaAsの結晶を構成するGaやAs原子の核スピンと電子スピンの間には弱い相互作用があります。そのため、ある電子状態において上向きスピンと下向きスピンの数に差があると、それが核スピンに対して有効磁場として働き、核スピンの共鳴周波数をわずかに変化させます。NMRではこのシフト(ナイトシフト)を測定することにより、電子スピンの情報を得ることができます。抵抗検出NMRは、核スピンの共鳴を2次元電子の抵抗の変化として検出することにより、基板や他の層に含まれる同種原子の影響を取りのぞき、測定対象である2次元電子と接触している核スピンからの信号のみを選択的に、かつ高感度で検出する方法です。これまでは、核スピンの共鳴によって抵抗が変化する特定の電子状態に適用が限られていました。本研究では、ゲート電圧と高周波磁場を別々に加え、核スピンに対してもっとも敏感な電子状態を信号読み出しに用いることで、5/2状態の高感度測定が可能となりました。
今回の実験では、準粒子の性質を決める電子のスピン状態に着目しました。今後は準粒子の性質に着目し、準粒子の閉じ込めや干渉などの実証実験を通じてトポロジカル量子計算の応用を検討します。
本研究は、NTT(代表研究者:村木康二 NTT物性科学基礎研究所 主幹研究員)とJST(戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「平山核スピンエレクトロニクスプロジェクト」(研究総括:平山祥郎 東北大学教授)物理研究・結晶成長グループ(グループリーダ:村木康二))の共同研究として行われました。
先端技術総合研究所 広報担当
a-info@lab.ntt.co.jp
TEL046-240-5157
イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
金子博之
hkaneko@jst.go.jp
TEL03-3512-3528
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