(ニュースリリース)
2012年2月24日
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦 惺、以下 NTT)は、フォトニック結晶※1と呼ばれる人工構造を用いて、光メモリの消費電力を従来比300分の1以下に低減し、集積チップ化した光ランダムアクセスメモリ※2(以下 光RAMチップ)の動作を世界で初めて実現しました。
今回実現した光RAMチップを用いることで、光データを電気に変換することなく蓄積・転送することが可能となり、将来的にルータなどのネットワーク処理機器(以下、NW機器)の大幅な高速化、低消費電力化が期待されます。
本成果は、2012年2月26日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン速報版で公開されます。
なお、本成果の一部は、独立行政法人情報通信研究機構(本部:東京都小金井市、理事長:宮原 秀夫)の委託研究「全光パケットルータ実現のための光RAMサブシステムの研究開発」によるものです。
近年、FTTHなどのブロードバンドサービスやスマートフォンの爆発的普及に伴い、社会で扱う情報量は、2025年には2006年比較で200倍になると見込まれています。これに伴って、ネットワーク情報を処理するサーバ・ルータなどのNW機器の処理速度が不十分になるとともに、その総消費電力量は2025年には5倍になると予測されています。(図1 )
現在、光ファイバーを用いて伝送される高速な光データは、NW機器で一旦電気に変換された後に電気回路で処理されており、その際の変換電力及び電気回路の処理速度がNW機器の性能を制限しています。そこで、これらNW機器の消費電力及び処理速度の問題を解決するため、機器中の情報処理の光化を目指した研究開発が現在世界中で行われています。
情報処理を光化する上で、従来光化が最も困難だと考えられてきたのはNW機器の中で高速な信号を蓄積・転送するために用いられているRAM(ランダムアクセスメモリ)でした。これまでの光メモリは消費電力が大きすぎ、サイズも大きいため、集積化が困難であったためです。NTTの研究所では、フォトニック結晶と呼ばれる人工構造を用いてこの問題を解決できる可能性に着目し、NW機器の大幅な高速処理化および低消費電力化をめざして、光RAMを実現する研究を続けてきました。
NTTは、まず、フォトニック結晶の強く光を閉じ込める特性を利用して、超低消費電力、超小型の光メモリを実現しました。さらにこの光メモリ(1ビット)を4つ集積したチップを作製し、高速光信号を電気信号に変換することなく高速処理することができる、世界初の光RAMチップを実現しました。(図2 )
用いられた光メモリは、従来の光メモリに比べて消費電力は300分の1しかなく、超小型であるため、大規模な集積化にも適用可能です。この光RAMを用いれば高速な光データを光信号のまま蓄積・転送できるため、広帯域・低消費電力・超小型のルータを実現するキーデバイスとして期待されます。
また、この技術は将来的にはマイクロプロセッサチップ中に集積化することにより、チップ内のネットワーク処理にも適用可能で、高性能で低消費電力のマイクロプロセッサを実現する技術としても有望です。
InP(インジウム、リン)半導体薄膜に周期的な空孔を形成した構造であるフォトニック結晶の中に、InGaAsP(インジウム、ガリウム、ヒ素、リン)を局所的に埋め込み、光ナノ共振器※3とした特殊な構造を用いて超小型の光メモリを作製しました。(図3 )
この素子は、書き込みおよび消去光パルスを入射することによって、オンとオフの二つ光出力状態を切り替えることができる光双安定※4と呼ばれる現象を用いて情報を記憶し、光メモリとして機能します。従来の光ナノ共振器を用いた光メモリは、書き込み光パルスによって生成されるキャリア※5(電子-正孔対)がすぐに共振器の外に逃げてしまい効率が上がりませんでした。また熱が発生することによってメモリされた情報が消えてしまうため、メモリ保持時間が250ナノ秒程度に制限されていました。
今回の素子では、光双安定を起こす効率が高いInGaAsPをInPのフォトニック結晶に埋め込んだ新構造により、下記2つの利点を得る事が可能となり、これまでの光メモリの問題点を解決しました。
NTT研究所は、上記の光メモリを同一半導体基板上に4ビット集積した光RAMチップを作製し、高速な光データ信号に対するRAM動作を確認しました。集積化された多ビット光メモリによるRAM動作は世界で初めての試みです。(図6 )
実験では、ビットレートが毎秒40ギガビットである超高速の4ビット光データ列(1010または1101)を用いてRAM動作を行わせました。4ビットの入力データは、まず高速光シリアル・パラレル変換器※6によって4つの光パルスに分解されて、チップ内の別々の光メモリに書き込まれます。書き込みの500ナノ秒後に、別の読み出し光パルスを入射させることにより、書き込まれた情報を光出力として読み出すことに成功しました。この動作は、毎秒40ギガビット・4ビットの光データがメモリ保持されたことを示しており、各素子をランダムにアクセスしてメモリ動作できることを実証しています。
従来の光メモリは、サイズが大きく消費パワーが大きかったため、大規模に集積したRAMとして用いることは原理的に困難でした。今回実現したRAMはまだ4ビットですが、消費パワーとサイズからは大規模集積化が十分可能です。たとえば1メガビットのRAMを作ったとしても、総消費パワーは30ミリワット程度であり、チップサイズは10平方ミリメートル程度にしかなりません。高速な情報処理に用いることを想定されている光RAMは、10キロビットから1メガビット程度の規模のものが必要だと考えられていますが、今回実現した性能から十分実現可能だと考えられます。
今後、NTTの研究所では今回開発した光RAMチップを高密度化し、集積度を上げていく研究を進め、10キロビットから1メガビット程度規模の光RAMの実現を目指し、将来的にはルータに代表されるNW機器に適用することで、ネットワークの処理速度の高速化および大幅な低消費電力化の達成を目指します。さらに光RAMを組み合わせた高速なネットワーク処理機能をもつ光回路をマイクロプロセッサ内に搭載できれば、プロセッサの演算能力を飛躍的に高められる可能性を持ちます。これらの技術により様々なネットワーク処理を光化し、情報処理技術の広帯域化、低消費電力化の実現を目指します。
先端技術総合研究所 広報担当
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