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NTT持株会社ニュースリリース

平成26年2月7日

東京工業大学
日本電信電話株式会社

朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の観測に成功
〜プラズモン回路の集積化に道〜

概要

 東京工業大学大学院理工学研究科の鎌田大博士研究員と藤澤利正教授、日本電信電話株式会社物性科学基礎研究所の村木康二上席特別研究員らの共同研究グループは、半導体ナノ構造中において、朝永-ラッティンジャー流体(用語1)の励起素過程の観測に世界で初めて成功しました。
 一次元プラズモン回路である量子ホールエッジチャネル(用語2)を複数用いて、人工的な朝永-ラッティンジャー流体を形成し、プラズモン(用語3)波束の反射波の時間分解測定(用語4)を行うことによって観測しました。
 朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の観測は、複数の一次元プラズモン回路の間で信号が伝達されることを示しており、プラズモン集積回路への応用の道を開く成果といえます。
 この成果は英国時間2014年2月9日PM6:00に英国科学雑誌「Nature Nanotechnology(ネイチャーナノテクノロジー)」のオンライン速報版で公開されます。

研究の背景

 テラヘルツ(THz、1THzは1兆Hz)領域は未開拓な電磁波領域であり、情報処理・通信・医療・工業など様々な分野への応用が期待されている。特に、電子の集団運動である「プラズモン」は、電磁波と電気伝導の性質を兼ね備え、テラヘルツ領域の信号をナノメートルサイズの微小領域に閉じ込めることができることより、ギガヘルツ領域で動作する従来の電子デバイス(エレクトロニクス)を超えるプラズモニクス(プラズモンエレクトロニクス)として、超高速の信号処理が可能になると期待されている。
 これまで主に金属表面プラズモンや半導体シートプラズモンなどの二次元プラズモンの研究が盛んに行われてきた。また、強磁場中の二次元電子系で実現する量子ホールエッジチャネルは、ギガヘルツからテラヘルツ領域で減衰の少ない理想的な一次元プラズモン回路として期待されている。しかし、一次元プラズモン回路は、試料端に沿った閉回路をなすため、複数のプラズモン回路の間で信号を伝達する手法は確立されておらず、応用する上で大きな障害となっていた。

研究の経緯

 物性研究によると、双方向に伝播する一次元電子系は、伝播方向が異なる電子間の相互作用によって朝永-ラッティンジャー流体になる。例えば、電極から素電荷(用語5)eの電荷(またはプラズモン)を一次元導体に入れようとすると、電子間相互作用の強さr (0 < r < 1) に依存して、それよりも少ない電荷e* = reの朝永-ラッティンジャー流体しか励起されず、その差分の電荷e - e*のプラズモンが反射される(図1)。朝永-ラッティンジャー流体は、様々な一次元系で実現されると考えられているが、従来の測定手法では、朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程を観測することはできなかった。

図1: 朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の概念図。図1: 朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の概念図。

 一方、一次元プラズモン回路である量子ホールエッジチャネルは、一方向に伝播する一次元伝導チャネルとして物性研究やプラズモニクスへの応用から注目されていた。しかし、異なるチャネル間の相互作用やプラズモン信号の伝達に関する理解は不十分であった。
 本研究では、図2のように、対向する2つの量子ホールエッジチャネルを近接し、人工的な朝永-ラッティンジャー流体を形成することにより、上記の課題を克服した。すなわち、片方の量子ホールエッジチャネルにプラズモン波束を入力すると、朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程に起因して、もう片方の量子ホールエッジチャネルにプラズモンが検出された。これは、励起素過程の観測とともに、プラズモン信号の伝達にも成功したものである。

図2: 量子ホールエッジチャネル用いた人工的な朝永-ラッティンジャー流体の模式図。図2: 量子ホールエッジチャネル用いた人工的な朝永-ラッティンジャー流体の模式図。

研究成果

 同研究グループは、化合物半導体GaAs/AlGaAs(ガリウム砒素・アルミニウムガリウム砒素)積層構造を用いて人工的な朝永-ラッティンジャー流体を形成した。図3のように、半導体積層構造の表面に金属ゲート電極を作製し、強磁場中で形成される量子ホールエッジチャネル(青線)のうち、近接する量子ホールエッジチャネルの対が人工的な朝永-ラッティンジャー流体として振る舞うことを利用した。
 片方の量子ホールエッジチャネルからプラズモン波束を入力すると、境界Lで朝永-ラッティンジャー流体が励起され、もう片方の量子ホールエッジチャネルおいて正の電荷量をもつ余剰のプラズモン波束が検出器に到達する様子が観測された(図4の信号A)。また、朝永-ラッティンジャー流体が境界Rに到達すると、朝永-ラッティンジャー流体は消滅し、負の電荷量をもつ余剰のプラズモン波束が検出器に到達する様子が観測された(図4の信号B)。このように、プラズモンの時間分解測定により、朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の観測に成功した。

図3: 実験に用いた試料の光学顕微鏡写真(左)とこの試料で形成した人工的な朝永-ラッティンジャー流体領域の模式図(右)。矢印付きの青線は、量子ホールエッジチャネルを表し、矢印の向きは本来の電子の伝播方向を表す。図3: 実験に用いた試料の光学顕微鏡写真(左)とこの試料で形成した人工的な朝永-ラッティンジャー流体領域の模式図(右)。矢印付きの青線は、量子ホールエッジチャネルを表し、矢印の向きは本来の電子の伝播方向を表す。

研究成果に至った技術的ポイント

 本研究は、日本電信電話株式会社の有する高品質な化合物半導体積層構造と、東京工業大学の有するプラズモン測定技術を組み合わせることにより行われた。

(1)人工的朝永-ラッティンジャー流体の形成

 一次元プラズモン回路である量子ホールエッジチャネルは、減衰の少ない理想的な一次元一方向伝導チャネルである。2つの対向する量子ホールエッジチャネルをゲート電極で隔てて近接させることにより、朝永-ラッティンジャー流体を示す領域と通常のプラズモン回路を示す領域を形成することに成功した。

(2)プラズモンの時間分解測定技術

 本研究では、プラズモンの時間分解測定を行なうことにより、励起の生成(図4のA)と消滅(図4のB)の信号を明瞭に分離して測定することが可能になった。同研究グループは、試料内部で高周波のプラズモン信号を発生し検出する方法を開発し、プラズモンの時間発展を80ピコ秒(ps、1psは1兆分の1秒)ごとに観測・評価することに成功した。

図4: プラズモン波束の時間分解測定による朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の観測結果。Aは励起の生成、Bは励起の消滅にともなって発生したプラズモン波束の信号を表す。図4: プラズモン波束の時間分解測定による朝永-ラッティンジャー流体の励起素過程の観測結果。
Aは励起の生成、Bは励起の消滅にともなって発生したプラズモン波束の信号を表す。

今後の展開

 この観測結果は、2つの一次元プラズモン回路を近接することにより、両者の間での信号伝達が可能になったことを意味する。それにより、複数のプラズモン回路を集積化して機能的な回路を構成することが可能となった。さらに、出力波束の大きさや波形、出射のタイミングは、回路間の結合を制御することにより可変であり、出射信号に機能性を持たせることが可能となった。同様の一次元プラズモン回路は、半導体やグラフェンなど様々な材料でも実現することができ、一次元プラズモン回路を用いた共振回路や遅延制御器などを、本成果によって得られた集積化技術によって組み合わせることにより、ギガヘルツからテラヘルツ領域で動作するプラズモン集積回路に応用することが可能である。超高速情報処理デバイスや、ギガヘルツ〜テラヘルツ帯のブロードバンド通信技術、テラヘルツ光のイメージング処理への応用が期待される。
 この研究は、日本学術振興会特別推進研究「半導体量子構造による電子波束のダイナミクス」(研究代表者:藤澤利正)、日本学術振興会特別研究員奨励費「半導体ナノ構造を用いた高周波量子輸送特性に関する研究」(研究代表者:鎌田大)、文部科学省グローバルCOEプログラム「ナノサイエンスを拓く量子物理学拠点」(拠点リーダー:斎藤晋)の援助を受けた。

用語説明

  1. 朝永-ラッティンジャー流体:通常の伝導体では素電荷eの電子の運動が重要であるが、一次元伝導体では有効電荷(用語5)e*をもつ電子集団の運動が支配的であり、その電子集団を朝永-ラッティンジャー流体という。1950年に朝永振一郎博士によって、1963年にホアキン・マズダク・ラッティンジャー博士によって、理論が構築され、様々な一次元伝導体(カーボンナノチューブや量子細線など)でその存在が確認されている。しかし、電子またはプラズモンが朝永-ラッティンジャー流体に変化する素過程は今まで観測されておらず、その基本的性質を正しく調べることはできなかった。
  2. 量子ホールエッジチャネル:強磁場中の二次元電子系の試料端に沿って形成される一次元一方向伝導チャネル。電子が伝播する方向は磁場の向きによって一方向に決まり、原理的に逆方向に伝播することがないため、優れた性能を示すことが様々な実験によって明らかにされている。
  3. プラズモン:電子の密度の濃い部分・薄い部分が波のように伝搬する電子の集団運動。プラズモンの応用研究分野は、エレクトロニクスやフォトニクスに対応して「プラズモニクス」と呼ばれる。
  4. 時間分解測定:量子ホールエッジチャネル上のプラズモン波束の電荷量が時間とともに変化する様子を測定する手法。プラズモンは電子密度の粗密波であるから、量子ホールエッジチャネルの電荷量に比例した信号(電流)の時間変化を測定することにより実現した。
  5. 素電荷・有効電荷:電子のもつ電荷を素電荷(e = 1.602×10-19クーロン)という。素電荷eの電子を朝永-ラッティンジャー流体に入れようとしても、その素電荷より小さい電荷量の励起しか発生しない。この電荷を有効電荷とよび、素電荷eより小さくなりうる。有効電荷が素電荷と異なることによって、朝永-ラッティンジャー流体特有の物理現象が発生する。

論文情報

Fractionalized Wave Packets from an Artificial Tomonaga-Luttinger Liquid,
H. Kamata, N. Kumada, M. Hashisaka, K. Muraki, and T. Fujisawa,
Nature Nanotechnology (2014) | doi:10.1038/nnano.2013.312

本件に関するお問い合わせ先

東京工業大学

大学院理工学研究科 物性物理学専攻
教授 藤澤利正
E-mail:fujisawa@phys.titech.ac.jp
TEL:03-5734-2750
FAX:03-5734-2750

東京工業大学

大学院理工学研究科 物性物理学専攻
博士研究員 鎌田 大
E-mail:kamata.h.aa@m.titech.ac.jp
TEL:03-5734-2809
FAX:03-5734-2809

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
E-mail:a-info@lab.ntt.co.jp
TEL:046-240-5157
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